第十一話:分岐点
――閃光。
遅れて、衝撃。
世界が、弾けた。
「伏せろ!!」
ハンター・マイケルの叫び。
同時に、体が動いていた。
マリー・ブラッドは反射的に地面へ飛び込み、転がる。
爆風が背中をかすめ、熱と破片が雨のように降り注ぐ。
耳鳴り。
視界が揺れる。
数秒――いや、もっとかもしれない。
やがて。
「……生きてる?」
マリー・ブラッドが低く呟く。
「なんとかな」
すぐ横から、ハンター・マイケルの声。
二人とも無事。
だが――
「今のは……」
振り返る。
アパートの入口付近が、抉れている。
爆発源は、外。
路地の先。
「狙われたな」
ハンター・マイケルが舌打ちする。
「タイミングが良すぎる」
マリー・ブラッドはゆっくり立ち上がる。
雨の中、煙が立ち昇る。
(未来予知……当たってる)
完全ではない。
だが、“死ぬ可能性”は確かにあった。
「……引き返す」
「だな」
二人はすぐに部屋へ戻る。
ドアを閉める。
中で待っていた男が、息を呑む。
「だから言っただろ……!」
マリー・ブラッドは濡れた髪をかき上げる。
「ええ、助かったわ」
素直に言う。
その一言に、男は一瞬だけ戸惑う。
「信じるのか?」
「全部じゃない」
マリー・ブラッドは男を見る。
「でも、“使える情報”は使う」
ハンター・マイケルが壁にもたれる。
「で、次は見えてるのか?」
男は、少しだけ沈黙して――言った。
「……分岐してる」
「分岐?」
「さっきの爆発で、未来が変わった」
マリー・ブラッドの目が細くなる。
「どう変わったの」
男は、震える手で頭を押さえる。
「二つある」
息が荒い。
「ここに留まる未来と……動く未来」
「結果は?」
「どっちも……」
言い淀む。
「良くない」
ハンター・マイケルが苦笑する。
「最悪だな」
「でも、違いはある」
男は続ける。
「留まれば、“包囲される”」
空気が張り詰める。
「動けば?」
「追われる。でも――」
一瞬、視線が揺れる。
「生き延びる可能性がある」
沈黙。
マリー・ブラッドは、窓の外を見る。
雨。
煙。
そして、どこかで動く影。
(もう来てる)
「決まりね」
振り返る。
「動く」
ハンター・マイケルも頷く。
「賛成だ」
男が驚く。
「そんな簡単に……」
「簡単よ」
マリー・ブラッドは淡々と言う。
「ここにいたら詰むんでしょ?」
「……そうだ」
「じゃあ出るしかない」
論理はシンプルだった。
だが――
男はまだ不安げだ。
「でも、追われるって……」
「慣れてる」
ハンター・マイケルが軽く言う。
マリー・ブラッドはコートを羽織る。
「あなたは?」
男を見る。
「来るの?」
少しの間。
そして――
男は、ゆっくり頷いた。
「……行く」
「いい判断ね」
マリー・ブラッドはドアに向かう。
だが、その手が止まる。
「一つだけ」
振り返る。
「あなた、名前は?」
男は一瞬だけ迷って――答えた。
「ユウ」
「ユウね」
マリー・ブラッドは小さく頷く。
「私はマリー・ブラッド。こっちはハンター・マイケル」
ハンター・マイケルが軽く手を上げる。
「よろしくな、“未来屋”」
ユウは苦笑する。
「そんな大層なもんじゃない」
「これからなるかもよ」
マリー・ブラッドが言う。
そして――
ドアを開けた。
雨は、まだ強い。
だが、もう躊躇はない。
「行くわよ」
三人は外へ出る。
その瞬間。
遠くで、サイレン。
そして――
複数の車のライトが、路地に差し込む。
「早速お出ましか」
ハンター・マイケルが笑う。
ユウが呟く。
「……見た通りだ」
マリー・ブラッドは、前を見据える。
「なら――」
その目は、鋭い。
「見てない未来に変えるだけよ」
雨の中、三人は走り出す。
追跡の光を背に。
まだ確定していない“先”へ。




