第十話:予知の檻
モニターの光が、暗い部屋を照らしている。
無数の画面。
街の至る所。
交差点、ビルの入口、屋上、路地。
「……いた」
マリー・ブラッドが呟く。
画面の一つ。
古びたアパートの一室。
カーテンの隙間から、男の姿が見える。
「随分、普通だな」
ハンター・マイケルが肩をすくめる。
「だから厄介なのよ」
マリー・ブラッドは視線を外さない。
「“普通”の中にいるから、見つけにくい」
男は、机に向かっていた。
紙。
ペン。
何かを書いている。
止まらない。
まるで、書かされているかのように。
「様子がおかしいな」
「ええ」
マリー・ブラッドはズームを指示する。
画面が寄る。
男の顔。
青ざめている。
目の焦点が合っていない。
そして――
「……来る」
小さく、呟いた。
ハンター・マイケルが眉をひそめる。
「何がだ」
その瞬間。
男が、勢いよく顔を上げた。
真っ直ぐ――カメラの方を見る。
「見えてるのか……?」
ハンター・マイケルが低く言う。
マリー・ブラッドは、即座に判断した。
「行くわよ」
―――――
雨は、強くなっていた。
車が止まる。
古びたアパートの前。
ネオンも届かない、薄暗い路地。
「静かに行くぞ」
ハンター・マイケルが銃を確認する。
「今回は殺すな、でしょ」
「分かってる」
二人は階段を上る。
軋む音。
三階。
問題の部屋の前。
「……いる」
気配がある。
だが――
「開ける」
マリー・ブラッドがノブに手をかける。
その瞬間。
中から、声。
「遅い」
二人は止まる。
マリー・ブラッドが、ゆっくりとドアを開けた。
男が、立っていた。
逃げる様子はない。
むしろ――待っていた。
「やっと来た」
その目は、先ほどと違う。
はっきりと、意識がある。
「……あなたが“見える”人?」
マリー・ブラッドが問う。
男は、少し笑った。
「そう呼ばれてる」
ハンター・マイケルが警戒を強める。
「逃げないのか」
「逃げても意味がない」
男はあっさり言う。
「どうせ、ここで会う未来だった」
沈黙。
マリー・ブラッドは一歩踏み出す。
「なら話が早いわね。来てもらう」
「いいよ」
即答。
あまりにもあっさりしていた。
ハンター・マイケルが逆に怪しむ。
「……条件は?」
男は、少しだけ考えて――言った。
「一つだけ」
「何?」
男は、まっすぐマリー・ブラッドを見る。
「“今日、ここを出るな”」
空気が凍る。
「どういう意味?」
「そのままの意味だよ」
男は窓の外を見る。
激しい雨。
ネオンが滲んでいる。
「外に出た瞬間――」
少しだけ、言葉を切る。
「あなたたち、死ぬ」
ハンター・マイケルが舌打ちする。
「脅しか?」
「違う」
男は静かに首を振る。
「もう見た」
マリー・ブラッドは、男を見つめる。
嘘をついている目ではない。
だが――
「理由は?」
「分からない」
「は?」
「映像みたいに見えるだけだ」
男はこめかみを押さえる。
「断片的に。順番もバラバラだ」
息が荒い。
「でも、“結果”だけは分かる」
沈黙。
雨音だけが響く。
ハンター・マイケルが小さく言う。
「どうする?」
マリー・ブラッドは、少しだけ目を閉じる。
考える。
――信じるか。
――無視するか。
「……一つ聞くわ」
目を開ける。
「ここにいれば助かるの?」
男は、少しだけ笑った。
「それも分からない」
「じゃあ意味ないでしょ」
マリー・ブラッドは即答した。
ハンター・マイケルがニヤリとする。
「だな」
男が焦る。
「待て、外は――」
「行くわよ」
マリー・ブラッドは背を向ける。
ドアへ向かう。
男の声が背中に飛ぶ。
「本当に死ぬぞ!」
マリー・ブラッドは、止まらない。
「未来なんてね」
ドアノブに手をかける。
「当たるかどうかでしょ」
開ける。
冷たい雨風が吹き込む。
一歩、外へ。
その瞬間――
遠くで、甲高い音。
ハンター・マイケルが反応する。
「……来るぞ!」
マリー・ブラッドの目が細くなる。
(これが、“未来”……?)
次の瞬間。
――閃光。




