表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄した王太子の余命はあと三日でした ~私を生かすために死ぬなんて聞いていません~  作者: 夜炎 伯空


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/3

第1話『婚約破棄した王太子が血を吐いた』

 婚約破棄されたその日。


 私は知らなかった。


 王太子ティベルトが――私を生かすために死のうとしていたことを。


   ◇


「本日をもって――」


 そこでティベルトが咳き込んだ。


 白い手袋が赤く染まる。


 だが彼は誰にも見せないよう握り潰した。


「レティシア・ヴァレンティアとの婚約を破棄する」


 王城の大広間に声が響いた。


 ざわめきは起きなかった。


 歓声もない。


 誰も喜んでいなかった。


 私はゆっくりと顔を上げる。


 玉座の前に立つ王太子ティベルト。


 その姿を見た瞬間、息を呑んだ。


 顔色が悪い。


 異常なほどに。


 頬は痩せ。

 

 唇から血の気が失われている。


 胸がざわついた。


 何かがおかしい。


 私が知るティベルトはこんな人ではない。


 誰より強く。


 誰より誇り高く。


 王国の誰もが次代の名君と信じていた人だった。


 なのに今は。


 まるで死を隠して立っているように見えた。


「レティシア・ヴァレンティア」


 名前を呼ばれる。


 私は背筋を伸ばした。


 しかしティベルトは私を見ない。


 一度も。


 視線を合わせようとはしなかった。


「君を王都より追放する」

  

 会場がざわめく。


 宰相が前へ出た。


「レティシア・ヴァレンティア嬢は王太子妃として不適格である」


 淡々と罪状が読み上げられる。


 幼馴染エミリカへの嫌がらせ。


 王妃教育の放棄。


 王家への忠誠心の欠如。


 ――全て嘘だった。


 反論はできる。


 証人もいる。


 だが。


 私は口を開かなかった。


 それ以上に、ティベルトの体調が心配だったから――


 余計なことは言わずに静かに頭を下げた。


「承知いたしました」


 場内が静まり返る。


 やがて。


 一人の少女が前へ出た。


 エミリカ。


 私と同じティベルトの幼馴染。


 次期王妃として紹介された。


 その彼女もまた泣きそうな顔をしていた。


 そして小さく呟く。


「どうしてそこまで……」


 聞き取れはしなかったが、何故かそう言っているような気がした。


 誰も幸せそうじゃない。


 願われていた婚約破棄が決まったのなら。


 もっと喜ぶべきではないか。


 むしろ、誰かの葬儀のようだった。


 違和感だけが膨らんでいく。


 それでも――


 追放が変わるわけではない。


 王都での私の役目は終わったのだ。


 私は一礼し。


 大広間を去ろうとする。


 その瞬間だった。


 ガシャン!!


 激しい音と共に悲鳴が鳴り響く。


 私は思わず振り返った。


 そして凍りつく。


「……ティベルト?」


 ティベルトが壇上で倒れている。


 エミリカと王妃が叫び、医師達は急いで駆け寄った。


「殿下!」


「進行が早すぎる!」


「すぐに医務棟へ運ぶ準備を!」


 会場は一瞬で混乱に包まれた。


 その中で――


 私の目は別のものに釘付けになった。


 床を転がる婚約指輪。


 それは外されたと思っていた指輪だった。


 内側には私の名前が刻まれている。


 ティベルトは最後まで握りしめていたのだ。


 胸が締めつけられる。


 ……私を嫌いになったのではなかったの?


 その時だった。


 ティベルトがゆっくりと目を開く。


 婚約破棄後――初めて視線が重なった。


 その瞳は。


 泣きそうなほど優しかった。


 かすかに唇が動く。


「よかった……君は、生きろ――」


 そう言い残して、彼は意識を失った。


 私は知らなかった。


 この婚約破棄が。


 私を捨てるためではなく。


 私を生かすためのものだったことを。


 そして三ヶ月後――


 辺境伯領へ訪れたエミリカは、私にこう告げた。


「殿下は、あなたを生かすために死のうとしたの」


 その時の私はその意味を理解できなかった。


 けれど次の言葉で。


 世界が止まった。


「殿下の余命は――あと三日よ」


 エミリカは泣きながら答えた。


「あなたが生きる代わりに、殿下が死ぬ運命になったから」


 王家に伝わる《運命の書》。


 その一冊が、私たちの未来を狂わせたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ