第三話 初めての空
翌朝、家族で最後の朝食をとり、家を出ようとしたとき、ドアをノックする音が聞こえる。ロランはリュックを抱えたまま、玄関のドアを開けた。そこにはギルドマスターと領主が立っていた。
「朝早くすまないな。ロラン…その格好は…街を出る決断をしてくれたんだな。」
「はい!俺はこの街を出ていきます。でも、これは自分の意思です。いい機会なので外の世界を見てこようと思って…。」
ロランも本当は出ていきたくないと言いたかったが、ここでも強がりを見せて、家族に心配かけないように振る舞っていた。
「そうか…。街の出口で待っておる。家族とじっくり話をしてから出てきなさい。」
そういうと、ギルドマスターは出ていった。冷酷と言われるギルドマスターも人の心を持っていたようだ。ガチャリとドアを閉めて、家族に最後の挨拶をすることにした。
母はすでに涙を流していた。
「ロラン、元気でやっていくのよ。必ず、探しにいくからね。この子が産まれたら、必ず…。ロラン…左手を出して…。」
ロランはそっと左手を出した。すると母は静かに泣きながらギルドリングの上からサラシを巻き始めた。
「いい?ロラン…きっと…このリングは他の人に見せると…この街みたいに変な扱いされてしまうかもしれない。そうならないためにも、サラシは取らないで。お願いよ…。必ず探しにいくからね。」
「大丈夫だよ。俺一人でも、やっていけるよ。心配しないで!」
「うっ、、、うっ、、、ごめんね。ごめんね。」
母はロランを抱き上げ、ずっと泣いていた。
「ほら、お弁当と水筒も持って行けよ。あと、母さんが準備してくれていた着替えもリュックに詰めろ。他に、忘れ物はないか?気を付けていってこい!母さんたちの事は俺に任せな!ちゃんと手紙も書くんだぞ。」
父は小さく震えながら、いつも通りの父の姿を見せてくれていた。ロランの中で家族との別れが一番つらいことだった。泣きそうになりながら、一生懸命リュックに詰めた。
「それじゃ…行くね…。父さん母さんありがとう…元気でね…。」
ロランは最後の挨拶をして、母のお腹にも手を置いて、頭の中で伝えた。
(きっと、また会える。元気に育てよ。)
「いってきまーす!!」
ロランは元気よく街の入口へと走っていった。入り口で待つギルドマスターの元へ。家が見えなくなるまで走り続け、その後、薄明かりの街並みをゆっくりと歩き、入口へと向かう。ロランは生まれ育った街を忘れないように目に焼き付けていった。石で舗装された道、両サイドには家が立ち並び、入口の階段まで続いている。ランタンがぼんやりと灯し、この街を照らしていた。
入口へと続く階段が見えた時、ギルドマスターが前に立ってロランの事を待っていた。駆け足でロランは近付く。
「ロラン、ここからはお前の人生だ。何処へでも行くがよい。皆を守る為とはいえ、この街を出る決断をしてくれたこと、感謝しておる。」
そういうと、ギルドマスターは言葉に詰まり、少しの間沈黙が続いた。
「…………本当に…すまない…。」
普段の冷酷な表情とは裏腹に少しだけ悲しさや不甲斐なさが伝わってきた。ロランは目を見開き、驚いていた。ギルドマスターのこんな表情を初めて見たのだ。この時、ロランは初めて、ギルドマスターの本当の顔を見たような気がした。
「それじゃ、行きます。また、どこかで…。」
入口に続く階段を一歩一歩昇っていく。整備された石畳の階段の先はかなり遠く、終わりが見えないほどだった。ベルトの道具たちもカチャンカチャンと音を鳴らしながら、ゆっくりと進んでいった。すると、誰かの叫ぶ声が聞こえた。
「ロラン!…気を付けて…。グス…きをつけて…。」
両親が見送りに来てくれていた。身重な母をリヤカーに載せて、父が連れてきたらしい。息が上がっている父の後ろで母が叫んでいた。母は泣き崩れながら、ロランを見つめていた。
「いってきま――――す!!みんなも元気でね―――――!!!!」
ロランは一生懸命大声で叫んだ。そして、後ろを振り返らず、階段を上っていく。その時、ロランの頭の中はこの街での、沢山の思い出が映像として流れていった。涙を流すのを堪えて、思いっきり階段を走り抜けていった。息が上がりながら、最後の一段を登り切った。
「くそーーーーーーー!!!!!」
(負けて堪るか…絶対に…生き延びてやる…)
ロランは唇を嚙み締めた。理不尽な追放に憤りを感じていた。ただ、それを誰かに見せることはなかった。街の古文書に従っただけ。それ自体はロランも理解していた。しかし、怒りの矛先を誰に向けるべきかがわからなくなっていた。
平坦の道を歩いていくと大きな門があった。中には武装したドワーフ兵士が門の前に立っていた。ロランが近付いていくと、大きな音を立てて重そうな扉を下ろしてくれた。
突然の強い光がロランを襲った。それはもう、目が開けられないほどだった。そして、地下とは違い、気温も上昇していた。目を瞑っていても、光を感じる。ロランは初めての外界に恐怖を覚え、うずくまっていた。
「おい、大丈夫か?立てるか?」
ロランは片目ずつ目を開けてみた。しかし、そこにはドワーフの形をした影しか見えていなかった。
「うわぁーーーーーー!!!!!?????」
「おい、大丈夫か?」
ドワーフ兵士はロランに寄り添い心配をする。ロランはようやく目が慣れて、ドワーフ兵士であることを認識した。初めての外界で眩しい光なんて見ることが無かった。
「おじさん、すみません…。ビックリしちゃって…。」
「初めての外だから仕方ないよな。立てるか?」
ドワーフ兵士の腕を借りて、立ち上がった。
「ギルドマスターから話は聞いている。門を抜けたら、外界だからな。門の前まで連れて行ってやるから。ついて来い!」
ドワーフ兵士の後ろをゆっくりと付いていった。光が辺りを照らしていた。
「な…なんだ…これ……???」




