第十四話 差別しない者たち
ロラン達は宿屋の裏庭へと戻って来た。すると、そこには灰狼の牙のメンバーが洗濯をしていた。
「よぉ、ロランじゃねぇか。元気か?」
「リクさんたちは洗濯?どこか依頼で行っていたの?」
「ちょっと簡単な討伐依頼にな。返り血で汚れちまったから洗濯しているんだ。」
灰狼の牙のメンバーは相変わらず優しく接してくれていた。
「ところで、その人は…?ドワーフ…?一人でも珍しいのに二人目がいるとはな…。」
「あぁ、ゲイルって言うんだ。今朝、倒れていたから、助けたんだ。」
「ロラン、相変わらず優しいな。安心した。それにしても…ロランと雰囲気が全然違うな。大丈夫なのか?そいつ…。」
ゲイルはずっと睨みを利かせていた。ゲイルは人間を信用していないのが、ここでも、顔に出てしまっていた。
「どうせ、お前らも俺たちを騙そうとしているんだろ!?許さねぇからな!!」
ゲイルは胸ぐらをつかみ突っかかっていた。慌てたロランは制止しようと近くに寄ったが、その時、リクの手によって、ゲイルは吹き飛ばされていた。
「何するんだ!!急に!?ちょっとは落ち着け!!!」
ゲイルはむくっと立ち上がり、さらに目がつり上がっていた。
「ゲイル、この人たちはいい人たちだよ!やめてよ!戦わないで!」
ロランは今までの事を灰狼の牙に話をした。街の人から蔑まれたこと、心のない言葉を向けられたことを。そのせいで、人間への信頼もなく、怒りの感情を持って強く生きなきゃならなかったことも話した。
「そうか…人間代表ではないが、俺から謝らせてくれ…すまなかった…。投げ飛ばして、悪かったな。」
「お、俺も、つい、カッとなって…。」
二人はお互いを認め合い、話をするまでになっていた。
「リクさん、どうして、俺たちに優しくするんだ?」
「急になんだよ…。俺は人種差別が嫌いなんだ。たとえ、人種が違っても環境が違っても無害なやつなら受け入れる。そういうスタンスの集まりが灰狼の牙なんだよ。誰でも受け入れるわけじゃねぇ、俺の目で確かめて判断したやつしか受け入れねぇよ。お前はロランの友達なんだろ?だったら、受け入れる!それだけだ。」
「リクさん、ありがとう!」
ロランが感謝した。灰狼の牙の優しさにホッとするロランとゲイル。全世界が灰狼の牙のように、人種差別のない世界になってほしいと願うロランだった。
「そういえば、名前は?」
「ゲイルです…。突っかかってすみませんでした。」
ゲイルは反省をしていた。短時間で会話をしただけだが、灰狼の牙の人となりが見えてきたのだろう。敵ではないことを自覚し、顔つきも柔和になっていった。
「ゲイルはここに泊まっているのか?」
「それが…色々あって…マスターに止められているんだ。」
「そうか…今夜はどうするんだ?ここで寝るのか?」
「明日、換金するまではこの場所だな。まぁ、仕方ないよな。」
「そうか、ゆっくりできるといいな。」
灰狼の牙は洗濯が終わったようだ。ワイワイと裏庭を立ち去っていった。
静かになった裏庭はロランとゲイルの二人だけとなった。ガンテは土に潜って楽しそうに遊んでいた。
「キュィ♪」
ロラン達は翌日のことについて、話し合っていた。
「ゲイルは冒険者ギルドに入ったら、どんな依頼やりたい?」
「そうだな、とりあえず戦いたいかな。そして、仲間を守れる強さを持ちたい。俺は街の皆を守れなかったからな。今度こそは負けない強さが欲しい。」
「凄いなぁ、ゲイルは。俺も頑張るよ。戦い方を俺は知らなすぎる。この2、3日で自分の弱さを痛感したんだ。リーフェルの街に来るまでに沢山の魔獣と遭遇した。灰狼の牙の皆がいてくれたからたどり着けたんだ。」
「そっか。あいつらはロランを守ってくれていたんだな。それなのに…俺は…なんという事を…。」
「仕方ないよ。悪い人間ばかり見てきたならなおさらさ!でも、いい人間もいるのは事実なんだ。俺は灰狼の牙みたいに差別もしない、仲間思いのドワーフでいたいと思ったんだ。」
「悪い人間の真似だけはしないように俺も頑張りたいなぁ…。」
「ゲイルは、出来るよ。俺が保証する!」
「子供に言われてもなぁ…。」
そう言いながらも、ゲイルは嬉しそうに語っていた。
「なぁ、ちょっと散歩に行かねぇか?街の中じゃなくてさ、海の方に行こうぜ!」
「ゲイルはもう体大丈夫なの?」
「あぁ、昔から回復だけは早いんだよ。俺の体は頑丈が取り柄だからよ!」
ロラン達は海に散歩に出かけた。潮の香りがどんどん強くなっていく。水平線に向かって太陽が傾いていくのが見えた。二人は砂浜を歩きながら、ロランが初めて行った採掘場にも足を延ばしていた。入り口には入れないように看板や封鎖のための板が打ち付けられていた。
「ここ、昨日、俺が鉱脈を見つけてさ。調査するとかで入れなくなっちゃったんだよね。」
「そうか…。それは残念だったな。ん?残念?鉱脈見つかって喜ばしいことなのに、なんでこの言葉が出てきたんだ?わりぃ。」
「あながち間違ってないよ。この採掘場で毎日の採掘が出来なくなったんだから。他にも採掘場があるから、そっちに行けばいいけどね。ねぇ、明日、ギルド登録したら一緒にやろうよ。」
「おぅ、それは楽しみだな。」
「キュィ。」
ガンテも嬉しそうだった。
二人は散歩をしながら、穏やかに沢山の話をして、それぞれの興味や考えなどを伝えあっていた。そして、再び、裏庭へと帰っていったのである。
「ロラン、俺はここに野宿しているから、お前は部屋に戻れ。俺のことは大丈夫だから。せっかく部屋を借りているんだろ?使わないなんて勿体ねぇよ。」
「いや…でも…ゲイルは本当に大丈夫?」
「勿論だ。静かにここで大人しく寝てるよ。」
ロランは静かに頷いた。裏庭をあとにしたロランは部屋へと帰ってきた。今日の出会いがロランにとっても、仲間が増えた気がして心強く思っていた。
「ガンテ、今日は色々なことがあったな。でもゲイルに出会えてよかったな。」
「キュィ♪」
「風呂に入って寝るか。ガンテお留守番頼むな。」
大浴場へと向かった。相変わらず、ドワーフに対する視線が痛い。だが、今日のロランはいつもとは違った。ゲイルのお陰で、なんだか強気でその場の雰囲気にのまれずに過ごす事が出来ていた。無視さえしておけば、害はないだろうと考え、のんびりと大浴場を楽しむことにした。すると、そこに一人の若い青年が話しかけてきた。
「君、ドワーフ族だよね。旅行?家族の方は?」
「あ、はい…ドワーフです。珍しいですよね?…一人で旅をしています。」
「一人で旅かぁ。大変だなぁ。この街も楽しんでいってな。」
「あ…ありがとうございます。」
その青年はロランにそう言い放つと大浴場から出て行ってしまった。ロランは不思議な顔をしていた。名前も知らないあの人はドワーフ差別をするわけでもなく、声を掛けてそそくさと出て行ってしまったのだから。
(なんだったんだ…?あの人…?)
ロランは体を洗いながら考えてみるも、よくわかっていなかった。
大浴場を出て、体もさっぱりしたロランは部屋へと戻っていった。部屋の中ではすでにガンテがベッドの上で寝ていた。ガンテを起こさないように静かに布団に入りロランも就寝した。
明日はギルド登録と依頼、どんな旅になるのか楽しみである。




