第十三話 山岳ドワーフ
「宿屋のマスターに話しをしてみるから、一緒に行こう!俺は放っていかない!絶対に助けるんだ!」
ロランは肩を貸し、ヨロヨロと宿屋へ向かっていく。宿屋に到着すると早速ロランはマスターに経緯を話し、青年ドワーフも泊めさせてもらえないかと頭を下げて懇願する。
「マスター!お願いします!一泊だけでもお兄さんを泊めさせてあげてください!」
「そんなこと言われてもなぁ…。お金持っていないんだろ?」
「このままじゃ、倒れてしまいます。お願いします。」
必死にロランはマスターに頭を下げた。すると、マスターは渋々口を開いた。
「部屋を貸すことは出来ないが、裏庭の洗濯場なら好きに使ってくれ。その匂いをまず何とかしろ…。」
ロランは少しだけホッとした。同じドワーフ族を守れたような気がしていた。ロランと共に青年ドワーフは洗濯場へといった。
「お兄さん、服脱いで!」
「でも…」
「いいから、いいから。早く脱いで!」
ロランは青年ドワーフのために服を洗濯した。ロランが洗濯している間に、青年ドワーフは自分の体を洗剤で洗い流した。全身、洗い流すと茶色い水でタライの中の水は一杯になっていた。青年ドワーフは体を洗い流している間にみるみる元気になっていった。ドワーフ族の回復力は人間よりも優秀だった。
「お兄さん、服が渇くまではこの布被っていて。」
ロランは近くにあった大きい布を青年ドワーフに渡した。青年ドワーフは最初に出会った時よりも優しい顔つきになっていた。
「お前、そういえば、名前は?」
「俺?ロラン。ロラン=オージャー。炉都グランバルド出身。お兄さんは?」
「あぁ、地下都市のドワーフか…。俺はゲイル。ゲイル=ボルガン。山岳都市バルグロア出身。」
「バルグロア?初めて聞く名前だ。ドワーフが山に住んでいるの?」
「あぁ、バルグロアは地下都市と違って、山の上で生活していたんだ。だけど…街は崩壊寸前…飢餓で何人も死んだ…俺の両親も…。俺は街を捨てたんだ…」
「…………。」
ロランは上手く言葉が出てこなかった。ロランとは違い、死に物狂いで生きるために街を出たんだ。そう思うと胸が苦しくなった。
「ロランは何でここに来たんだ?地下都市のドワーフは閉鎖的で、街を出るなんてことあり得ない。」
「そ、それは…。」
青年ドワーフに本当の事を話すのをためらっていた。しかし、ロランは決心をして打ち明けた。手首に巻いたサラシを静かに外した。
「原因はこれなんだ。このギルドリングが災いを引き起こすとかで街を追放されたんだよ…。」
「そうか、お前も色々あるんだな。でもよ、おかしいな。俺たちの街では黒いリングは災いとかではないはずだけどな…。」
「え!?」
「あぁ、確か俺たちの街の言い伝えでは新たに開かれるとか何とか…まぁ、俺もよくわかってないんだけどな。」
ロランは驚愕した。もし、そのことが本当ならば根底が覆される大事件だ。しかし、まだ信憑性は低い。全部を信じ切ることは出来なかった。
「ところで、ゲイルさんはどうしてギルドリングしてないの?」
「ん~、俺たちの街では自給自足で食料を確保していたから、ギルドは必要なかったんだよ。」
「これからどうするの?もし、街に住むんだったら、ギルドに入った方がよくない?お金は必要だしさ。」
「そうだな。どこかでお金を調達して、登録してもいいかもしれないな。」
二人は今後のことについて話し合っていた。その横で、ガンテは静かに一人遊びを楽しんでいた。
「ところで、お前のペット?名前はなんていうんだ?」
「従魔だよ。岩モグラのガンテ。こいつすげぇんだ。」
「キュィ。」
「ガンテか。よろしくな。」
「キュィ♪」
ゲイルはガンテの頭を撫でて、優しく接してくれていた。
洗濯物は少し乾いたようだ。天気のいい晴れの日に干した洗濯物は気持ちいい肌触りをしていた。
「ロラン、これからゲイルでいいぜ!」
「え?いいの?じゃ、ゲイル!明日、冒険者ギルドと商人ギルドに行かない?」
「え?でも、登録料がいるんだろ?俺、ドワーフ銀貨3枚しかねぇから使えないんだ。」
「それだけ持っていたら十分だよ。換金できるからさ!」
「そうなのか?街では使えないって言われてご飯も買えなかったんだぜ。」
「大丈夫、大丈夫!行こうよ!」
ロラン達は他愛もない話をして、お互いに信頼を深めていた。明日、ギルドに登録に向かう。今日はゲイルの回復を待つためにゆったりと過ごすことにした。
ちょうど、お昼になり、買い物に向かうことにした二人。昼食は街の屋台で買うことにした。
潮の香りと調理した香ばしい匂いが二人のお腹をさらに空かせる。
「ロラン、銀貨の換金がギルドで出来るといっていたな。まず、そこに行かないと俺、何も買えないや。」
「今日は、良いよ。俺が払うからさ。明日返してくれればいいから。」
「いいのか?俺、結構食べるぞ。」
「いいって、いいって。好きなもの食べなよ。」
ロランはゲイルのためにやってあげたいと思った。同じドワーフ族に会えたのが嬉しくて仕方なかった。屋台の前を何回も往復し、ロランは決めた。先日食べたナッポリに似ているヤーキソンにした。ヤーキソンはナッポリとは違い、ソースで味付けされているようだ。オークの肉と野菜が入っている。香ばしい香りが食欲をそそった。
「ゲイルこれにしよう!」
「あぁ、ロランの好きなやつ選んでくれていい。…けど、大盛にしてもいいか?」
「うん。そんなに遠慮するなって。大盛にしてもらおう。」
「おじさん、ヤーキソンを2つ!1つは大盛りに出来る?」
「お、珍しいドワーフか。大盛は出来るぞ任せときな。」
「ありがとう、おじさん。」
「普通盛で銅貨4枚、大盛で銅貨5枚だ。」
「はい、銀貨1枚でいい?銅貨の手持ちがなくて。」
「あぁ、構わんよ。銅貨1枚のお返しね。ありがとう。」
美味しそうな香りのヤーキソンにたまらず、道端で食べることにした。二人は無我夢中に食べた。アツアツのヤーキソンの香ばしいソースの味が二人とも好きだった。ヤーキソンを食べ終わり、満足の二人はその場所で店を眺めていた。少し離れた場所にヤーキソンの店もある。二人で雑談しながら、座っていると、突然、ゲイルの顔が険しくなった。
「おい、ロラン!ヤーキソンの店を見てみろ!」
突然のことで、ロランも慌てて見てみた。すると、そこで、店主とお客さんの会話が聞こえてきた。
「これで、銅貨2枚なんて安いわね。いいのかしら?」
「あぁ、大丈夫ですよ、奥さん。中に入っている具材は俺が自給自足で作っているやつばかりなんで、他の店よりも安くできるんですよ。」
「あら、それは助かるわ。」
ロランの手が止まった。騙されていたことに、気付いてしまった。ゲイルの顔はみるみる怒りへと変わり、今にも飛び出しそうになっていた。ドワーフというだけで、ここまで差別をされていることが悔しい。そして、虚しさもあった。静かに立ち上がり、ロランは宿屋へと帰っていった。ゲイルは異様な空気感にロランの後をついていくことしか出来なかった。
「キュィ…。」
ガンテも心配そうに見ていた。




