第十二話 ナッポリ
夜になり、宿屋近くの食堂へ向かった。今日の夕飯はそこで食べることにした。店に入ると大人たちが美味しそうに料理を食べていた。沢山の料理を目の前に悩んで、突っ立っているロランを見て店員が声を掛けてくれた。
「お客さん、ここは初めて?ペットは出入り禁止だから、外に出しといてもらえる?」
「え!?俺の相棒なんですけど…ダメですか?」
「決まりだからね…ちょっと待ってて。」
店員が店の奥で調理をしているマスターらしき人に確認を取ってくれていた。しかし、戻って来た時も訝しげな顔をして、ロランの方へ歩いてきた。
「やっぱり、動物はダメなんだって…だけど…。」
店員がこう言い放つと続いて、他のお客さんに聞こえないように小声で話してきた。
『マスターが裏にテーブル用意しておくから、そこなら一緒に入ってもいいって。みんなには内緒ね。』
ロランは小さく感謝の言葉を伝え、店を出ることにした。
「またのお越しを~。」
店員がみんなにバレない様に、挨拶をして、ロランは表口から裏口の方へとまわって向かった。裏口に行くと、そこには小さなテーブルと椅子が用意されていた。そこにマスターらしき人物がやってきた。
「すまんな。狭苦しい所で。俺も動物が大好きだから、本当は入店許可したいんだけど、周りの目がそうはさせてくれなくてな。」
「いえ、ありがとうございます。俺の従魔で岩モグラのガンテです。」
「キュィ♪」
「従魔!?ペットじゃないのか!?まぁ、悪さしなけりゃなんだっていいんだけどな。」
「悪さはしません。大人しく一緒に食事させますので。」
「君の名前は?ドワーフ族だから珍しくて、色々大変だろ?」
「ロランです。そうですね…ちょっと居心地が悪い時もあるけど、いい人間にも会ったし、ドワーフ族だから目立ってしまうんだよね?それは仕方ないと思った。」
「はぁ、なんというか考え方が大人だな。もっと子供らしくなっていいんだぜ?」
ロランはなんとなく、このマスターも優しい人なんだろうなぁと話をしながら感じていた。
「お金は持っているんだろ?おすすめでいいか?」
「はい、お願いします。」
ロランは人の優しさに触れて、なんだか心までも温かい気持ちになっていた。
裏口の特別席にも料理の香りがして、ロランのお腹も鳴っていた。しばらく待っていると、料理が届けられた。
「おらよ。お待たせ。ナッポリだ。」
「ナッポリ?」
「あぁ、この店の一番人気のメニューで、魚肉ソーセージに麵を絡めて、ケチャップで味付けした料理だ。朝の仕入れによって、貝が入ったり、エビが入ったりして、毎日味わいが違うから人気なんだよ。今日はエビの日だ。」
「美味しそう!ありがとう!」
「やっと子供らしくなったな。その顔をまた見せてくれよ。」
ロランは嬉しそうに頬張った。何がとかはわからないけど、とにかく美味しかった。ただ、フォークで食べる麺はロランには食べづらさを感じた。ツルツルと麺が逃げていく。グランバルドではフォークで麺を食べる習慣が無かったのだ。肉がメインのグランバルドで生活してきて、この麵料理はロランには新鮮さがあった。
「ごちそうさまぁ~!美味しかったぁ~!」
「おっ、綺麗に食べたな。ありがとな。え~と、ナッポリは銅貨3枚だな。」
ロランは麻袋から銀貨を1枚渡した。銅貨は今朝、使って残っていなかったからだ。お釣りをもらい、店を出ようとしたとき、マスターから声を掛けてもらった。
「また、いつでも来いよ。勿論ガンテを連れてきてもいい!この席は空けておくからな。」
ロランはその言葉が嬉しかった。街の人に認められたような気持ちになった。
「ガンテ、また、あの店に行こうな。」
「キュィ♪」
ロランはガンテと共に宿屋へと帰っていった。
翌日の朝、何やら人のザワザワした声で目が覚めてしまった。宿屋の周りはわりと静かな環境だったはずなのに、今日はひときわ人の声が響いていた。ロランは何事かと思い、声のする方へ確認に行った。するとそこには、砂浜で人だかりが出来ていた。
「こいつ、くせぇ…」
「動かない?…死んでんじゃないの?」
「ドワー…フ…??????」
一人の見物人がドワーフという言葉を発していた。その時、ロランはいてもたってもいられずしっかりと確認しようと人だかりをかき分けて、前に飛び出た。そこには一人のやせ細ったガリガリの青年ドワーフが倒れていた。辺り一帯、酸っぱい匂いというか、とにかくとんでもない匂いが充満していた。すると、ガンテが急にロランの肩から飛び降りて、青年ドワーフに近付いていった。
「ガンテ!!どうした!?」
「キュィ…キュィ!」
ロランも、そっと近づく。まだ息があった。浅いが呼吸もしている。ロランは慌てて、青年ドワーフに声を掛けた。その時、周りの見物人から心無い言葉も飛んできた。
「そんな汚いやつ触るなよ…。放っておけよ!」
「こんなとこで死ぬなよ…。」
ロランは見物人を前に思ったことを口ずさんだ。
「同じドワーフ族なんです!助けない訳にはいかないでしょ!!!!!」
見物人は静かに黙って見守っていた。ロランは必死に声を掛けていた。
「お兄さん…お兄さん…声聞こえる????」
「み…みず………」
「水だね。お兄さんちょっと待ってて。」
ロランは急いで宿屋の自分の部屋へと戻り、干し肉と水筒を手に取り、再び青年ドワーフの元へ向かった。その頃には見物人も減って、青年ドワーフの周りは静かになっていた。
「お兄さん!はい、お水!それに干し肉で良ければ食べて!!!」
「……がぶがぶ…ぴちゃ…モグモグ……ふぅ……ふぅ…」
青年ドワーフは少しずつ回復していき、残りの干し肉を全部平らげていた。少しだけ力が戻ってきた様子で、まだ弱々しさはあったが、砂浜の上に座るところまでは回復していた。
「お前、なんでこんなところに…おい…なんで…俺を助けた!」
「いや…なんでって、苦しそうだったから。」
「街の奴らは…俺の…事を触りもしなかった…それなのに…お前は。」
「同じドワーフ族だから!見捨てられないよ!」
ロランは必死に伝えようとした。だが、青年ドワーフの疲弊した心を開くことはまだ叶わなかった。
「俺のことは放っておいてくれ!でも、ありがとうな…」
「そういう訳にはいかないよ!とりあえず、海で体洗い流そうよ!」
「なんでだよ。いいんだ、俺はこのままで!」
「その格好じゃ、街にも入れないよ。俺はもう決めたんだ!お兄さんを助けるって…。」
「でも…俺が街に行ったら………いや、わかった…。」
青年ドワーフはロランの言うとおりにしようとロランの肩を借りて、海へもぐって、体と服を洗い流した。しかし、完全には匂いが落ちることはなかった…。




