第99話 vs.討伐軍 ㊳ -セラド戦-
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大変申し訳ありませんが、これからは毎日の投稿は難しくなると思います ( ; >ㅿ人)
拙い作品ですが、皆様に楽しんでいただけるよう頑張りますので、これからもご覧いただけますと幸いです。
「……あ、が……あ……」
その絶望的な光景を、広間の隅で、血だまりの中に這いつくばりながら見つめている男がいた。
ハイエルフの王子、セラド・ルナ・ファルシオンである。
ネムとの魔力的繋がりを強制的に切断されたことにより、精霊女王の召喚という規格外の精霊魔法による魔力の逆流が、すべて彼の肉体へと襲い掛かっていた。
全身を駆け巡る激痛により、まともに動くことはできない。
身体の内側から猛毒の炎で焼かれているような、地獄の苦しみであった。
だが、肉体の苦痛以上に、セラドの精神を崩壊させたのは、目の前で起きた『現実』である。
「そんな……バカな……」
セラドの喉から、血が混じり、しゃがれたような声が漏れる。
下等生物と見下していた魔物に、敗北したという事実。
己が最強と自負していた『精霊魔法』。
それも、精霊女王を召喚したうえでの完全なる敗北。
その何もかもが、受け入れ難いものであった。
「精霊に愛された……この僕が……。ハイエルフの王に、なるはずだった……この僕がぁ……」
セラドの命は既に尽きかけていた。
それほどまでに、精霊女王の魔力に蝕まれている。
生死の境を彷徨うセラドの瞳に映るのは、あの日の記憶。
世界樹の根元で起こったあの出来事。
兄の死体と父親の拒絶……。
あの日から、全てが狂いだしたのだ。
「父上……な、ぜ……」
セラドの口から、血が零れた。
「私、は……欲しい、ものを……取ろうとした、だけ……なのにぃ……」
バフォメットが、セラドを冷ややかに見下ろす。
「欲しいもんを全部貰えば、王になれるとでも思ってたのか?」
バフォメットは吐き捨てるように言った。
「笑わせんな。お前はただ、少し精霊魔法が使えただけの凡人だ。それ以上でも、それ以下でもねえよ」
「黙……れ……」
セラドが手を伸ばす。
感覚を頼りに、精霊魔法を出そうとする。
だが、何も起こらない。
火の精霊も。
水の精霊も。
土の精霊も。
風の精霊も。
彼の周囲には、もう誰もいなかった。
かつて、幼いセラドの周りを飛び回っていた精霊たちの光は、跡形もなく消えていた。
「いや、だ……ぼく、は…………」
最後の言葉は、掠れて消えた。
限界を超えていたセラドの肉体が、ついに終わりを迎える。
逆流し続けた魔力が彼の心臓を完全に破壊し、虚空へ向けられたセラドの手が、力なく床へ落ちる。
見開かれた双眸から光が失われ、その命は、冷たい地面の上で惨めに尽き果てた。
それが、Bランクパーティ『銀葉の魔術団』のリーダー。
ハイエルフの第二王子、セラド・ルナ・ファルシオンの死に様であった。
***
広間を支配していた異常なまでの魔力の残滓が、ゆっくりと霧散していく。
ダンジョンの空気がゆっくりと、元の冷たく湿ったものへと戻っていくのを感じた。
「終わった……」
俺は、その場にどさりと座り込んだ。
冷たい地面の感触が、今はひどく心地よかった。
鬼一が、静か『喰血』を鞘に納める。
ミロがネムを抱えながら、ボロボロ泣きながら喜んでいるのが見えた。
長かった。
だけど、俺たちは生き残った。
このダンジョンを、仲間を、守り抜いたのだ。
第一階層では、カーミラの吸血蟻たちが冒険者を喰い破り。
第二階層では、レイがリュネを焼き尽くした。
そして、第三階層では、鬼一が命を削って時間を稼ぎ、ネムの解呪をきっかけに、バフォメットが精霊女王を還した。
すべてが、紙一重だった。
一つでも噛み合わなければ、俺たちは死んでいた。
鬼一が近づき、片膝をつく。
ボロボロの身体の鬼一が、深く頭を垂れた。
「御屋形様。御采配、見事にございました」
「いや……今回は、本当にギリギリだった」
俺は乾いた笑いを漏らす。
心臓はまだバクバクしている。
手もいまだに震えている。
正直、格好つける余裕なんてない。
けれど。
「みんなのおかげだ」
その言葉だけは、自然に出た。
鬼一がわずかに笑った。
俺は天井を仰いだ。
「――俺たちは、勝ったんだ!」
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