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魔物合成で世界に抗う反逆譚~HP10の凡人おじさん、ダンジョンマスターになる~  作者: 藍之介
vs.『ダンジョン討伐軍』編

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100/108

第100話 vs.討伐軍 ㊳ -戦いの後-

記念すべき第100話!ヾ(≧∇≦*)/

長かった第三章もこの話を含めて、あと二話で完結です。

ちなみに、四章のプロットはまだ出来上がっていませんが……(;゜∀゜)

 振り返ると、アビスが俺の傍らに歩み寄ってくるところだった。

 兜の奥で青い眼光が優しく揺らいでいる。


『――皆の勝利ですな。見事な采配でございました』


「……ああ。アビスもお疲れ様。あいつらを守ってくれてありがとな」


『どうということはありません』


 ダークエルフの首輪を外した後、二人のことはアビスに守ってもらっていた。

 一人はまだ意識が戻っていなかったし、精霊女王ティターニアとの戦いに巻き込まれないように見てもらう役目が必要だった。

 俺がアビスの硬い装甲をポンポンと叩いて労っていると、今度は通路の方から、パタパタと軽い足音が駆け寄ってきた。


「マスターーーーーーッ!!」


 甲高い声が、通路の奥から響いてくる。

 レイだった。

 美しい蒼い髪はところどころ焦げ、翼もボロボロに見える。

 それでも、彼女は相変わらず眩しいほどの表情で俺へダイブしてくる。


「うおっ!?」


「マスター! 大丈夫!? ちゃんと生きてるよね!?」


 彼女は俺の身体のあちこちをペタペタと触り、無事を確認して心底安堵したように息を撫で下ろす。


『レイ殿。主は現在、極度の疲労状態にあります。お控えなされよ』


「えーっ!? ちょっとくらいいいじゃん! あたしだって頑張ったんだから!」


「ああ、ちゃんと見てたぞ。レイもよくやってくれた」


 俺はレイの頭をクシャクシャと撫でながら、心からの労いと共に笑いかける。

 レイは「えへへっ」と嬉しそうに目を細め、背中の翼をパタパタと揺らす。

 俺の仲間たちは、どいつもこいつも頼もしい魔物ばかりだ。


 そして、今回のMVPとも言える存在に、俺は視線を向けた。


「バフォメット」


「ひゃうっ!?」


 広間の隅っこで、なぜか岩の陰にしゃがみ込んでいたバフォメットが、ビクゥッ! と肩を大きく跳ねさせた。


「す、すみません! 勝手に広間の空気を吸ってました! あと、なんか色々壊れてる気がするんですけど、もしかして私ですか!? 私がやったんですか!? どうしよう……弁償なんてできませんよ!」


 ゆっくりとこちらを向いたバフォメットは、元の性格に逆戻りしているようだった。

 白と黒の長い袖で顔を覆い、ガタガタと震えながら後ずさりしている。


「いや違うって、……いや違わないか?」


「や、やっぱりいぃ……」


「弁償なんてしなくていいから!」


 俺はコホンと咳払いし、改めてバフォメットにお礼を伝える。


「本当にお前のおかげだ。お前がいなかったら、今頃俺たちは精霊女王に全員消し炭にされてた。……よくやってくれた。ありがとうな」


「私なんかが褒められる資格なんて……!」


「ある。めちゃくちゃある」


「わ、わざわざ褒めちぎって油断させてから、『だがお前はもう用済みだ』って言って、私の角をへし折る気なんですよね!? 知ってますぅ! 悪の組織の幹部がよくやる手ですぅぅ!」


「しねぇよ! なんでそんなひねくれた解釈になるんだよ!」


「ひぃぃっ! マスターが怒ったぁ! やっぱり殺されるぅ!」


 俺のツッコミにさらにパニックを起こすバフォメット。

 その様子を見ていたレイが、目をキラキラと輝かせて身を乗り出した。


「なにこの子、かわいいーーーーーっ!」


 レイは弾丸のような勢いでバフォメットへ飛びついていた。


「ねえねえ、その角触ってもいい!? 白と黒の服もオシャレでめっちゃいじゃん! 私、レイっていうの! よろしくね!」


「ひゃああああっ!? な、馴れ馴れしい陽キャが来ましたぁ! ダメです、触らないでくださいぃ! 私みたいな根暗には、眩しすぎますぅ!」


 レイは興味津々といった様子で、逃げ腰のバフォメットにグイグイと距離を詰めていく。


「あははっ、何言ってんの! ほらほら、ほっぺたプニプニ〜!」


「いやぁぁぁぁっ!」


 涙目で広間を逃げ回るバフォメットと、それを楽しそうに追いかけるレイ。

 戦いの緊張状態から解放されたことも相まって、俺は思わず笑ってしまった。


「……ふむ、ずいぶんと賑やかなことじゃな」


 不意に、階段の方から声が響く。

 第一階層を任せていた、カーミラがゆっくりと広間へ入ってきた。


「おう。お疲れ、カーミラ」


「……主もな。どうやら、戦には勝ったようじゃの」


 カーミラは、事切れたハイエルフの死体を一瞥いちべつした。

 そして、彼女の後ろから『巨大な影』が姿を現す。


「そうじゃ、……主に言われた通り、連れてきたぞ」


 カーミラの後ろから出てきたのは、大きな虎獣人の男だった。

 腕は動けないように、糸のような粘液で拘束されているようだった。

 身体中傷だらけといった様子だが、その両目には確かな闘志と生命力が宿っている。

 その後ろには、二匹のブラッド・アントが控えていた。


 そして俺の背後の通路から、二つの小さな影が弾かれたように飛び出してきた。


「ガルム!」


「ガルムの兄貴……ッ!!」


 ネムとミロが、喉が裂けんばかりの声を上げて駆け出す。

 そして、まだ体調が戻りきらず、フラフラとした足取りのネムも、ミロに支えられるようにして必死に前に進み出た。


「……ネム! ミロ!」


 駆け寄ってくる二人の無事な姿を見て、ガルムは信じられないものを見るように目を大きく見開いた。

 特に、ネムの細い首に視線が釘付けになる。

 そこにあるはずのものがない。

 あの忌まわしい『奴隷の首輪』が、跡形もなく消え去っているのだ。


 ガルムに飛びつこうとしたミロは、ブラッド・アントたちの前で一瞬足を止めた。

 恐怖があったのだろう。

 だが、それよりも早く、カーミラが指を鳴らした。


「よい。解いてやれ。逃げようとしたら、また簀巻きにすればよい」


 ブラッド・アントたちが、ギチギチと顎を鳴らしながら拘束を緩め、後ろに下がっていく。

 自由になったガルムの巨大な腕の中に、ミロとネムが飛び込む。


「お前たち……本当に無事、だったのか……!」


「兄貴ぃ……ッ! 死ぬかと思った、ほんとに死ぬかと思ったよぉ……!」


「ガルム! 生きててよかった、本当に……!」


 ミロは子供のように声を上げて泣きじゃくり、ネムはガルムの分厚い胸板に顔を埋めて、静かに、だがとめどなく涙を流し続けている。

 ガルムは、二人の背中を包み込むように強く強く抱きしめながら、その獣の相貌をくしゃくしゃに歪めて天を仰いだ。


「そうか……お前たち、よく頑張ったな。本当によく、生き延びてくれた……!」


 ガルムの目からも、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちる。


 俺は、その光景を少し離れた場所から見守りながら、胸の奥にじんわりと広がる温かい熱を感じていた。

 前世の俺は、漢字で書けば『凡人』と読める自分の名前をバカにされ、ただ群衆に埋もれるだけの、文字通り何者でもない取るに足らない男だった。

 誰かを救うことなんてなかったし、誰かに心から感謝されるような人生でもなかった。

 でも、今は違う。

 このふざけた異世界で、俺は俺の力で、この三人の絆を、命を守り抜くことができたのだ。


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