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魔物合成で世界に抗う反逆譚~HP10の凡人おじさん、ダンジョンマスターになる~  作者: 藍之介
vs.『ダンジョン討伐軍』編

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第93話 vs.討伐軍 ㉜ -セラド戦-

 バフォメットは、ビクッと肩を跳ねさせた。

 そして、白と黒の長い袖で自分の頭を隠すようにしゃがみ込み、ガタガタと激しく震え出す。


「ご、ごめんなさい! 私なんかが生まれてしまってごめんなさい! 叩かないで、怒らないでぇぇっ……!」


「えっ……?」


「息をしててごめんなさい! 私のような白黒の半端者が、マスターの視界を汚してしまって、本当に申し訳ありません! 隅っこで反省してますからぁぁっ!」


 涙目になりながら、綺麗な土下座を見せるバフォメット。

 あのユニコーンの気高さと、グレムリンの狡猾さはどこへ行ってしまったのだろうか。


「えーと、……バフォメット?」


「ひゃいっ!? す、捨てないでくださいぃ! ご飯もいらないですから! 私は草でも食べて生きていきますからぁ!」


 ガクガクと震えながら両耳を塞ぐバフォメット。

 本当にこの魔物が、A-ランクなのか……。


「……あ、あ、ぁぁ……」


 その時、ネムが悲鳴を上げる。

 首輪の色が、血のように真っ赤に染まっていた。


「おい! 早くネムを助けてくれよ!」


 ミロが切羽詰まった声で叫んだ。


 もう時間がない。


 俺は思わず、バフォメットの肩をガシッと掴む。

 その小さな口から「ヒッ」と短い悲鳴が上がった。


「あの子の首輪を外してほしい。できるか?」


 俺はダークエルフの子を指差した。


「お前の力で、首輪にかかってる呪いを何とかしてほしんだ!」


 バフォメットにすがるように頼む。

 この魔物の力が最後の希望であった。


「む、無理ですぅ! 私なんかに高度な解呪なんて……失敗したらマスターに殺されちゃいますぅぅ!」


「殺さないから!」


 しかし、バフォメットは白黒の長い袖で顔を隠したまま、ぶんぶんと首を横に振った。


「む、無理です無理です無理ですぅぅ! だって、あの首輪、見るからに怖いですもん! なんか赤く光ってますし! 絶対に触ったら爆発しますぅ! 爆発したら、木っ端微塵になって、私の角だけ壁に刺さるんですぅぅ!」


「変な想像するなよ! 頼むから、あの子を助けてくれ!」


「で、でもでも、失敗したらどうするんですかぁ!? 本当に首輪が爆発したら!? その子が死んじゃったら!? マスターに『やっぱりお前は失敗作だったな』って冷たい目で見られるんですぅ!」


 バフォメットは、ずりずりと後ずさり始めた。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」


「おい、ちょっと……」


 言うが早いか、バフォメットはくるりと身を翻した。

 そして、小部屋の出入口へ向かって駆け出した。


「待て! そっちは危ないぞ!」


 俺は慌てて追いかける。

 だが、見た目に反して、逃げ足が速かった。


「おい、ふざけんなこの白黒ヤギッ!! さっさとネムを助けろ!」


 ミロが怒鳴り声を上げ、逃げようとするバフォメットの襟首を掴もうとするが、バフォメットは「ひゃぅっ!」と奇声を上げてそれを回避。

 そのまま通路へ飛び出した。


 だが、その瞬間――。


 ドォォォォォォォォォォォォンッ!!


 通路の先、さらにその奥にある広間から、これまでにない規模の爆発音が響き渡った。

 衝撃波が長い通路を伝って押し寄せ、バフォメットは「ひぎゃっ!?」と情けない声を上げて、部屋の内側へと跳ね返ってきた。


「痛いぃ……やっぱりお外は怖いですぅ……マスターぁ……」


 涙目で床に丸まるバフォメットを、俺は逃がさないようにガッチリと抱え込んだ。


「いいか、落ち着いて聞け。今、この瞬間も、あの子は死にかけているんだ。お前の力があれば助かるかもしれない。……頼む、俺の言うことを信じてくれ」


「うぅぅ……そんな、私なんかに期待しちゃダメですぅ……」


***


 一方、その頃――第三階層の広間。


 荒れ狂う四元素魔法の嵐の中心で、精霊女王ティターニアは、突如としてその動きを止めた。

 目の前でボロボロになりながらも、いまだ『喰血』を構えて立ち続ける鬼一を消し飛ばすために、極大魔法を放とうとしていた指先が、微かに震える。


「……ッ」


「どうした、精霊女王ティターニア? 早くその魔物を消し飛ばせ!」


 背後でセラドが叫ぶが、ティターニアは応えない。

 彼女の神性な双眸そうぼうは、広間のさらに奥――ボンドたちが逃げ込んだ通路の先を見据えていた。


「何か……」


 その声は、初めてわずかに揺れていた。


「とてつもない力を感じたが……気のせいか」


 ティターニアは、一瞬だけ感じた身の毛もよだつような気配を、自身の錯覚として切り捨てた。

 ほんの一瞬。

 それは、本当に一瞬の躊躇だった。

 しかし、そのわずかな時間が、鬼一にとって命を繋ぐ分岐点となる。


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