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魔物合成で世界に抗う反逆譚~HP10の凡人おじさん、ダンジョンマスターになる~  作者: 藍之介
vs.『ダンジョン討伐軍』編

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第88話 vs.討伐軍 ㉗ -セラド戦-

 アビスに先導させ、ボンドは二人を連れて、ある部屋へと急いだ。

 壁越しでも分かるほど、背後では異常なほどの魔力が暴れ狂っている。

 鬼一と、あのエルフが呼び出した何か……。


「こっちだ、急げ!」


「くそっ……なんなんだよ、あれ……!」


 ネムを抱えたミロが、歯を食いしばりながら走っている。

 その腕の中で、ネムはぐったりとしていた。


「っ……は……ぁ……」


「ネム、しっかりしろ! もう少しだ!」


「ミロ……ごめ……なさい……」


「謝んなって言ってんだろ!」


 ボンドたちが逃げ込んだのは、ダンジョン・コアが安置されている部屋から、さらに通路を隔てて独立した『新たな部屋』だった。

 ここは、事前に作っておいた避難用の部屋。

 討伐軍レイドが来る前、ゴブリンたちを召喚し、最終防衛線を整えたあと。

 残しておいた600DPを使って、念のために作っておいた。


-----------------------------------------------------

【ダンジョン構築】

・部屋を増やす(小):250 DP

・通路を作成(10m):50 DP

-----------------------------------------------------


 通路を含めて、合計600DP。


 正直、あの時はかなり迷った。


 600DPあれば、魔物をもう一体召喚できる。

 罠だって設置できる。


 だが、前世?のサラリーマン時代に嫌というほど叩き込まれた感覚がある。

 どんなプロジェクトでも、必ず想定外は起きる。

 用心することに越したことはないということ。


 このダンジョンは、俺が死んだら終わりだろう。

 いざという時に、逃げ込める隠し部屋が必要だった。


 暗い通路を抜けた先にあるその小部屋に入ると、先ほどまで耳をつんざいていた爆音や、肌を刺すような魔力の波動が、まるで嘘のように遠のいた。


「ハァ……ハァ……っ! ここは……?」


 ミロが荒い息を吐きながら、警戒するように周囲を見回す。

 そこは、冷たい石畳と松明の淡い光だけが照らす無骨な空間であった。


「とりあえず、ここは安全だ。あのエルフと俺の仲間の戦いの余波も、ここまでは届かない。……まずは、その子を横にしてやってくれ」


 ボンドが静かに促すと、ミロはハッとして、抱えていたネムをそっと石畳の上に寝かせた。


「ネム、大丈夫か? 聞こえるか?」


「……うん……だい、じょうぶ……」


 彼女の口からは、肺の奥から絞り出すような、苦しそうな声が漏れ続けている。

 額からは、滝の様に汗が流れ落ちていた。


 何より異様なのは、彼女の細い首にガッチリと食い込んでいる『赤い首輪』だった。

 不気味に赤黒く脈打っている。

 まるで、そこに小さな心臓でも埋め込まれているみたいに。


 ミロは血が滲むほど唇を噛み、ボンドを鋭く睨みつけた。


「あんた……一体何者なんだ? なぜ俺たちの名前を知っている? それに、この部屋だって……」


「警戒するのは無理もない。だが、俺はお前たちに危害を加えるつもりはない」


「そんな言葉を信用できると思うかよ」


「そりゃ、思わないよな……。だから、信用しなくていい。ただ、話だけ聞いてほしい」


 ミロのその目は、追い詰められた獣そのものだった。

 ボンドはミロの鋭い視線を真っ直ぐに受け止め、口を開いた。


「俺がお前たちのことを知ったのは、女王蟻カーミラからの念話テレパシーでだ」


女王蟻カーミラ……?」


「第一階層の守りを任せている、俺の魔物《仲間》だ」


 俺は、第一階層の守護を任せていた、女王蟻カーミラからの念話を思い出しながら話始めた。


***


 それは、レイとリュネの激闘が終わったときのこと。


『主よ、聞こえるか?』


『……カーミラか? どうした。今こっちは、かなり立て込んでるんだが……』


 少しの間が空く。

 念話の向こうで、カーミラが珍しく言い淀んだ気配がした。


『実はの、今しがた、わらわの巣穴に挑んできた気骨がある者がいてのう』


『敵か? 大丈夫か?』


『なに、わらわに掛かれば赤子の手をひねるようなものじゃ。すでに動きは封じておる。じゃが、そやつから、少し興味深い話を聞いたのじゃ』


『興味深い話だって?』


『そやつは、ガルムという虎獣人じゃ。どうやら、エルフの魔術師に奴隷として使役されておるらしくてな。死ぬ覚悟でわらわの前に立ち、仲間を助けてほしいと願いよった』


『仲間を……?』


しかり。そのエルフは精霊魔法を操るそうじゃが、ガルムの話では、魔力の負荷をダークエルフの娘に肩代わりさせているらしい』


 カーミラは、ガルムの闘志に幾分かの敬意を抱いたのか、彼が吐露したという事情をボンドに伝える。

 奴隷たちの悲惨な境遇。

 そして何より、エルフが使う『精霊魔法』の秘密について。


『この話が本当ならば、そのエルフの魔術師は己の限界を超えた上位の精霊を召喚できるじゃろうな』


 その言葉を聞いて、俺は戦慄した。

 外道な手口だ。

 奴隷の命を、使い捨てとして利用しているというのか。


『ふむ。さすがに上位の精霊を召喚されれば、主の配下である鬼一たちでも分が悪くなるやもしれんの』


『じゃあ、一体どうすればいいんだ!?』


『なあに、簡単なことよ』


 焦る俺に対し、カーミラは冷静に最適解を告げた。


『その”器”とやらを壊してしまえばよい』


『壊す、だって……?』


『そうじゃ。負荷を肩代わりしているモノが消えれば、行き場を失った膨大な魔力は術者自身に襲い掛かるじゃろうて』


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