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魔物合成で世界に抗う反逆譚~HP10の凡人おじさん、ダンジョンマスターになる~  作者: 藍之介
vs.『ダンジョン討伐軍』編

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第85話 vs.討伐軍 ㉔ -セラド戦-

 鬼一とセラドが激突する、その裏で。

 もう一つの死闘が繰り広げられていた。


「ハァッ……! シィッ!!」


 鋭い呼気と共に、獣人の少年ミロが両手に握ったダガーを振るう。

 目の前にいるのは、ゴブリン。

 普段なら、何の問題もない相手のはずだった。


 冒険者としての経験を積んでいるミロにとって、ゴブリンなど、本来なら首をねるのに一呼吸も要らない雑魚である。


「ギギャッ!」


 だが、今、目の前にいる十体は違った。


 ミロの刃が届く寸前、ゴブリンは驚くべき反応速度で身を沈め、ミロのダガーを紙一重で回避する。

 こいつらは、ただのゴブリンではない。

 短剣を構える腰の低さ。

 こちらの呼吸を読む視線。


 剣持ちのゴブリンが一歩踏み込む。


「なっ……!?」


 ミロは驚愕に目を見開きながらも、咄嗟に後ろへ跳躍してその一撃を躱した。

 冷や汗が頬を伝う。

 おかしい。

 絶対におかしい。

 ただのゴブリンが、相手の攻撃を『見切り』、的確な『カウンター』をするなどあり得ない。

 まるで、幾千回もの打ち合いを経験してきた熟練の剣士のような動きだ。


「クソッ、なんだよこいつら……! 本当にゴブリンかよ!」


「ミロ、下がって!」


 後方からネムの声が飛ぶ。

 同時に、彼女が展開する魔法陣に黒い魔力が収束した。


「闇よ、穿て……【暗黒弾シャドウ・バレット】!」


 黒い弾丸が、剣持ちのゴブリンへ向かって走る。

 しかし。


「ギャウッ!」


 後方のゴブリンメイジが、短く鳴いた。

 地面から水が噴き上がり、薄い盾のように広がる。


 バシュッ!


 ネムの暗黒弾は、水膜に触れた瞬間、勢いを殺されて散った。


「くっ、また……!」


 ネムが唇を噛む。

 ゴブリンメイジなんて希少種が、こんなところにいるなんて。

 しかも、厄介なのは魔法そのものの威力ではない。


 魔法を撃つタイミングが上手すぎるのだ。


 ネムが援護を的確に相殺し、ミロが攻撃を仕掛けようとすれば牽制してくる。

 明らかに、何者かの意思で動いているようだ。


 それに、他のゴブリンも厄介であった。

 盾を構えたゴブリン、弓を構えたゴブリンなど、合計十匹のゴブリンが隙のない陣形を組んでじりじりと距離を詰めてくる。

 完全に統率されている部隊だった。

 鬼一の地獄の訓練と【統率者】スキルによって能力を底上げされた彼らは、もはや二人の知るゴブリンではなかった。


 ミロが一匹を狙えば、他の二匹が横から差し込む。

 ネムが魔法で崩そうとすれば、ゴブリンメイジが封じる。

 焦れて距離を取れば、弓矢が追い立てる。


 二人は完全に押されていた。


「チィッ! 舐めんな!」


 ミロは歯を食いしばりながら、なんとかゴブリンたちの剣を弾き返し、再び距離を取った。

 息が上がる。

 ミロ一人で前線を支え、ネムが後方から魔法で援護するという、たった二人のパーティでは防戦一方となってしまう。


「……ハァ、ハァ……」


 ふと、ミロは背後から聞こえるネムの息遣いが、異常に荒くなっていることに気がついた。

 振り返ると、ネムは肩で大きく息をしていた。

 様子がおかしい。


 額には冷たい汗が浮かび、唇は血の気を失っている。

 その紫紺の瞳は焦点が定まらず、身体が小刻みに震えていた。


「おい、ネム! 大丈夫か!?」


 ミロが焦って声をかけると、ネムは無理に口角を上げて笑いを作った。


「う、うん……大丈夫。少し、魔力を使いすぎただけだから……っ」


「大丈夫じゃねぇだろ、それ!」


 ミロは叫ぶ。

 だが、ネムは弱々しく首を振った。


「本当に……平気。ちょっと、魔力が乱れてるだけ……」


 魔法使いにとって、魔力の乱れは足のもつれと同じだ。

 一歩間違えれば、詠唱は崩れ、魔法は暴発し、最悪の場合、内側から身体を壊す。

 しかし、本来の彼女の魔力量からすれば、息を切らすような魔力の消費ではないはずだった。


 ふと、ミロの視線がネムの細い首に嵌められた『赤い首輪』に向く。

 奴隷の首輪。

 それが今、不気味な脈動と共に赤い光を明滅させていた。


「くそっ、これはまずいぞ……」


「ギルゥッ!」


 ネムが膝をついた隙を見逃さず、ゴブリンたちが一斉に距離を詰めてくる。

 槍が、剣が、魔法が、容赦なく二人を襲う。


「させねぇよッ!!」


 ミロはネムの前に立ち塞がり、ダガーで攻撃をいなす。

 獣人の動体視力をもってしても、完全には防ぎきれない。

 ミロの腕や足に浅い切り傷が刻まれていく。


 じりじりと、ミロとネムは後退を余儀なくされる。

 盾持ちのゴブリンのシールドバッシュがミロの体勢を崩し、その隙間を縫って槍持ちが突きを入れてくる。

 右へ逃げようとすれば魔法が飛び、左へ動けば斬撃が飛んでくる。

 まるで、目に見えない網の中に追い込まれていくような感覚。


 ……おかしい。こいつら、俺たちを殺す気がないのか?


 ミロは戦いながら、ある違和感に気がついた。

 本気でミロたちを殺そうと思えば、もっとリスクを取って全員で突撃してくることもできるはずだ。

 しかし彼らは、決して無理な追撃はせず、じりじりとミロとネムを「一定の方向」へと押し込んでいるように見える。


 ミロが周囲の状況を確認する。

 いつの間にか、自分たちはセラドと鬼が戦っている広間から、かなり離れた場所へと移動させられていた。

 背後には、さらに奥へと続く、暗く冷たい通路がある。

 ゴブリンたちは、意図的にミロとネムを奥の空間へと誘い込んでいたのだ。


「チッ、罠かよ……!」


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