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魔物合成で世界に抗う反逆譚~HP10の凡人おじさん、ダンジョンマスターになる~  作者: 藍之介
vs.『ダンジョン討伐軍』編

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第76話 vs.討伐軍 ⑮ -セラド戦-

「なるほど。貴様が、このダンジョンのボスというわけか」


 松明の炎がパチパチと爆ぜる音が、第三階層の広間に静かに響き渡っていた。

 二人の『強者』の視線が交錯し、周囲の空気がギリギリと軋みを上げる。

 セラドは、薄い唇を歪めて不敵な笑みを浮かべていた。

 退屈しきった態度はなりを潜め、強大な獲物を前にした狩人のような、凶悪な光が瞳に宿っている。


「……否」


 だが、そのセラドの言葉に対し、鬼一は重々しい声で返答した。


「我は、偉大なる御屋形様の『一番の剣』であれど……この迷宮を統べる主などにあらず」


「ほう……。やはり話せる魔物か」


 その言葉に、セラドは微かに眉を動かした。

 驚きよりも、純粋な感嘆に近い反応だった。


「先ほどの魔物といい、貴様といい……。辺境の、とるに足らないダンジョンかと思っていたが、中々に面白い」


 その声には、恐怖はなかった。

 むしろ、新しい玩具おもちゃを見つけたとでも言うような声色だった。


「ますます、ここのダンジョン・コアに何が眠っているのか、興味が湧いてきたぞ」


「御屋形様に仇なすエルフよ。貴様の興味を満たすものは、この先には何一つない」


 鬼一が、腰に帯びた『喰血くうけつ』の柄に手をかけ、ゆっくりと抜き放った。

 刃渡りだけで人間の身長ほどもある、禍々しい妖刀。

 その切っ先が、真っ直ぐにセラドへと向けられる。


「貴様の命運は、ここで尽きる。我が刃の錆となり、絶望の底へと沈むがいい」


「くくっ……大きく出たな、下等生物が。その巨体ごと切り刻んでやろう」


 セラドが片手を軽く上げる。

 彼の周囲で、目に見えない風の刃が竜巻のように渦を巻き始めた。

 不可視の風の精霊。

 近づくだけで腕を斬り飛ばす、自動防壁オートガード


 先に動いたのは鬼一だった。

 十体のゴブリンたちに向けて、大気を震わせるような号令を放つ。


「行け! 我が精鋭たちよ!! 敵を蹂躙せよ!!」


 ――オォォォォォォォォォッ!!!!


 ゴブリンたちが、腹の底から絞り出すような雄叫びを上げる。

 その瞬間、鬼一の巨体から溢れ出した赤銅色の闘気が、波動となって十体のゴブリンたちを包み込んだ。

 【統率者】の発動であった。

 鬼一の苛烈な調練によって鍛え上げられていたゴブリンたちの筋肉が、その効果によってさらに一回り膨張する。

 瞳は血走ったように赤く輝き、彼らの身体から立ち上る闘気は、もはやEランクの魔物ではなくなっていた。


 だが、その劇的な変化を前にしても、セラドは冷ややかな一瞥をくれるだけであった。


「……鬱陶しい雑魚どもだ。おい、貴様ら」


 セラドは、背後で震えていたミロとネムに向けて、顎でしゃくった。


「その雑魚どもは貴様らが片付けろ。私は、あの鬼を殺す。……私の戦いの邪魔をすれば、どうなるか分かっているな?」


「……っ、分かったよ」


「承知、しました……」


 身体の震えを抑え込み、ミロとネムはゴブリンたちの前に進む。

 逆らうことはできない。

 自分たち奴隷は、このエルフの命令に従う肉壁なのだ。


 それに、相手は所詮ゴブリン。

 Cランク相当の冒険者であるミロからすれば、本来なら瞬殺できる最弱の魔物なはず。

 セラドが鬼と戦っている間に、この十匹を片付けるしかない。


「悪く思うなよ……こっちも死にたくねぇんだ!」


 ミロは両手のダガーを逆手に構える。

 そして、獣人特有の瞬発力を発揮し、地面を蹴って猛然と突っ込んだ。


 低く、速く、一直線に間合いを詰める。

 首元への一撃。

 速度も、踏み込みも十分。

 ゴブリンの貧弱な動体視力では、ミロの動きを捉えることすらできないはずだった。


 ――ガキィィィィンッ!!!!


「なっ!?」


 ミロの口から、思わず声が漏れた。

 ダガーから手に伝わってきたのは、肉を裂く感触ではなく、硬い鋼を全力で殴りつけたような強烈な痺れであった。

 ミロのダガーは、ゴブリンの短剣に受け止められていた。

 しかも、ただの偶然ではない。


 刃の角度を合わせ、ミロの勢いを横へ流し、体勢を崩す。

 それは、明らかに訓練された剣技だった。


「嘘だろ……っ!? ゴブリンが、俺の攻撃を……!?」


 通常のゴブリンであれば、一瞬で片がついているはずだ。

 だが、目の前のゴブリンの瞳には、一切の迷いがない。

 まるで、幾千回もの打ち合いを経験してきた剣士のように、冷静にミロを見据えていた。


「ギィッ!」


 ヒュンッ!


「うおっ!?」


 剣を弾かれ、体勢を崩したミロの耳に、風を切る鋭い音が届いた。

 見れば、後方に控えていた弓持ちのゴブリンが、ミロの着地地点を正確に予測して、淀みない動作で矢を放っていたのだ。


 矢がミロの頬をかすめて、赤い血が一筋流れる。

 弓持ちのゴブリンは、すでに次の矢をつがえていた。

 攻撃の練度が高い。


「こいつら……!」


「ミロ! 援護するわ! ――【暗黒弾シャドウ・バレット】!」


 後方から、ネムがすかさず闇魔法の弾丸を放った。

 暗黒の弾丸が、弓を構えたゴブリンめがけて一直線に飛んでいく。

 これで陣形が崩れる。そう思った瞬間だった。


「――ギャウ!」


 陣形の最後列にいた、ねじ曲がった木の杖を持つゴブリンが、短く叫ぶ。

 次の瞬間、地面から水が巻き上がった。

 細い水流が盾のように広がり、ネムの暗黒弾と衝突する。


 バシュッ!


 闇の弾丸が、水の膜に吸い込まれるようにして弾けてしまった。


「えっ……!?」


 ネムは、杖を構えたまま信じられないものを見るように目を見開いた。


「ゴブリンメイジ……っ!? そんな、希少種がいるなんて!」


「マジかよ……冗談キツいぜ……!」


 冷や汗が、ミロの額を伝い落ちた。


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