第59話 -冒険者side- 招集
王都の中心部、巨大な石造りでそびえ立つ冒険者ギルド本部。
本部建物の前にある広場では、早朝にも関わらず異様な熱気と喧騒に包まれていた。
そこには、大小さまざまな武器を背負い、使い込まれた革鎧や金属の鎧を着込んだ数十名の冒険者たちが集結していた。
その数は、総勢60名に上る。
彼らは皆、ギルド本部から直々に依頼を受け取った、Cランク~Dランクの冒険者たちである。
「聞いたか? 今回の標的は、ファイデンとかいう辺境にあるダンジョンらしいぜ」
「ああ。なんでも、できたばかりのダンジョンが急成長してるから、芽のうちに摘んでおけって本部からのお達しだそうだ」
「はっ、大げさなこった。そんな田舎のダンジョンのために、王都の冒険者を六十人も集めるなんてな」
「逆に言やぁ、おいしい仕事ってことさ。こんだけ頭数がありゃ、俺らは後ろからついてって、雑魚狩りだけで報酬を貰えるんだろ?」
広場のあちこちから、余裕に満ちた笑い声が起こっていた。
彼らにとって、この討伐軍は簡単な仕事に思えた。
数の暴力で辺境にある新興ダンジョンを踏み荒らし、安全に金を稼ぐ。
誰もが、自分が死ぬなんて思ってもいなかった。
だが、その緩みきった空気は、一台の馬車が広場に入ってきた瞬間に凍りつく。
カララララッ、と車輪が石畳を叩く音。
四頭立ての純白の駿馬に引かれた、豪奢な装飾が施された馬車。
その扉には、銀色の葉を象った美しい紋章が刻まれていた。
「……おい、あれって」
「まさか、今回の討伐軍の指揮って……」
誰かが息を呑む音が、伝染するように広場全体へと広がっていく。
先ほどまで馬鹿騒ぎをしていた冒険者たちが、一斉に口を閉ざし、道を開けるように後ずさった。
ざわざわと、声を押し殺したような囁きが波となって広場を埋め尽くす。
「『銀葉の魔術団』だ……。王都でも上位と謳われるBランクパーティの……!」
「ワイバーンの群れを、たった五人で殲滅したって言う、あの化け物集団かよ!?」
「この前も、南方の『アラカズ』にある、危険度Bのダンジョンを攻略したって聞いたぞ……」
「なんであんな連中が、田舎にあるダンジョンの攻略なんかに……」
畏怖、羨望、そして得体の知れない恐怖。
周囲の視線が一点に集中する中、馬車の扉が静かに開かれた。
最初に降り立ったのは、一人のエルフの男だった。
陽光すら拒むような透き通った白い肌。
流れるような金糸の髪。
エメラルドの宝石のような瞳。
細身の長身でありながら、研ぎ澄まされた刃のように隙がない。
『銀葉の魔術団』のリーダーであるセラドであった。
そのあとに、同じくエルフ族の女が優雅に降り立つ。
くすみのない銀髪と冷たい紫の瞳。
見た目は絶世の美女であるが、常に冷淡な雰囲気を纏っており、気安く近づくことはできない。
セラドの副官、リュネの姿であった。
彼らが石畳に降り立った瞬間、広場の空気が数度下がったかのような錯覚に陥る。
二人のエルフから無意識に漏れ出している、濃密な魔力の圧が、周囲の冒険者たちの感覚を歪ませているのだ。
セラドは冷酷な瞳で、ぐるりと広場を取り囲む人間たちを一瞥した。
その視線には、これから一緒にダンジョンを攻略しに行く仲間を見るような温かさは微塵もない。
路傍の石、あるいは這い回るウジ虫を見るような、純粋な『嫌悪』と『見下し』であった。
「……臭いな」
静まり返った広場に、セラドの冷たく澄んだ声が響き渡った。
「獣の脂と、安い酒、そして……劣等種特有の、溝鼠のような下賎な匂いだ。息をするだけで、私の肺が穢れる」
「ふふっ、仕方がありませんわ、セラド様。人間などという短命で魔力も持たない欠陥生物は、自らが放つ悪臭にすら気づけないほど愚かなのですから」
リュネが、口元を扇で隠しながらクスクスと嗤う。
その言葉に、冒険者たちの顔色が変わった。
あまりにも露骨な種族差別と侮蔑。
だが、セラドの言葉は止まらない。
「ギルド本部も無能なことだ。このような使い物にならん有象無象を四十匹も集めたところで、どうせダンジョンの肥やしになるのが関の山だろう」
セラドは、続けて言い放った。
「良いか、貴様らに戦力としての期待など一切していない。貴様らの役目はただ一つだ。……我らの歩く道に張られた『罠』を、その無価値な肉体で踏み潰して進むことだけ。せいぜい、『肉壁』として役目を果たして死ぬことだな」
沈黙が広場を包む。
怒りで顔を真っ赤にする者、屈辱に唇を噛み破る者。
しかし、セラドから放たれる魔力の圧の前に、誰も反論の声を上げることができなかった。
――ただ一人を除いては。
「……ふざけるなよ、長耳野郎」
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