第57話 戦いの準備 ②
そこは、巨大な地底湖だった。
どこまでも広がる暗い水面。
天井は高く、壁には青白い鉱石がぼんやりと灯っている。
だが、足場らしい足場はほとんど無く。
入口から奥の扉へ向かう、細い一本の岩道が通っているだけだ。
他はすべて、水で満たされている。
底が見えないほどの深さを持った、冷たい黒い湖であった。
「うっわぁぁぁぁっ!! 最っ高じゃん!!!」
レイは歓声を上げ、巨大な湖へと勢いよくダイブした。
ザッバーン! と盛大な水しぶきが上がり、彼女は人魚のように水底を泳ぎ回り、美しい水柱を立てては空中で舞い踊る。
「マスター! ここ気に入ったよー!」
レイが水面からを上半身を出して、びしっと親指を立てている。
「第一階層の森林を抜けてきた敵を、次はここで待ち構える」
いつの間にか奥まで泳いでいった、レイに聞こえるように大声を出した。
「だが、お前一人じゃ手数に限界があるだろう!」
端末を開く。
うーむ。
ヴォルテックスだと、レイの魔法と相性が悪そうだしな……。
よし。
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【魔物召喚】
・クラーケン:C(600DP)
・ポイズン・トード×2:D+(300DP×2)
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「クラーケンを一体。ポイズン・トードを二体を召喚!」
水面が、ぼこりと盛り上がる。
次の瞬間、巨大な触手がぬらりと持ち上がった。
王冠のような頭部。
無数の吸盤。
第二階層で戦ったあの魔物――クラーケンが、静かに水中へ沈んでいく。
さらにその脇で、極彩色の皮膚を持つ巨大な蛙が二匹、ぬめりと姿を現した。
丸々と膨れた腹。
毒々しい色。
そして自慢の長い舌が、しゅるりと空を舐める。
「クラーケン、お前は水底に潜み、この道を渡ろうとする人間を触手で水中に引きずり込め」
その言葉に呼応するように、巨大な触手が水上に現れて静かに揺れる。
念話はできないようだが、意図は伝わったらしい。
「ポイズン・トードは毒と舌で後衛を狙ってくれ」
ゲコ、と低い鳴き声が返る。
「……レイは歌声で足止めしつつ、水と炎の魔法で敵を殲滅させろ」
「はーいっ!」
レイが返事をしながら、にんまりと笑う。
その笑みは、いつもの軽さの中に、明確な残虐さが混ざっているように見えた。
「これで、第二階層の構築も完了だな。消費したDPは1,900か。残りは700DP……」
いよいよ、大詰めである。
俺たちは第二階層の奥の扉を抜け、ダンジョンの最下層――地下三階となった『最奥の部屋』へと帰還した。
赤と青の光を放つダンジョン・コアの前に立つ。
「ここが最終防衛線となる。俺と、鬼一、アビスの三人で、敵を迎え撃つ」
これが、俺が考え抜いた、討伐軍に対抗するための三段構えの陣だ。
しかし、俺がそう宣言した直後。
ずっと黙っていた鬼一が、静かに一歩前に出た。
「御屋形様。……恐れながら、一つ願いがございます」
「ん? どうしたんだ、鬼一?」
鬼一は、2メートルを超える赤銅色の巨体を折り曲げ、俺の前に重々しく片膝をついた。
「御屋形様の軍団が形になりつつある今、……我にも、直属の『配下』をお与え願えませぬでしょうか」
「配下?」
鬼一の真剣な表情に、俺は目を瞬かせた。
それを見た、アビスが補足する。
『鬼一殿の特性である【統率者】。あれは、配下を率いることで初めて真価を発揮します。現状では、将軍という身でありながら兵を持たぬ状態。言わば、宝の持ち腐れかと』
鬼一が強すぎるから、単騎の武人としてしか見ていなかった。
だが、確かに種族名は鬼人将軍だ。
将軍であれば、兵を率いてこそだろう。
「統率者……そうか、そんな特性があったな!」
俺はポンと手を打った。
鬼一のポテンシャルを腐らせておく手はない。
「わかった。でも、そんなにDPが残ってないんだよな……」
サラリーマン時代の金銭感覚としても、全部使い切るのは不安で仕方ない。
一体どうするか。
そう考えていると、鬼一が進言してきた。
「御屋形様、ゴブリンを召喚いただけますでしょうか……。我の始まりの姿である、同胞たちを最強の兵卒へと鍛え上げてみせましょう」
「ゴブリンだって?」
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