第56話 戦いの準備 ①
「さて、……これから、大事な会議を始めるぞ」
俺がパンパンと柏手を打って声をかける。
レイの興味は未だにカーミラに注がれており、カーミラはその視線を意地でも無視している。
一方で、鬼一が静かに喰血を地につけ、アビスが長槍を握り直す。
四体の強力な魔物たちが、一斉に俺という「主」のもとに集まった。
「全員、よく聞いてくれ。俺たちの所持DPは、残り2,600程ある」
俺は端末の画面を見せながら、ゆっくりと話し始めた。
「王都から派遣されるという討伐軍……。奴らがこの森に到達するまで、残された猶予はもう『20日』を切っている。相手はBランクパーティを中心として、数十人規模でこのダンジョンを襲ってくるだろう」
その言葉に、場の空気がピンと張り詰める。
鬼一が頷き、アビスの兜の奥の青い光が一段と強く灯る。
レイの顔からヘラヘラとした笑いが消え、カーミラも幼い顔つきに不釣り合いなほどの冷酷な光を瞳に宿した。
「正面からぶつかれば、いくら俺たちでも数の暴力で押し潰されるだろう。だからこそ、このダンジョンの環境や各々の強みを活かして戦う必要があると考えている」
「ふむ……地の利を活かした籠城戦にございますな」
『我らの手駒と環境を噛み合わせ、敵を削り取る。理にかなった戦術でしょう』
鬼一とアビスが同意する。
俺は話を続ける。
「第一の防衛線は、ここ。第一階層の『森林』だ。ここは……、カーミラ。お前と、お前の配下たちに任せる」
「わらわの領地じゃな? ふふふっ、よかろう。……おい、愚民ども。整列せい!」
カーミラが短く、鋭い声を上げる。
すると、十数匹のミニアントたちに加え、森の奥からカサカサと重たい足音を立てて、ジャイアント・アントも姿を現した。
蟻たちは、まるで軍隊の行進のように一糸乱れぬ動きでカーミラの背後に整列した。
「……すごいな」
思わず、そう漏らした。
女王の有無で、ここまで変わるのか。
カーミラは、それを当然といった顔で鼻を鳴らす。
「当然じゃ。群れとは頭があってこそ、”群れたり得る”のじゃからな。頭のない大軍など、ただの虫けらの寄せ集めよ」
「その力、頼りにしてるぞ」
「ふん。褒めておるのなら、もっと敬意を込めて言え」
「注文が多いなぁ……」
軽く返しながらも、俺は真剣に言葉を続けた。
「カーミラたちで、森に入り込んだ冒険者たちを四方八方から攻撃。敵を分断し、疲労させるのが第一の目的だ」
「ふふん。わらわの庭に踏み込んだ時点で、人間どもは死んだも同然じゃな」
だが一つ懸念点がある。
これまでの戦いで、幾度となく危ない目に合ってきた”広範囲魔法”だ。
「だが……Bランクパーティともなると、強力な広範囲魔法を一発撃ち込まれて、蟻たちが一網打尽にされる恐れがあるが……」
俺が懸念を口にすると、カーミラは自信満々に小さな胸を張り、笑みを浮かべた。
「案ずるな。わらわの力を甘く見るでないぞ」
「魔法対策があるのか?」
「無論じゃ。安心せい」
カーミラは自信満々に胸を張った。
何かはわからないが、とりあえずカーミラに任せておいて大丈夫そうだ。
「よし、第一階層はお前に任せた。……次だな」
俺たちは森を抜け、ダンジョンの最奥――コアのある大部屋へと戻ってきた。
現在このダンジョンは、入口から入ると最初に森林エリアがあり、その一階層下にすぐ『ダンジョン・コア』がある、実質二層構造だ。
しかし、これでは森林エリアを突破された場合、コアが無防備となってしまう。
防衛に厚みを持たせるための『緩衝地帯』が必要だ。
「レイ」
「んー? どうしたのマスター?」
さっきまでカーミラの羽をつんつんしていたレイが、ぱっとこちらを向く。
「第二防衛線は、お前の環境を作る」
「えっ、ホント!? やったーっ!!」
レイが空中で歓喜のターンを決める。
俺は端末を操作し、ダンジョン構築をタップした。
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【ダンジョン構築機能】
・階層の追加:400 DP
・フィールド改装(湖):300 DP
【階層の追加】
追加位置を選択してください。
・現在の階層の上に作成する
・現在の階層の下に作成する
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「階層の追加だ。森林エリアの下に作成する」
俺は実行ボタンをタップした。
ズゴォォォォォォォォンッ!!
ダンジョン全体が、悲鳴を上げるように激しく揺れた。
何度経験しても、これは慣れない。
俺たちのいる部屋が、まるで巨大なエレベーターに乗っているかのように、ズンッ、と一階層分、地下へと押し下げられていく感覚。
森林の階層とダンジョン・コアの階層の間に、新たな空間が創り出される。
新造された階層で、岩が崩れ、地盤が沈み、そこへ大量の水が満ちていく気配がある。
冷たい湿気が一気に吹き上がり、空気の匂いが変わる。
「行くぞ」
俺たちは新しい第二階層へ足を踏み入れた。
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