第55話 カーミラ
「……ふん。わらわの微睡みを破り、目覚めさせたのは、そこにおるお主か?」
「へっ……!?」
「なんじゃ、その気の抜けた返事は。わらわが直々に問うておるのじゃぞ?」
俺は予想外すぎる第一声に、完全に思考が停止する。
今まで、合成した魔物が、俺に対して尊大な態度で来られることがなかったからだ。
「あ、ああ、そうだ。俺が、お前を合成したマスターだ」
「ほう。人間風情が、このわらわの主と申すか?」
少女はじろじろと、頭の先から爪先まで値踏するように俺を観察する。
「……ずいぶん頼りないマスターよのう。体はひょろいし、顔もいまいちじゃし」
「初対面なのに、容赦ないな!?」
「じゃが……」
彼女はそこで、ふっと口角を上げた。
「お主の魔力の匂いは、嫌いではない。甘くて、濃くて、なかなかに上等のようじゃ」
そう言った瞬間。
彼女の小さな身体から、目に見えない強烈な『何か』の波が、森全体へと放たれた。
「ギチッ……!!」
「カシャシャシャシャ……ッ!!」
その波が広がった瞬間、巣穴の周囲で蠢いていた十数匹のミニアントたちが、まるで雷に打たれたようにピタリと動きを止めた。
そして、一斉にわらわらと彼女の足元へと群がり、前足を折りたたみ、頭を泥にこすりつけるようにして、『平伏』の姿勢を取ったのだ。
「ふははははっ! 見よ、このひれ伏す愚民どもを! わらわの目覚めを祝うには、これくらいの跪拝がなくてはのう!」
やばい。
完全に女王様キャラだ。
「わらわはカーミラ。鮮血を糧とし、愚民共を狂宴へ導く女王ぞ!」
自分で名乗っちゃったよこの子!
俺がツッコミを入れる間もなく、カーミラは高笑いを上げながら、ひれ伏すアリたちを見下ろして悦に浸っていた。
恐るべき力を秘めているはずなのだが、その見た目とのギャップのせいで、どうも怖さを感じないが……。
そんな空気を、さらにぶち壊す者が現れた。
「きゃああああああっ!! なにこの子!? 超絶かわいーーーっ!!」
空から弾丸のようなスピードで急降下してきたレイが、高笑いしているカーミラの小さな身体に、背後から思い切り抱きついたのだ。
「ふぎゃっ!? な、ななな何をする貴様! 離せ、わらわの身体に気安く触れるでない!」
「あはははっ! ちっちゃい! ぷにぷに! ねえマスター、この子あたしの新しい仲間!? ヤバっ、超テンション上がるんだけどっ!」
「仲間ではないわ! わらわは女王であるぞ! ええい、この羽虫め、無礼である! わらわの下僕たちよ、この無礼者を食い殺すのじゃ!」
カーミラが顔を真っ赤にしてジタバタと暴れながらアリたちに命令を下す。
しかし、ひれ伏しているミニアントたちは、同じ主を持つ仲間であるレイには攻撃できないのか、オロオロと触角を揺らすだけで一向に動こうとしない。
「もー、怒った顔もきゃわいーっ! ほっぺたすりすりしちゃうぞーっ!」
「や、やめろぉぉぉ! お主、見てないで、この変態女を何とかせぬか!」
涙目で俺に助けを求めてくる、女王カーミラ。
そのドタバタ劇を前に、鬼一は「やれやれ」といった様子で首を振り、アビスは静かに槍を構えたまま微動だにしない。
「ははっ……」
俺は、この光景に思わず吹き出してしまった。
血生臭い戦いばかりで、辟易していた。
その緊張の糸が切れたかのように笑っていた。
「よし、レイ、あんまりいじめてやるなよ」
俺が笑いながら声をかけると、レイは「えーっ」と不満そうにカーミラを解放した。
カーミラはようやくレイの腕から抜け出すと、乱れた真紅のドレスを整え、咳払いを一つした。
「……こほん。まったく、はしたない羽虫じゃ」
「羽虫ってあたしのこと!? ひどーい!」
「事実じゃろうて。ひらひら飛んで、やかましく、落ち着きがない」
「もー! その生意気なとこもかわいー!」
「だ・か・ら! 気安く触るでないっ!」
また抱きつかれそうになり、カーミラが慌てて俺の後ろへ回り込む。
俺は苦笑しつつ、しゃがみこんでカーミラと目線を合わせた。
「とりあえず、よろしくな。カーミラ」
すると彼女は、一瞬だけ目をぱちくりさせた。
それから、ふんっと鼻を鳴らす。
「……仕方あるまい。お主がわらわを生み出した以上、しばらくはその顔を立ててやる」
「しばらく、ってなんだよ」
「主従関係とは、互いの格を見極めながら育むものじゃ」
「……そうかい。それじゃあ、カーミラに認められるように頑張らなきゃな」
「ふん。せいぜい頑張ることじゃな」
鬼一。
アビス。
レイ。
そして、カーミラ。
俺のダンジョンに、また一体、頼りになる仲間が増えたのであった。
面白い、続きが読みたいと思っていただけましたら、ブックマークと評価をお願いします!




