第54話 真紅の女王蟻
その瞬間。
森全体が、まるで心臓のようにドクンと一度脈打った。
そして、地鳴りが森全体を揺るがす。
次いで、端末から爆発するように光が放たれる。
レッサー・ヴァンパイアは、足元から禍々しい真紅の魔法陣が浮かび上がり、彼女の身体が血の霧となって空中に舞い上がった。
大量の光と血の霧が空中で混ざり合い、女王蟻の幼生に吸い込まれていく。
そして、クイーン・アントの幼生がまばゆい黄金の光を放ち始めた。
「うおおっ!? すごい風だ!」
俺は思わず一歩退く。
風圧が台風の様に凄まじい。
木々が軋み、地面の落ち葉が舞い上がり、十数匹のミニアントたちは混乱したように触角を振っていた。
「御屋形様、お下がりください! 危険です!」
鬼一が俺の前に立ち塞がり、強烈な魔力の嵐から庇ってくれる。
赤と黄色の光の濁流は、周囲の巨木をへし折り、泥を巻き上げながら、やがて一つに収束していく。
レイだけは、その暴風の中でも目をきらきらさせている。
「わぁ……! すっご、光がぐるぐるしてるー! なにこれ、超やば!」
ズォォォォォォォンッ!!
やがてその光の渦は、急速に収束する。
そして、そのエネルギーの塊は、赤黒い巨大な繭となって森の中央へ出現した。
「これは、鬼一の時と同じ……」
鬼一が合成された時と同じか、それ以上の大きさの繭であった。
繭が脈打つたびに、内側から薄く光が漏れ、ドクン、ドクンと湿った鼓動が伝わってくる。
俺は息を殺し、ただその瞬間を待ち続けた。
やがて。
ピシ、ピシピシッ……。
赤黒いの繭の表面に、一本の亀裂が走った。
亀裂は瞬く間に広がり、ガラスが砕けるような鋭い音を立てて、繭が弾け飛んだ。
パァンッ!!
中から溢れだした血の霧が、花吹雪のように森の中へ舞い散る。
その霧の中心から、ゆっくりと『それ』が姿を現した。
俺は、現れた姿を見て、思わず言葉を失った。
巨大な化け物でも、醜悪な昆虫でもなかったからだ。
「……え?」
俺はてっきり、巨大な蟻の怪物か、レッサー・ヴァンパイアと同じような、妖艶な女王でも出てくるのだと思っていた。
だが、そこにいたのは。
人間の『子供』だった。
見た目は、10歳か12歳そこらの、可愛らしい少女。
白い肌と、腰まで届くような真紅の長髪。
頭には、女王のティアラのように気高く湾曲した、二本の美しい触角が生えている。
背中には、光を反射して七色に輝く、透き通るような妖精のような羽。
そして、彼女の小柄な身体を包み込んでいるのは、艶やかで硬質な真紅の甲殻。
それはまるで、豪奢なゴシックドレスのようだった。
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【合成完了】
クイーン・アント(ユニーク個体)×レッサー・ヴァンパイア→『真紅の女王蟻』
ランク:B+(ユニーク個体)
スキル:【女王のフェロモン】【血の洗礼】【焦血の針】
特性:【女王の威光】(配下である蟻の能力を劇的に上昇させる)
真紅の甲殻を持つ女王蟻。
吸血鬼の血が混ざり、独自の進化を遂げた姿。
女王の血液を、特殊なフェロモンと混合して群れに分け与える【血の洗礼】により、配下の蟻を『吸血蟻:Cランク』へと変異させることができる。
不用意に近づく敵には、隠し持つ鋭い針で攻撃し、体中の血液をすべて吸い尽くす。
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「真紅の……女王蟻」
俺は端末に表示された名前を、呆然と読み上げた。
B+ランク。
鬼一と同格の、俺たちの中でも最上位の存在。
しかも、蟻を用いた軍団戦に特化した、正に今必要な戦力だった。
その少女――鮮血の女王蟻は、ゆっくりとその美しい真紅の瞳を開いた。
その瞳孔は猫のように縦に割れている。
彼女はゆっくりと周囲を見渡し、そして、俺の姿を捉えた。
彼女は小さな手を胸に当て、ふわりと空中に浮かび上がると、俺の目の前まで静かに降り立った。
そして、腕を組み、小さな胸を反らせ、言い放った。
「……ふん。わらわの微睡みを破り、目覚めさせたのは、そこにおるお主か?」
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