第53話 レッサー・ヴァンパイア
『レッサー・ヴァンパイアを召喚しますか?』
『YES』
「召喚!!」
承認と同時に、森の空気がわずかに変わった。
俺の宣言と共に、端末から凄まじい光の粒子が噴き出した。
それは、この鬱蒼とした森の闇を切り裂くような『真紅の光』。
光の粒子は渦を巻き、一つの人型を形成していく。
やがて光が収束すると、そこには息を呑むほど美しい、一人の女性が立っていた。
透き通るような、病的なまでに真っ白な肌。
闇夜に溶け込むような漆黒のドレスに身を包み、背中にはコウモリを思わせる小さな翼が折り畳まれている。
しかし何よりも目を引いたのは、その顔立ちだった。
彫刻のように整った美貌。
そして、その切れ長の瞳は、まるで極上のルビーのように、深い真紅の輝きを放っていた。
その美しさに思わず感嘆の声を漏らすと、レッサー・ヴァンパイアは優雅な足取りで俺の目の前まで進み出た。
そして、流れるような所作で膝をつき、ドレスの裾を摘まんで恭しく頭を垂れたのだ。
『――我が身を現世に呼び戻していただき、心より感謝申し上げます。偉大なるダンジョンマスターよ』
俺の脳内に、鈴を転がすような、それでいて芯のある冷たい女性の声が直接響いた。
これは、念話だ。
さすがは1,000DPのCランク魔物。
既に自我を持ち、高度なコミュニケーション能力を有しているらしい。
「お前……俺の言ってることがわかるのか?」
『無論にございます。私はあなたの魔力によって受肉した眷属。あなたの御心は、私の魂と直結しておりますわ』
レッサー・ヴァンパイアは、真紅の瞳を細めて微笑む。
妖しく、美しく、そしてどこか残酷な笑みだった。
『して、我が主よ。この身をどのようにお使いに?』
彼女は、俺の前で跪きながら命令を乞うた。
「……呼び出しておいてすまないが、お前に戦ってもらうために召喚したわけじゃないんだ」
俺は彼女の瞳から目を逸らさず、まっすぐに告げた。
レッサー・ヴァンパイアは、微かに首を傾げる。
その仕草すら妙に洗練されていた。
「お前には、別の命へ力を注いでもらう。……お前の自我は、消滅してしまうかもしれない。それでも、やってくれるか?」
『……なるほど』
それは、自我を持つ存在に対する、残酷な宣告。
だが、俺の言葉を聞いたレッサー・ヴァンパイアの顔に、恐怖や反発の色は微塵も浮かばなかった。
むしろ、彼女の瞳は熱を帯び、さらに深く、歓喜に震えるように頭を下げたのだ。
『ああ……なんという誉れ。この身に流れる血が、我が主の新たなる剣となり、盾となるのですね』
「……嫌じゃないのか?」
率直に尋ねると、彼女はその紅い瞳を細めた。
『嫌などと、とんでもない。私は、主のために存在しているのです。私の命が、肉体が、魂が……あなたの勝利の礎となるのであれば、これに勝る喜びはございません。どうぞ、この身の全てを、余すことなくお使いくださいませ』
その言葉には、狂信的なまでの忠誠心と、自己犠牲への純粋な喜びが満ちていた。
「……ありがとう。お前のその覚悟、絶対に無駄にはしないからな」
魔物を使い捨てにするみたいで、正直、後ろめたさがある。
だが彼女自身が、誇りと喜びを持って自分の命を差し出してくる。
なら、俺はその覚悟に応えなければならない。
俺は再び端末の画面へと向き直り、【魔物合成】のメニューを開いた。
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『魔物合成』
選択:女王蟻の幼生(ユニーク個体)/レッサー・ヴァンパイア
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合成のベースに『女王蟻の幼生』を設定する。
画面には、【ユニーク個体】という特殊な表記があった。
やっぱり、ユニーク個体だったのか……。
そして、素材には『レッサー・ヴァンパイア』を選択する。
「よし……設定完了だ」
俺は端末の画面に表示された、最終的な消費コストを確認した。
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【魔物合成コスト確認】
・素材ランク【C】:1,000 DP
合計消費DP:1,000 DP
『合成を実行しますか? YES/NO』
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召喚コストと合成コストで、一気に2,000DPが消し飛ぶ。
4,600DPあった残高が、瞬く間に半分近くまで減ってしまう計算だ。
これを外したら、笑えないどころの話じゃない。
「マスター、大博打だねー!」
レイが半ば面白がるように言う。
「俺だって、できれば堅実にいきたいんだがな」
「あたしは、マスターの選択は間違ってないって思うよー」
「……そうだな。よし、一か八かだ……! 合成!!」
俺は力強く、【YES】のボタンをタップした。
その瞬間。
森全体が、まるで心臓のようにドクンと一度脈打った。
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