表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物合成で世界に抗う反逆譚~HP10の凡人おじさん、ダンジョンマスターになる~  作者: 藍之介
vs.『ダンジョン討伐軍』編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/76

第52話 幼生

 蟻の群れをじっと観察していた俺は、ある奇妙な『違和感』に気がついた。

 十数匹いるミニアントたちは、基本的に働き蟻として、せわしなく土を運んだり周囲を警戒したりしている。

 しかし、その群れの中央――最も安全な巣穴の入り口付近に、他の蟻たちとは雰囲気が違う『一匹』がいたのだ。


「……ん? あいつ、他の蟻と少し違わないか?」


 俺は目を細め、その一匹の姿を注意深く観察した。

 大きさ自体は他のミニアントとさほど変わらない。

 だが、その甲殻の色が異質だった。

 他の個体が漆黒のキチン質であるのに対し、そいつの甲殻は黒をベースにしながらも、まるで血が滲んだような、わずかに赤みがかった艶やかな色合いを帯びていたのだ。

 さらに、腹部のサイズが他の個体よりも一回り大きい。

 そして何よりの違いは、その背中にあった。


「羽……?」


 赤みがかった甲殻の背中には、まだ薄く弱々しいが、光を反射して虹色に輝く半透明の「羽」が二対、綺麗に折り畳まれている。


『主、あれは……』


 その異質な一匹の周囲だけ、空気の流れが違う。

 ミニアントたちは、その個体へ近づこうとしない。

 むしろ自然と道を空け、時折、触角を下げるような仕草すら見せている。


 俺がその特異な個体から目を離せずにいると、背後に立っていたアビスが、静かな念話を飛ばしてきた。


「アビス、あいつは一体何なんだ? 他のミニアントとは明らかに違う気がするけど」


『はい。あの羽、そして肥大化した腹部。間違いありませんな。あれは、ジャイアント・アントの群れを束ねる存在――【女王蟻クイーン・アント】の幼生にございます』


女王蟻クイーン・アント……!?」


 蟻の群れにおける女王。

 それは単なるお飾りの存在ではない。

 コロニー全体を統率し、蟻たち(兵隊)に絶対の命令を下す、群れの心臓部となり得る。


『その通りです。彼女が成虫へと羽化すれば、蟻たちの統率や増殖速度は現在の比ではなくなるでしょうな』


 もし、彼女が成虫になれば、一ヶ月後の討伐軍レイドを迎え撃つために、これほど頼もしい存在はない。

 蟻の軍隊が強化され、戦いを有利に進められるだろう。


『ただ……一つだけ、奇妙な点があります』


 アビスの念話が、少しだけ訝しげな色を帯びた。


「奇妙な点?」


『ええ。クイーン・アントが羽を持つこと自体は異常ではありませぬ。しかし、あの甲殻の赤み……あれは私の知識にはありません。クイーン・アントの甲殻は漆黒か、暗褐色であるはずですが』


「……鬼一と同じユニーク個体、ってことか?」


『おそらくは。その可能性が高いかと思います』


 アビスの言葉に、俺は再びその赤い女王蟻の幼生を見つめた。

 ユニーク個体。

 鬼一と同じく、通常の枠に収まらない、未知の可能性を秘めた存在。

 彼女が成虫になれば、一体どれほど恐ろしい群れを統率することになるのだろうか。


「……なぁ、アビス。こいつが成虫になるには、普通ならどれくらい時間がかかるんだ?」


 俺の問いに、アビスはほんのわずかに間を置いた。


『十分な魔力を与えたとしても、最低で数ヶ月、長ければ半年は要するでしょうな』


「最低でも数ヶ月か……」


 だめだ。

 遅すぎる。

 そんな悠長な時間など、俺たちには残されていない。

 王都から派遣される討伐軍レイドがこの森に到達するまで、残されたタイムリミットは約20日ほど。


 その時に、クイーン・アントがまだ幼生のままだと意味がない。

 女王がいない数十匹程度のミニアントなど、エリート冒険者たちを前に、一瞬で殲滅されてしまうだろう。


「待てない……。その間に、俺たちは皆殺しにされる……」


 俺は端末デバイスを強く握りしめる。

 頭の中では一つの可能性が浮かんでいた。


 ――【魔物合成】。


 異なる魔物同士を掛け合わせ、新たな、そしてより強大な生命体を創造する、ダンジョンマスターの力。


「……賭けに出るか」


「マスター?」


 蟻たち(ミニ・アント)と戯れていたレイが、こちらに振り向き、首を傾げた。


「……『魔物合成』の力を使って、この幼生を強制的に進化させる」


 その言葉を聞いた鬼一が、珍しく口をはさむ。


「しかし、御屋形様、それでは望まれぬ結果になる可能性もございませんか?」


 女王蟻クイーン・アントの幼生をベースに、強力な魔物を合成し、一気に限界を突破させる。

 それは一種のギャンブルだ。

 魔物合成によって、誕生する魔物は事前にわかるものではない。

 合成の結果、全く別の魔物になる可能性も否定できない。

 しかし、座して死を待つくらいなら、手持ちの全てのカードを使って抗うのが俺のやり方だ。


「いや、やってみるさ。今は少しでも可能性がある方に賭けたい」


「承知。御屋形様であれば、必ずや最高の結果をもたらすでしょう」


「あたしも何とかなると思うなー? 女の勘ってやつ?」


 レイも同意してくれる。

 例えここで失敗しても、まだDPは残る。

 致命的な失敗にはならないはずだ。


 問題は、彼女に掛け合わせる「素材」の選定である。

 ただ強靭な肉体を与えるだけではダメだ。

 合成の相手に必要なのは、女王として群れを統率する絶対的な『カリスマ性』と、敵を恐怖に陥れる『残虐性』が必要だ。


 俺は、レベルアップの恩恵で新たに解禁された『Cランク魔物』の召喚リストを開く。

 その中から、俺の理想とする「女王」のイメージに最も合致する魔物を探し出す。


 そして、俺の指は、リストの一番下――最も高額なコストを要求する、一体の魔物の名前の上で止まった。


・レッサー・ヴァンパイア:C(1,000 DP)


 吸血鬼の眷属。

 夜を統べる高貴なる血族であり、他者の血を啜ることで自己を強化し、魔眼によって精神を支配する恐るべき存在。


「……お前に決めた」


 俺は覚悟を決め、その名前を強くタップした。


『レッサー・ヴァンパイアを召喚しますか?』

『YES』


「召喚!!」


面白い、続きが読みたいと思っていただけましたら、ブックマークと評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ