第51話 成長する森
「……おいおいおい。マジかよ」
悪戯好きで状態異常をばら撒くピクシーや、機械や魔道具を破壊するグレムリン。
森林のフィールドと相性が良いドライアド。
そして、自己再生と吸血能力、魔眼を併せ持つ夜の貴族、レッサー・ヴァンパイア。
どれもこれも、戦力として、喉から手が出るほどほしい魔物ばかりであった。
だが、どいつもコストが大きいな。
レッサー・ヴァンパイアに至っては、たった一体で1,000DPだ。
「強大な力には、それ相応の対価が必要ってことか……」
いつの間にか横にいたレイが「うわぁ」と小さく感嘆する。
「けっこう高いねー」
「そうだな。流石においそれとは召喚できないな……」
今の俺なら払える。
払えるが……、この4,600DPは、決して『余裕』ではない。
来る、数十人の討伐軍を返り討ちにするための、ギリギリの運用資金だ。
重要なのは”点”の強さではなく、”面”での制圧。
そして、環境そのものを利用した、相乗効果を生み出す部隊編成だ。
「御屋形様。何か、面白い駒でも見つかりましたか?」
険しい顔で端末を睨みつける俺を覗き込むように、鬼一も尋ねる。
俺は小さく息を吐き、画面を閉じて顔を上げた。
「ああ。だけど……DPの無駄遣いは絶対にできないな」
「なるほど。一騎当千の猛者を少数揃えるか、それとも我らと相性の良い者を厳選するか……」
『主の決断に従いましょう。我らは仲間と共に、このダンジョンを死守するのみ』
「マスター?」
レイが、珍しく少しだけ真面目な声で言った。
「どうせ全部は呼べないんでしょ?」
「ああ、そうだな」
「なら、どんな魔物が“今のダンジョンに一番ハマるか”で考えた方がよくない?」
「そうだな。まさにそれだ」
俺もその言葉に同意する。
ゆっくりと立ち上がって、新造した第一階層の「森林」へと視線を向ける。
「よし。このDPをどう使うか決める前に、まずは『あっち』の様子を見に行くか」
「あっち……とは、あの森でございますか?」
鬼一が、第一階層へ続く通路を見つめながら言った。
「ああ。召喚しておいた、ジャイアント・アントたちの巣がどうなっているか、一度確認しておきたいしな」
一体の強大な魔物を召喚するのもいいが、今回の戦いの鍵となるのは『兵力』にあると思っている。
防衛線のため、戦力は多ければ多いほどいい。
俺たちは確かな足取りで、森林へと続く階段を歩き始めた。
ひんやりとした空気が、少しずつ生ぬるく、そして青臭い緑の匂いへと変わっていくのを感じた。
「……随分と、森らしくなったな」
第一階層に足を踏み入れた俺は、思わず感嘆の声を漏らした。
たった数日前に【フィールド改装】を実行したばかりの空間は、更に森林として成長したらしく、正に魔境の森へと変貌していた。
『そのようです。それに、濃密な魔力の淀みを感じます。自然発生の魔物たちも、順調に育っているようですな』
皆もダンジョンの神秘に驚いているようだった。
どこからともなく、生物の羽音や、動物の鳴き声のようなものが遠くから聞こえてくる。
レイの魔法を使い、意図的に作った『魔力だまり』によって、DPを消費せずに自然発生した下級の魔物たちが、この森に独自の生態系を築いているようであった。
「で、マスター。そのアリさんたちはどこにいるの?」
レイが空を飛びながら、興味深そうにキョロキョロと周囲を見渡している。
「確か、この辺りに巣を作らせたはずなんだが……」
俺は記憶を頼りに、巨大な木々の根元を一つ一つ確認していく。
そして。
「……あったぞ。あれだ」
俺が指差した先。
特に巨大な木の根本に、ぽっかりと開いた、人間がすっぽり入れるほどの『穴』があった。
その穴の周囲には、掘り返された黒い土が山のように積み上げられており、どこか酸っぱい匂いが漂っている。
そして、その穴の周囲に、数匹の「黒い影」が蠢いていた。
「ギチッ、ギチチチチ……!」
「うわぁ……」
俺は思わず顔を引きつらせ、一歩後ずさった。
大型犬ほどの大きさの蟻であった。
ジャイアント・アントが産み落とした子供たち――『ミニアント(Eランク相当)』である。
ミニとは名ばかりで、人間にとっては十分に巨大でグロテスクな昆虫の魔物。
ある個体は、自分より大きな木の枝を大顎で軽々と持ち上げて巣穴へと運び込み、またある個体は触角を震わせて周囲を警戒しているようだ。
「よしよし……順調に増えてるな。たった数日でこれだけ増えるなら、一ヶ月後にはかなりの数になるはずだ」
生理的嫌悪感で鳥肌が立つが、ダンジョンマスターとしては上々の成果であった。
このEランクの群れが、討伐軍の体力を削る戦力となってくれるだろう。
「えーっ! なにこれ、キモかわいーっ!」
「か、かわいい……?」
俺がドン引きしている横で、レイが歓声を上げてミニアントの群れに飛び込んでいった。
「えー、小さくて可愛いじゃん。 ほら、お手!」
レイがミニアントの一匹の頭をツンツンと指でつつくと、ミニアントは威嚇するでもなく、触角を振って大人しくしている。
どうやら、俺の配下であるレイのことは「味方」として認識しているらしい。
「ふむ……個々の戦闘力は取るに足らぬが、これだけの数が連携すれば、立派な戦力として機能しましょう。御屋形様の慧眼、恐れ入ります」
『いかにも。防衛の戦略が、着実に形になりつつありますな』
鬼一とアビスも、静かに頷いている。
俺はダンジョンの防衛に、確かな手応えを感じていた。
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