第50話 成果
「さて……それじゃ、帰るか」
俺がそう言うと、レイがぱっと顔を上げた。
「さんせーい! 帰ったら甘いものとか食べたーい!」
「魔物でも甘いものが好きなのか?」
「えー? だって疲れたときには糖分でしょ?」
レイが魔物らしからぬこと言う。
こうやって話していると、本当に人間と変わらない。
「いつぞやの報酬で、非常食用のビスケットがあったから、帰ったら食べるか」
「本当!? やったぁ!」
レイの子供のような反応に、俺は苦笑しつつ、端末を取り出した。
地底湖は、まだヴォルテックスの血でどす黒く染まっている。
潮の匂いと生臭さ。
焼けた肉と鉄の混ざったような、鼻の奥にこびりつくような臭い。
ここに長居したいとは思わなかった。
画面のメニューから【帰還】をタップする。
すると、端末が微かに震え、俺たちの足元に淡い青白い光が広がった。
「おっ、きたきた」
レイが楽しそうに、俺の横に立つ。。
鬼一は喰血を鞘へ収め、アビスも槍を静かに下ろした。
光の粒子が俺たちを包み込む。
視界が白く染まり、次の瞬間には、胃の奥がふっと浮くような奇妙な感覚が全身を貫いた。
転送と同じ感覚。
だが、帰還の時の方が少しだけ優しい気がする。
視界がぐにゃりと歪む。
***
――ザッ。
足の裏に伝わるのは、ゴツゴツとした硬い岩肌の感触。
「……よし、無事に帰還、と」
俺は薄暗い空間の中心で、赤と青の光を脈打たせているダンジョンコアを確認し、そのまま岩肌に腰を下ろした。
綺麗でもなく、快適でもないただの地下空間だが、ここが『拠点』であるという認識が定着しつつある。
「無事のご帰還、何よりにございます」
鬼一が低く言う。
アビスもまた、いつも通りの静かな声音で念話を飛ばしてきた。
『此度の戦いで、更にDPを増やせたのは僥倖でしょうな』
レイも翼を羽ばたかせ、「お疲れーっ!」と空中で陽気に笑っている。
その手には、先ほど渡したビスケットの袋を持っていた。
「ああ、皆本当にお疲れ様。……さて、それじゃあ今回の『稼ぎ』の最終確認といくか」
俺は岩肌に座り込んだまま、端末を開いた。
今回、深海の塔に挑んだ目的は、ダンジョンを防衛し、拡充するためのDPを獲得することだった。
道中で魔物を倒すたびに獲得したDPの通知はチラチラと確認していたが、ミッションクリアボーナスを含めた最終的な残高を見るのはこれが初めてだった。
画面をスワイプし、ステータス画面を表示する。
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名前:ボンド
職業:ダンジョンマスター LV:8
HP:44/44(+9)
MP:33/33(+8)
筋力:12(+4)
魔力:16(+6)
耐久:13(+5)
俊敏:12(+4)
運 :20(+5)
【スキル】
魔物合成(LV2)
鼓舞(LV1)
【実績】
深海の塔:第2階層突破
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「おお……」
俺自身もだんだんと成長してるな。
以前より体も軽くなった気がする。
戦える自信は全くないけど……。
続いてDPの残高を確認する。
『所持DP:4,600』
そこには、過去最高のDPが記載されていた。
「4,600DP……ふふっ」
頬が勝手に緩む。
俺の口元が、だらしない弧を描いてしまう。
画面を見てニヤニヤしている今の俺は、さぞかし気持ち悪く見えるだろう。
「ふふ……一体、何に使おうか? 魔物を召喚して戦力を増やすか……、ダンジョンの部屋を増やしてもいいよな……」
サラリーマン時代、ボーナスが振り込まれた直後の銀行口座の残高を、一人ニヤニヤしながら眺めていたあの感覚。
これだけのDPがあれば、強力な戦力を増やしたり、ダンジョン内の罠を設置も、なんだってできるぞ。
「……御屋形様? いかがなされましたか、そのように口角を歪めて……」
『ふむ。人間の持つ物欲の表れというやつでしょうか。主からは今、非常に禍々しい気配を感じます』
「マスター、顔キモいよー? 悪い代官みたいな顔してるーっ」
「お前ら、うるさいぞ! DPがこれだけあれば、笑いも止まらなくなるっての!」
俺は咳払いをして表情を引き締め、再び端末の画面に向き直った。
よし、まずは新しく追加された戦力の確認だ。
今回のクリア報酬で、『水棲系(中級)』の魔物が召喚リストに解放されている。
「さて、どんな魔物がいるのか、見てみよう」
俺は召喚リストのタブを切り替え、新しく追加された項目を展開した。
画面にズラリと並んだ魔物の名前とステータス。
それは、俺たちが先ほど命懸けで戦ってきた、深海の塔の住人たちであった。
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【NEW(水棲系:中級)】
・ポイズン・トード:D+(300 DP)
極彩色の皮膚を持つ巨大な蛙。
触れるだけで皮膚を溶かす猛毒を持ち、遠距離から粘着性の舌で獲物を捕縛する。
・クラーケン:C(600 DP)
巨大な王冠のような頭部を持つ海魔。
死角から無数の触手で獲物を引きずり込む。
・ヴォルテックス:C+(800 DP)
水流を自在に操り、獲物を渦潮に巻き込んで捕食する巨大な三つ首の海蛇。
その青い鱗は、並の魔法や物理攻撃を容易く弾き返す。
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「なるほど……深海の塔で戦った魔物を召喚できるのか」
俺は顎に手を当て、思考を巡らせた。
フィールド改装で湖を作って、ポイズン・トードを潜ませておき、侵入者が足を踏み入れた瞬間に一斉に襲い掛からせるか。
もしくは、クラーケンの触手で奇襲させるか……、ヴォルテックスに水流を操らせて分断を図るのも悪くない。
4,600DPを手にして大金持ちになった気分だが、考えなしに召喚していけば、あっという間にDPが底をついてしまう。
Cランク帯ともなると、1体の召喚でもかなりDPが必要だな……。
そして、さらに俺を驚かせたのは、レベル8到達の恩恵の新たな召喚リストだった。
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【NEW(LV7開放)】
・ピクシー:C(500 DP)
小柄な妖精の姿をした魔物。
敵に混乱や睡眠などの状態異常をばら撒き、戦場をかき乱す小さな遊撃手として真価を発揮する。
・グレムリン:C(500 DP)
醜悪な姿をした小鬼。
冒険者の持つ魔道具や武器の構造を瞬時に理解し、破壊・妨害することに長けている。
【NEW(LV8開放)】
・ドライアド:C(700 DP)
大樹に宿るとされる、美しい森の精霊。
多くの木々を操り、攻撃することができる。
・レッサー・ヴァンパイア:C(1,000 DP)
吸血鬼の眷属。
高い身体能力と再生力を持ち、魔眼による催眠や幻術も操ることができる。
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「……おいおいおい。マジかよ」
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