第48話 -冒険者side- 銀葉の魔術団
討伐軍の結成が下された、その日の午後。
王都の高級住宅街――貴族や大商人、そして一部の高ランク冒険者のみが居を構えることを許される特別区の一角に、一人のギルド幹部が足を運ぶ。
そこには、蔦と翡翠色の装飾で彩られた壮麗な邸宅があった。
門柱には、銀の葉が五枚重なった紋章が刻印されている。
ここは、王都の誰もが知るBランクパーティ、『銀葉の魔術団』の本拠地である。
ギルド幹部である、ルドアは、その門前で一度だけ深く息を吐いた。
ギルド本部の重鎮である彼をしても、この邸宅へ足を運ぶ時はわずかに眉間へ皺が寄る。
「……ようこそ、お待ちしておりました。主は奥におりますので、どうぞこちらへ」
上品な身なりの使用人に案内され、ルドアは冷や汗を拭いながら豪邸の奥へと進む。
『銀葉の魔術団』。
彼らは、強力な魔法使いを複数擁し、こと魔法戦においては、現役パーティの中でも屈指の力を持つとされるパーティである。
Bランクという地位にありながら、魔法での殲滅力はAランクのパーティにも匹敵する。
だが、彼らにはギルド内でも「取り扱い注意」とされていた。
その理由は、リーダーの苛烈で傲慢な性格と、その「種族」に由来していた。
サロンの重厚な扉が開かれると、芳醇なワインの香りと、目も眩むような豪奢な調度品が目に飛び込んできた。
部屋の中央、最高級のビロードのソファに深々と腰を下ろしているのは、一人の男。
流れるような金糸の髪。
透き通るほどに白い肌と、宝石のように冷たいエメラルドの瞳。
そして、長く尖った耳。
彼こそが、エルフ族にして『銀葉の魔術団』のリーダー。
その名はセラド。
「それで……ギルド本部の幹部が、私に何の用だ? 私は今、希少なヴィンテージワインを味わっている最中なのだが」
セラドはグラスを揺らしながら、こちらに対し視線すら向けずに、冷たく言い放った。
その隣では、彼と同じくエルフの女性――サブリーダーのリュネが、退屈そうにヤスリで爪を手入れしている。
くすみのない銀色の髪と、冷たい紫色の瞳を持つ、絶世の美女だがとても底意地の悪そうな女だ。
「突然の訪問、深くお詫び申し上げます、セラド殿。本日は他でもない、ギルド総帥ゼルカイン様からの直接の『指名依頼』をお持ちいたしました」
「ほう。あのゼルカインが、私を指名したと? さぞかし大層な依頼なんだろうな」
セラドが微かに興味を示し、エメラルドの瞳をちらりとルドアに向けた。
「辺境のファイデン支部にて、異常な成長を示す新生ダンジョンが確認されました。既にCランクパーティ『鋼の薔薇』が全滅、迷宮再構築も発生しているとの情報もあります。本部は危険度をBランクへ引き上げ、大規模な討伐軍の編成を決定いたしました」
ルドアが早口で状況を説明し、そのダンジョン討伐軍の中核として、殲滅力に秀でた『銀葉の魔術団』の力を貸してほしいと乞う。
しかし、その必死な訴えを聞いたセラドとリュネの反応は、ルドアの予想とは全く異なるものだった。
「……ふっ、ふははははははっ!」
セラドが、突然声を上げて笑い出す。
隣のリュネも、呆れたようにため息をつきながらクスクスと肩を揺らしている。
「セ、セラド殿……? 何がおかしいのでしょうか」
「いや、失礼した。あまりにも滑稽だったものでな。……おい、聞いたかリュネ。辺境の田舎冒険者どもが、しかも下等な『人間族』が数人死んだくらいで、ギルド本部は大騒ぎしているらしいぞ」
「ふふっ……本当に笑ってしまいますわね……。短命で、ろくに魔力も持たない人間が何人死んだところで、何か問題があるのでしょうか?」
目の前のエルフの口から飛び出したのは、純粋なまでの『人間への差別』であった。
エルフという種族は、数百年という寿命と、生まれながらにして人間とは比較にならないほどの膨大な魔力量を誇っている。
彼らにとって、人間など泥の中を這いずり回る羽虫に等しい存在であり、その羽虫が何匹死のうが、彼らの心を痛める理由にはならないのだ。
「しかしセラド殿! そのダンジョンでは、迷宮再構築が起こり、新たに『森林』の環境を構築したと報告が――」
「フン……森林だと?」
セラドの声が、一段低くなった。
「下等な魔物風情が、我らエルフの聖域である『森』を模倣したというのか? そんなことは決して許されぬ、エルフ族への冒涜行為に等しい……」
セラドはそう言い放つと、持っていたワイングラスをテーブルに置き、ゆっくりと立ち上がる。
その瞬間、全身から圧倒的なまでの魔力が体から溢れだした。
ルドアは思わず息を呑み、後ずさった。
「よかろう、その依頼、我が『銀葉の魔術団』が引き受けてやろう。我らの魔術で、そのダンジョンを完全に破壊してやる」
エメラルドのような瞳が、刃のように冷たく光る。
彼の顔に浮かんだのは、絶対的な自信。
敗北など露ほども想像していない、強者特有の余裕であった。
「あ、ありがとうございます……! では、ダンジョン侵攻の準備をお願いいたします。出発は一ヶ月後を予定しております」
「一ヶ月だと? 他の雑魚どもの準備を待つのか、実に下らん。邪魔になるだけだ」
「申し訳ありませんが、ギルド本部の決定ですので……」
「……ふん、好きにしろ」
ルドアは頭を下げながら、逃げるようにサロンを後にした。
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