第37話 レイ
光の繭から放たれる熱気と冷気が交互に押し寄せ、俺は思わず顔を腕で覆った。
バチバチと放電するような音が続き、やがて、その音が美しい「旋律」へと変わっていった。
まるで、透明なクリスタルを叩いたような、澄み切った歌声。
光が、ふわりと霧散した。
そこに現れたのは、息を呑むほど美しい女性だった。
背中には、青から真紅へとグラデーションを描く巨大で優雅な翼。
手足には水かきのある水棲の意匠を残しつつも、その身体は人間の女性そのものだった。
透き通るような白い肌。海のように深い蒼色の長い髪。
身に纏っているのは、真珠や珊瑚を編み込んだビキニのような極小の装飾品のみで、目のやり場に困るほど露出度が高い。
その妖艶な魔物は、空中でくるりと宙返りをすると、パサリと優雅に着地した。
そして、俺の顔を見るなり、満面の笑みを浮かべて片目をウインクしてみせたのだ。
「ヤッホー、マスター! あたしを呼んだのはキミ? よろしくねっ☆」
「……は?」
予想外すぎる第一声に、俺は間抜けな声を漏らして固まった。
鬼一も黙った。
アビスだけが、わずかに首を傾げた。
空気が違いすぎる。
この陽気な感じ。
これはあれだ。
ギャルだ。
血と泥にまみれた俺や、厳つい鎧のアビス。
そして、鬼の鬼一という「むさ苦しい男(と魔物)所帯」に、いきなり渋谷のギャルが乱入してきたような強烈な場違い感。
「え、あ、はい。こちらこそ……?」
なんで俺が戸惑ってるんだ。
彼女はくすくす笑いながら、俺の周りを一周した。
飛行というより、水に浮かぶみたいな滑らかさだ。
「んふふ、マスターったら顔真っ赤! ウブで可愛いとこあるじゃん♪ そういえば、あたしの名前は? 早くつけてよー!」
彼女は俺の腕にすり寄り、豊満な胸を押し付けながら上目遣いでねだってくる。
いい匂いがする。海の潮風と、ほのかな花の香りが混ざったような……。
って、違う! 誤魔化されるな俺!
俺は慌てて咳払いをして、彼女から距離を取り、端末のステータス画面を確認した。
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【合成完了】
ハーピー×サハギン+砕けた杖の魔石(触媒) → 『セイレーン』
ランク:C+
スキル:【魅惑の歌声】【水流操作】【炎魔法】
特性:【水/空への適正】
美しい翼と水かきを持ち、空と水を自在に舞う妖鳥。
透き通るような声で紡がれる歌は、聞く者の精神を魅了する。
本来は水属性に特化した魔物だが、灰被りの魔女の魔石を触媒としたことで、水流の中から相反する「炎」を生み出す特異な魔法適性を獲得した個体。
気まぐれで陽気な性格だが、敵対する者には水と炎の容赦ない二重奏を浴びせる。
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「C+ランク……! しかも、水と炎の複合魔法使いか!」
これ以上ないほどの大当たりだ。
深海の塔で水流を操り、同時に炎魔法まで行使できる。
おまけに空中も水中も自在に動ける特性付き。
見た目はチャラいが、ステータスは間違いなく一級品の魔法使いだった。
「名前か……そうだな。歌姫っぽく、『レイ』でどうだ?」
「レイ? うん、短くて呼びやすいし、あたし好きかも! ありがと、マスター!」
レイと名付けられたセイレーンは、嬉しそうに翼を羽ばたかせた。
「ね、ね、マスター! これからどうするの? 森の見回り? それとも深海の塔ってとこ? あたし、飛ぶのも得意だし、水場の戦いならもっと得意だよ!」
「御屋形様。この女、やたらと馴れ馴れしいですが、本当に戦力になるのでしょうか?」
後ろで見ていた鬼一が、胡散臭そうな顔でレイを睨みつける。
アビスも無言だが、槍の穂先が微かにレイの方を向いている気がした。
彼らにとって、この軽薄な態度は武人として許せないのかもしれない。
「そこのツノゴリラと鉄クズ。何か文句でもあるっての?」
レイはふてぶてしく腰に手を当てると、すっと目を細めた。
先ほどまでの陽気な雰囲気が一変し、魔力の圧が洞窟内に放たれる。
「あんたたちみたいな脳筋、あたしの炎でこんがり焼いてあげようか? ……それとも、水攻めがお好みかしら?」
彼女の周囲に、灼熱の炎の球体と高圧の水流が同時に浮かび上がる。
相反する属性が反発し合い、凄まじい魔力の嵐が吹き荒れた。
これが、C+ランク魔法使いの力。
「ほう……口だけではないようだな」
『……良き魔力です。これならば、魔力だまりの形成も容易でしょう』
鬼一が好戦的な笑みを浮かべ、アビスが感心したように念話を送る。
どうやら、実力は認められたらしい。
「よし、喧嘩はそこまでだ。頼もしい仲間が増えたな」
俺は大きく頷いた。
前衛の鬼一とアビス。
後衛の魔法使い、レイ。
そして、森で増殖を続けるアントの軍団。
残りのDPは470。
しかし、まだ油断はできない。
深海の塔を攻略し、さらにDPを稼ぎ、一ヶ月後の討伐軍を完膚なきまでに叩き潰す。
「いくぞ、お前たち! これから、深海の塔攻略だ!」
俺の号令に、鬼一が咆え、アビスが槍を鳴らし、レイが陽気に翼を羽ばたかせる。
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