第36話 化学反応
「しかし、御屋形様。蟻どもは時間稼ぎにはなりましょうが、Bランクの冒険者を殺し切るほどの決定打にはなり得ませぬ。それに、自然発生を促すには、このダンジョン内にもっと濃密な魔力だまりを作る必要がございます」
『その通りですな。我らだけでは、ダンジョンを満たすほどの魔力は放出できません』
鬼一とアビスの的確な指摘に、俺は頷いた。
「ああ、わかってるさ。残る問題は、魔力だまりの構築と、それを兼ねた『深海の塔』の攻略要員の確保だ」
現在の所持DPは800。
深海の塔は水浸しのフィールドであり、前衛の鬼一とアビスだけでは、遠距離攻撃や水への適応力に不安が残る。
それに、魔力だまりを作るために、物理攻撃主体の彼らではなく、魔法を行使できる魔物が必要不可欠だった。
「水に強く、かつ魔法を操る魔物……。しかも、俺の少ないDPでそれを実現するには、やっぱり【魔物合成】の力に頼るしかないな」
俺は再び端末を操作し、召喚リストの睨めっこを始めた。
魔法を使えそうな魔物はいくつかいるが、どれも一長一短だ。
そこで俺は、異なる属性を掛け合わせて、化学反応を狙うことにした。
「空中から魔法で爆撃できれば、水没したフィールドでも無双できるはずだ。空を飛べる魔物と、水棲の魔物を組み合わせる……」
選んだベースは、新たに召喚可能となった『ハーピー:D(120 DP)』。
空を舞う有翼の魔物であり、風の魔法を操るという。
これに掛け合わせる素材は、深海の塔のクリア報酬で追加された水棲系の魔物、『サハギン:E+(40 DP)』だ。
「よし、召喚だ!」
160DPを消費すると、光の中から二体の魔物が現れた。
一体は、女性の上半身に猛禽類の翼と鉤爪を持つハーピー。
次に、水臭い飛沫とともに半魚人サハギンが現れる。
召喚後に、俺はすかさず【魔物合成】のメニューを開く。
ベースにハーピー、素材にサハギンをセット。
ここまではいい。だが、この二体を混ぜただけでは、強力な魔力だまりを作るほどの魔法の使い手にはならない気がする。
魔法の才能を付与するための”起爆剤”が必要だ。
「触媒を使うしかないな」
俺は、倉庫機能に収納していた戦利品の中から、一つのアイテムを取り出した。
それは、先の戦いで、灰被りの魔女が遺した『砕けた杖の魔石』。
小刀の投擲によって砕け散った、あの強力な杖の残骸だ。
この魔石には、Cランク魔法使いの強力な炎の魔力と、執念の力が宿っているはず……。
仇の残り火だ。
だが、今の俺には感傷に浸っている暇はない。
使えるものは、全部使うと決めていた。
「水と空の魔物に、炎の魔石を混ぜる。相反する属性だが……この歪さが、きっと特異な進化を生むはずだ!」
俺は砕けた杖の魔石を触媒に選択。
画面には、合成コストの確認が表示される。
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【魔物合成コスト確認】
・合成実行DP(Dランク含む):70 DP
・触媒追加:100 DP
合計消費DP:170 DP
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「所持DPは残り470か。……痛い出費だが、ここでケチって深海の塔で全滅したら元も子もない」
俺は覚悟を決め、【YES】のボタンを強く押し込んだ。
『合成を開始します』
ドクンッ。
また、あの心臓みたいな音がした。
だが今回は、鬼一の合成の時ほど禍々しくはない。
もっと軽やかな感じだ。
その瞬間、ダンジョン全体が共鳴するような高周波の音が鳴り響いた。
ハーピーとサハギンの身体が、それぞれ黄金の光と青い光に包まれ、互いに引き寄せられていく。
そこに、触媒として投げ込まれた『砕けた杖の魔石』が、真紅の炎となって割り込んだ。
風の黄金、水の青、そして炎の赤。
相反する三つの属性が反発し合い、激しいスパークを散らしながら、一つの巨大な光の繭を形成していく。
「ッ!?」
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