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魔物合成で世界に抗う反逆譚~HP10の凡人おじさん、ダンジョンマスターになる~  作者: 藍之介
vs.『ダンジョン討伐軍』編

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第34話 ダンジョン改装

 最初に手掛けるのは、インフラ工事からだ。

 端末デバイスを握る手に、じわりと汗が滲む。

 画面には、これから俺が実行しようとしている大規模なダンジョン拡張のメニューが表示されていた。


-----------------------------------------------------

・階層の追加:400 DP

・フィールド改装(森林):300 DP

-----------------------------------------------------


 合計700DP。

 所持している1,830DPの三分の一以上が一瞬で吹き飛ぶ計算になる。

 だが、これは絶対に削れない「初期投資」だ。

 命をチップにした防衛戦で、出し惜しみはイコール死を意味する。


「よし……まずは階層の追加からだ」


 俺は覚悟を決め、【階層の追加】のアイコンを強くタップした。


-----------------------------------------------------

【階層の追加】

追加位置を選択してください。


・現在の階層の上に作成する

・現在の階層の下に作成する

-----------------------------------------------------


 画面に、見慣れないポップアップが表示された。

 俺は思わず顎に手を当てる。

 上か、下か。

 なるほど、ダンジョンの構造を立体的に拡張できるということか。

 現状、このダンジョンは地上から入り口を通ってすぐの、言わば地下1階のワンフロア構造になっている。

 防衛のセオリーから考えれば、外敵を迎え撃つための玄関口フロントとなる広大なエリアが必要だ。

 俺たちとダンジョンコアがいるこの部屋を安全な「地下」に押し下げ、その上に外敵を疲弊させるための「1階」を新造する。


「……上に作成、かな」


 迷いなくボタンを押す。


『処理を実行します。消費:400 DP』


 ブゥゥンッ!!


 その瞬間。

 俺の足元から、文字通り「世界がひっくり返る」ような凄まじい轟音が響き渡った。


 次の瞬間、端末が今までにない強烈な唸りを上げた。

 手のひらに収まる板切れとは思えないほどの振動が、骨まで直接叩いてくる。

 ダンジョンコアが呼応するように、赤と青の光を激しく脈動させた。


 ……ズズンッ!!


「うおっ!?」


 足元が跳ねた。

 とてつもなく大きな地震。

 いや、地震なんて生易しいものじゃない。

 ダンジョンそのものが脈を打ち、軋みながら、構造を組み替え始めている。


 壁が鳴る。

 天井が唸る。

 無数の亀裂が岩肌を走り、その裂け目から白い光の筋が噴き出した。

 石と石が擦れ合う重低音が、肺の奥まで響いてくる。


「御屋形様! お下がりください!」


 鬼一が叫ぶ。

 その野太い声に反応するより早く、アビスが俺の前へ出た。

 青黒い大盾を構え、崩れ落ちる岩片から庇うように立ちはだかる。


 部屋の床が傾ぐ。

 いや、俺たちがいるこの最奥の部屋そのものが、巨大な昇降機みたいに、ゆっくりと沈み始めていた。


「なっ……こ、これ、階層が増えてるっていうか、今の階層が押し下げられてるのか!?」


『そのようです』


 アビスの念話は冷静だったが、その青い眼光はわずかに強く揺れていた。

 アビスも驚いているのだろう。


 数十秒か、数分か。

 体感時間のわからない揺れが続き、やがて大きな衝撃とともに沈下は止まった。


 ズゥンッ!!


 耳の奥がきん、と鳴る。

 舞い上がった岩粉がゆっくりと落ちていく中で、俺は荒い息を吐いた。


「お、終わったのか……?」


 端末の画面を見る。


-----------------------------------------------------

【階層の追加:完了】

新たに第一階層が生成されました。

ダンジョンコアは第二階層へ移行しました。

-----------------------------------------------------


 今いる場所が、もう第一階層ではないことが綴られていた。

 先ほどまで入口と同じ階層にあったはずの俺たちの部屋は、丸ごと一階分、地下へ沈められたらしい。

 つくづく、とんでもない機能チカラだな。

 だが、まだ終わりじゃない。


「次は、フィールド改装だな……」


 俺は唾を飲み込み、『フィールド改装:300DP』をタップした。

 選択肢は『森林』と『湖』。

 どうするかは既に決めている。

 討伐軍レイドの進軍速度を落とす地形。


「森林を選択」


 すると、次のポップアップが表示された。


-----------------------------------------------------

『対象階層を選択してください』

・第一階層(入口)

・第二階層

-----------------------------------------------------


「第一階層だ」


 俺は迷わずに『実行』をタップした。


 ――次の瞬間。


 ゴゴゴゴゴゴゴッ!!


 今度の変化は、さっきの沈下とは明らかに性質が違った。

 それは破壊ではない。

 もっと原始的で、もっと理不尽で、もっと生命じみた変動だった。


 マップ上の第一階層を示す青い領域が、ざわりと緑に染まる。

 それと同時に、頭上から土の匂いが落ちてきた。


「……土?」


 鼻腔をくすぐるのは、湿った岩の匂いではない。

 雨上がりの公園の地面みたいな、黒く、豊かで、生きた土の匂いだ。


 俺たちは慌てて第一階層へ続く階段へ走った。

 そして、俺たちの目の前に広がる通路の先――先ほどまで入り口の部屋があった場所から、眩いほどの光と、むせ返るような濃密な生命の匂いが押し寄せてきた。


「なんだ、これ……!?」


 俺は思わず息を呑んだ。

 もともと無機質な岩の通路だったはずの空間が、光の粒子に侵食されるようにして崩れ、膨れ、うねっている。

 岩壁は内側から押し破られるようにひび割れ、その裂け目から木の根が何十本も突き出した。

 それらは一瞬にしてつたを伸ばし、幹を太くし、葉を広げ、見上げるような巨木へと急成長していく。

 枝が分かれ、葉が噴き出し、緑の天蓋が暗い洞窟の上部を覆い尽くしていく。

 バキバキ、メキメキと、命が爆発するような音が空間を満たす。


 光の届かないはずの地下空間に、どこからともなく淡い緑色の陽光のような光が差し込み、木々の隙間を縫って地面を照らしている。

 視界を遮るほどに生い茂った下草。

 方向感覚を狂わせる、鬱蒼うっそうと重なり合った樹冠。

 葉擦れの音が、地下のはずの空間に満ちた。

 一歩足を踏み入れれば靴が沈み込むような、ぬかるんだ腐葉土。

 それらが、たった数十秒の間に、何もない空間から創り出されたのだ。


「す、すげえ……」


 呆けた声が漏れる。

 土の匂い。

 青い葉の匂い。

 樹液の甘い香り。

 湿気を含んだ空気が、一気に命の密度を増した。


「これが……ダンジョンの改装……」


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