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魔物合成で世界に抗う反逆譚~HP10の凡人おじさん、ダンジョンマスターになる~  作者: 藍之介
vs.『ダンジョン討伐軍』編

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第32話 魔物について

「とは言ったものの、何から手をつけるか……?」


 この状況を、気合いだけで乗り越えられるほど甘い世界ではないことは、この数日で骨の髄まで思い知らされていた。

 敵は数十人の冒険者たち。

 対するこちらは、俺を含めて三人(体)しかいない。

 真正面からぶつかれば、一瞬で磨り潰されてしまうだろう。


 この部屋には、まだ戦いの匂いが残っている。

 血と鉄と焦げた肉の臭い。

 だが、その中でコアだけは相変わらず赤と青の光をゆっくりと脈打たせている。

 まるで「さぁ、次の戦いだ」とでも言いたげに。

 鬼畜すぎるだろ、このダンジョン。


「とりあえず情報整理だ。敵と、この世界についての情報が要る」


 そして、俺の前に控える二体の強大な魔物――アビスと鬼一に向き直る。

 彼らはただの魔物ではない。

 Bランク以上に到達し、高度な知性と自我、そして言語能力を獲得した存在だ。

 今の彼らなら、俺がまだ知らないこの世界の『情報』を知っているかもしれない。


「鬼一、アビス。お前たちに聞きたいことがある」


「何なりと、御屋形様」


『我らの答えられることでしたら、包み隠さずお話しいたしましょう』


 鬼一が恭しく頭を下げ、アビスの重厚な念話が脳内に響く。


「お前たちは、この世界のこと……例えば、なぜダンジョンが存在しているのかとか、そういうことは、何か知っているか?」


 自分でも、ずいぶん漠然とした質問だと思う。

 なぜ、ダンジョンが存在しているのか。

 なぜ、俺はこんなところにいるのか。

 『ダンジョンマスター』とは何なのか。

 疑問を並べ出したらきりがない。


 俺の問いに、二人は顔を見合わせた。

 鬼一は腕を組み、小さく首を横に振る。


「申し訳ありませぬ、御屋形様。この世界に関わることは、我らにも詳しくは分かりませぬ」


『左様です。私の内にも、戦い方や忠義の形に関する知識はありますが、それがどの時代、どの国の、いかなる理に属するものなのかまでは判然としません。まるで、結果だけが刻まれ、由来が削ぎ落とされたような感覚です』


「そうか……まあ、知らないものは仕方ないさ」


 薄々予想はしていたが、やはり彼らもこの世界の知識までは持っていなかったか。

 だが、俺が少し落胆して見せると、鬼一がハッとしたように漆黒の角を揺らして口を開いた。


「ですが、『魔物そのものの生態』についてであれば、我々の魂に刻み込まれた本能的な知識としてお伝えできることがございます」


「本当か!? 例えばどんなことだ?」


「例えば、我々のように召喚された者は、召喚主の命令を絶対の法とします。ですが、ダンジョン内に自然発生する魔物たちは、ただ『ダンジョンコアを守る』という本能のみで動く獣にすぎません」


「……自然発生する魔物だって?」


 鬼一の言葉に、俺は思わず目を見開いた。

 自然発生。

 つまり、俺がDPダンジョンポイントを支払って召喚しなくても、勝手に魔物が湧いてくるということか?


「はい。御屋形様が魔力を消費して直接召喚する我々とは異なり、ダンジョンという空間そのものが、自発的に生み出す魔物たちのことです」


「ダンジョンが自発的に生み出す……? どうやって?」


俺が身を乗り出して尋ねると、今度はアビスの重厚な念話が脳内に響いた。


『条件は、“魔力だまり”の形成です』


「魔力だまり?」


『この世界において魔力とは、目に見えない血液のようなもの。強大な魔物自身から無意識に漏れ出している魔力の余波や、あるいは侵入者である冒険者たちが戦闘において行使した魔法の残滓。そのような空間に漂う魔力が、ダンジョンという密閉空間内に蓄積し、おりのように溜まって一定の濃度を超えた時、ダンジョンがそれを核として新たな魔物を受肉させるのです』


 アビスの説明を聞き、俺はハッとして周囲を見渡した。

 血と焦げ跡に塗れたこの部屋。

 ここにはつい先ほどまで、Cランクの魔法使いエリシアが放った極大の炎魔法バーニング・ノヴァの魔力が吹き荒れていた。

 テオの回復魔法や身体強化のバフ。

 そして何より、アビスの突然変異や、ゴブいちから鬼一への超絶な進化の際、ダンジョン全体を震わせるほどの莫大な魔力の奔流があったはずだ。


「じゃあ……あの魔法使いが撃った大魔法の跡とか、お前たちの進化の余波が残る今のこのダンジョンは、まさに『魔力だまり』ができつつある状態ってことか?」


「左様にございます。おそらく放置しておけば、いずれこの部屋の淀んだ魔力を吸って、低級の魔物が自然と湧き出すことでしょう」


 鬼一が力強く頷く。

 魔物が勝手に増える。

 それは一見すると素晴らしいシステムのようだが、気になる点もあった。


「なるほど……。じゃあ、その自然発生した魔物たちも、俺の命令を聞いてくれるのか?」


 俺が期待を込めて尋ねると、鬼一はゆっくりと首を横に振った。


「いえ。我ら召喚された魔物は御屋形様の意思を絶対としますが、自然発生した魔物たちには、複雑な命令を理解するほどの知性はありません。彼らを突き動かすのは、ただ一つ。『外敵からダンジョンコアを守る』という、根源的な本能のみ。いわば、自律駆動する防衛機構のようなものです」


 アビスが淡々と補足する。


『もっとも、知性の高い個体であれば、意思疎通は可能です。己の利益になると判断すれば、主に従う者もいるでしょう』


「なるほど。本能だけで動く、防衛機構……」


「また、出現する魔物は発生する場所の『環境フィールド』に強く依存いたします。例えば洞窟ならスライムやゴブリンが、水辺ならば水棲の魔物が、森ならば獣や虫の魔物が自然発生しやすくなるのです」


『それと、一部の種族は、条件さえ整えば自然増殖します』


「自然増殖だって……! どういうことだ?」


「すべての魔物ではありませぬが、虫系、獣系、群体型、一部の植物系などは、適したフィールドと十分な魔力があれば、ダンジョンの魔力を糧として繁殖いたします」


「ダンジョンの魔力を、糧に……?」


『餌や水が不要になる、という意味ではありません』


 アビスが更に補足する。


『ただし、繁殖の条件としては、外界の生物より遥かに“魔力と環境”が重要となります。たとえば湿地を好む種に乾いた岩場を与えても増えません。逆に、適した環境を用意すれば、通常の生態系ではあり得ぬ速度で数を増やすこともあります』


 鬼一とアビスから得られたその情報は、俺の脳内に雷のような閃きをもたらした。


「……これだ」


俺は思わず拳を握りしめ、立ち上がった。


「鬼一、アビス。 これなら勝てるかもしれない!」


「御屋形様、それは一体……」

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