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魔物合成で世界に抗う反逆譚~HP10の凡人おじさん、ダンジョンマスターになる~  作者: 藍之介
vs.『鋼の薔薇』編

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第26話 深淵の騎士

 俺は血だまりの中に膝をつき、顔を覆って慟哭した。

 2,500DP?

 レベルアップ?

 そんなもの、何の意味がある。


 何がDPだ!

 結局ポイントなんて、ドクの、サンの、アビスの、そしてゴブいちの……『命の値段』じゃないか。


 情けない。

 無力だ。

 情けない、無力だ、情けない、無力だ。

 頭の中でその言葉がぐるぐる回る。


 俺がもっと強ければ。

 俺がちゃんと戦えれば。

 俺が最初からもっと上手く立ち回れていれば。

 ドクも、サンも、アビスも、ゴブいちも、こんなことにはならなかったんじゃないのか。


「ごめん……ごめんなぁ、ゴブいち……っ。俺なんかのために……」


 だが、自分に忠誠を誓ってくれた魔物たちの無惨な姿は、俺の心を完全に破壊していた。

 孤独だ。

 また、俺はたった一人になってしまった。

 この絶望的な暗闇の中で、共に戦ってくれる相棒はもう誰もいない。


 涙で視界がぼやけ、己の無力さに打ちひしがれていた、その時だった。


 ――ガシャ。


「……え?」


 背後から、重い金属が擦れ合うような音が響いた。

 冒険者の生き残りか!?

 俺は咄嗟に身を強張らせ、涙を拭って振り返った。


 だが、そこで俺が見たのは、予想だにしない光景だった。


 ただの鉄屑と化していたはずのアビス・ナイトの残骸。

 ひしゃげた兜、砕けた深海の装甲、折れた珊瑚の長槍。

 それらのパーツの一つ一つが、突如として青白い、神秘的な光を放ち始めていたのだ。


「な、なんだ……!?」


 光は次第に強さを増し、まるで重力に逆らうように、砕けた鉄片や珊瑚がフワフワと宙に浮き上がる。

 散らばっていた鉄の破片が、見えない糸で引かれるように、少しずつ一点へ集まっていく。

 曲がった金属が、ぎち、ぎち、と不気味な音を立てながら歪みを戻す。

 折れた箇所同士がぴたりと噛み合い、溶接もしていないのに、まるで時間そのものが巻き戻っていくみたいに接合されていく。

 青黒い甲殻の表面を、淡い光の筋が走る。

 それは亀裂をなぞり、傷を縫い合わせ、失われた輪郭を再び描き出していった。


「うそ、だろ……」


 俺は呆然と立ち上がる。

 そうだ、確かステータスにあった!

 アビスのスキル欄には【魔法耐性・大】と並んで、【自己修復】という文字があったじゃないか!

 見たはずなのに、頭から完全に吹っ飛んでいた。

 仲間が死んだと思い込んで、自分で全部終わらせていた。


 ガシャン、ガシャンと音を立てて、本来の青黒い装甲に戻っていく。

 最後に、深海の底を思わせる禍々しくも美しい兜が装着されると、その奥の暗闇に、ふっと青い眼光が灯った。


「……アビ、ス……?」


 俺は震える声で呼びかけた。

 アビスは、ゆっくりとその重厚な首を回し、俺を見下ろした。

 そして、かつて亡国の騎士であったその巨体は、静かに、そして恭しく、俺の目の前で片膝をついた。

 青黒い装甲の継ぎ目から、淡い青白い燐光が脈打つように漏れている。

 損傷のすべてが元通りというわけではない。

 脇腹を貫かれた箇所には痛々しい亀裂が残り、盾の縁も槍の穂先もところどころ欠けたままだ。

 だが、それでも。

 確かに、アビスは再び立っていた。


 再び、俺の仲間として。


「あ……ああ……ッ」


 失ったと思っていた頼もしい相棒の復活。

 俺は思わず立ち上がり、泥と血にまみれるのも構わず、その冷たい青黒い装甲にすがりついて泣き崩れた。

 深海の底から引き揚げられたような、鉄と珊瑚の匂いがする。

 だが、その無骨で硬い感触が、今の俺には何よりも温かく、愛おしく感じられた。


「アビス……生きて、生きててくれたんだな……!」


 感情の堰が完全に決壊していた。

 天才剣士ユナの絶望的な剣撃、回避不能の業火、そして仲間たちが次々と倒れていく地獄の光景。

 極限状態まで張り詰めていた緊張の糸が、アビスの優しく灯る青い眼光を見た瞬間に、プツリと切れてしまったのだ。


 どれくらいそうして泣いていただろうか。

 不意に、俺の脳内に『声』が響いた。


『――どうか、泣かないでください。我があるじよ』


「……え?」


 俺はしゃくり上げるのを止め、ビクッと肩を震わせた。

 声?

 耳から聞こえたのではない。

 頭蓋骨の内側に直接響くような、重厚で、落ち着いた、そしてどこか悲哀を帯びた男の声だった。

 俺は慌てて周囲を見回す。

 だが、この血塗られた洞窟内に立っているのは、俺とアビスだけ。

 敵の生き残りが隠れている気配もない。


『ここです。あなたの、目の前に』


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