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魔物合成で世界に抗う反逆譚~HP10の凡人おじさん、ダンジョンマスターになる~  作者: 藍之介
vs.『鋼の薔薇』編

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第25話 命の代償

 戦いは終わった。

 虚脱感と、死の淵から生還した安堵に浸る間もなく、機械的な音が俺の意識を現実に引き戻す。


 ブブブブブッ! ピロロンッ! ピロロンッ!!


 内ポケットにしまっている端末デバイスが、まるで壊れたアラームのように狂ったような振動と電子音を上げ始めたのだ。

 暗い最奥の部屋に、不規則な通知音がいくつも重なって鳴り響く。

 血と泥に塗れた手で端末を取り出し、画面を覗き込むと、大量のシステム通知がポップアップしていた。


-----------------------------------------------------

『侵入者を撃破しました』

『DPを獲得:200ポイント(斥候)』

『DPを獲得:200ポイント(修道士)』

『DPを獲得:300ポイント(魔法使い)』

『DPを獲得:300ポイント(重戦士)』

『DPを獲得:500ポイント(剣士・リーダー)』

『Cランクパーティ殲滅ボーナス:500ポイント』

『ミッション達成:Cランクパーティの撃退』

『ストーリークリア報酬:500ポイント』

-----------------------------------------------------


「……ははっ、なんだよこれ……」


 思わず声が出た。

 いや、出るだろこんなの。

 画面の右上に表示された現在の所持DPは、なんと『2,500 DP』。

 先日まで、数十ポイント単位で命を削りながらやりくりしてきたDPが、一気に4桁に跳ね上がった。


 戦果はそれだけではない。

 足元に転がる冒険者たちの死体――ユナやガルダたちが身につけていた装備品。

 その中にも使えそうなものがありそうだ。


 ユナの使っていた、刃こぼれ一つない業物の長剣。

 あの天才が握っていた剣は、ゴブいちの最後の一撃と、自身の執念のぶつかり合いの果てに、根本近くから無惨にへし折れていた。

 それでも刀身には、ぞっとするほど研ぎ澄まされた気配が残っている。

 半分に折れてなお、凡百の武器よりよほど殺意に満ちていた。


 俺はふらつきながら、その剣の傍まで歩いた。

 靴底が血を踏み、ぬちゃりと嫌な音を立てる。

 拾い上げた折れた長剣は、ずしりと重かった。

 ただ重いだけじゃない。

 手に持った瞬間、皮膚の上を薄い氷で撫でられたような、ぞくりとした感覚が走った。


 次に、ガルダの鎧の残骸を集める。

 ガルダが身につけていた、ひしゃげた銀色の重鎧とタワーシールドの残骸。

 アビスの槍とゴブいちの剣戟に何度も打ち据えられたせいで、胸当てはひしゃげ、肩当ては裂け、革紐は血と泥で固まっていた。

 だが、金属部分そのものは上質だ。

 潰れてはいても、素材としてはまだ使える気がする。


 テオの修道服や、魔法使いのローブの切れ端など。

 武具はどれも一級品に見える。俺が装備できなくても、何かの役に立つかもしれない。


 すると突然、俺の身体を、これまでで最も強く、そして温かい黄金の光が包み込んだ。

 戦闘で負った擦り傷や、極度の疲労、筋肉の軋みが嘘のように消え去っていく。

 俺は端末の『ステータス』を開いた。


『レベルが上がりました。LV3→LV6』

『全ステータスが上昇しました』


-----------------------------------------------------

名前: ボンド

職業: ダンジョンマスター LV: 6

HP: 35/35(+15)

MP: 25/25(+13)

筋力: 8(+3)

魔力: 10(+5)

耐久: 8(+3)

俊敏: 8(+3)

運 : 15(+3)


【スキル】

魔物合成(LV:2)

鼓舞(LV:1)


【実績】

深海の塔:第1層突破

-----------------------------------------------------


 一気に3つもレベルアップしたのか……。

 Cランクパーティを全滅させた経験値は、凡人のダンジョンマスターを急成長させるには十分すぎる経験だったらしい。

 俺は立ち上がり、自分の身体を見下ろした。


 スーツ越しに自分の腕を触る。

 筋肉が急にムキムキになったわけじゃない。

 でも、芯が詰まった感じがあった。

 安いボール紙みたいだった自分の肉体が、ようやく薄いベニヤ板くらいにはなったというか。

 いや例えがショボいな……。


 スーツはボロボロで血まみれだが、俺自身は着実に成長しているようだ。

 それでもまだゴブリンに毛が生えた程度かもしれないが、初期の「スライム以下」だった頃に比べれば、劇的な成長だろう。


 まだ通知は止まらなかった。

 画面には次々と新たなシステムメッセージがポップアップしてくる。


-----------------------------------------------------

『通常魔物の召喚リストが【D+ランク】まで解放されました』


『ダンジョン構築機能が拡張されました』

【階層の追加】が可能になりました。

【フィールド改装】(森林、湖)が可能になりました。

【倉庫機能】が解放されました。

(ダンジョンコアに触れることで、無機物をコア内部の異空間へ収納・取り出しが可能になります)


『スキル【魔物合成】のレベルがあがりました』

『合成済み魔物の【二次合成】が解放されました』

-----------------------------------------------------


 どれもこれもダンジョンマスターに必要な力……まさに新機能のオンパレード。

 しかし、それらの輝かしいシステムメッセージを見ても、胸の中はまるで晴れなかった。

 画面を見つめる俺の瞳から、ポタ、ポタと涙がこぼれ落ちる。


「……ふざけんなよ」


 俺はギリッと奥歯を噛み締め、薄暗い洞窟を見渡した。

 辺り一面は血の海、そして焦げた肉の臭い。

 そこにあるのは、勝利の栄光などではなかった。


 通路の奥には、首から上を吹き飛ばされたドクの紫色の身体が転がっている。

 ダンジョンコアの横には、リルに核を射抜かれて酸の海と化したサンの残骸。


 そして目の前には、俺を庇って業火と剣撃を一身に受け、ただの鉄屑に変わり果てたアビス。

 青黒い装甲。

 深海の闇みたいな光を宿した、あの頼もしい巨体。

 兜の中から零れていた青い光も、完全に消えている。


 そして、何よりも俺の心を抉ったのは。


「ゴブいち……ッ!」


 血の海の中央。

 ユナを討ち取ったそのすぐそばに、ゴブいちは倒れていた。

 そこには、ユナの細い身体を真上から叩き割った折れた大剣を握りしめたまま、血の海に沈んでいる巨体があった。


「おい、ゴブいち……嘘だろ。起きろよ」


 俺は彼の身体に触れようとして、息を呑んだ。。

 ユナの神速の剣撃によって、彼の赤銅色の筋肉は全身くまなく切り刻まれ、両足の腱は完全に断裂している。腹部からは内臓がこぼれかけ、ピクリとも動かない。

 本来ならユナに斬られた時点で、即死するほどのダメージだ。

 俺たちを守るという執念だけで、最期の一撃を振り下ろしたのだ。


「あぁ……ああぁぁぁぁッ!!」

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