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魔物合成で世界に抗う反逆譚~HP10の凡人おじさん、ダンジョンマスターになる~  作者: 藍之介
vs.『鋼の薔薇』編

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第19話 -冒険者side- 鋼の薔薇

 冒険者ギルドは、いつものような活気と喧騒に包まれていたが、酒場の片隅ではどこか重苦しい空気が漂っていた。

 発端は、一つの噂であった。


「おい、聞いたか? 『赤い閃光』の奴ら、まだ帰ってきてないらしいぞ……」

「マジかよ? あいつら、この前Dランクに上がったばっかの期待の新人パーティだろ? 依頼はなんだったんだ?」

「それが、正規の依頼じゃないらしい。嘆きの森の奥で、真新しいダンジョンの入り口を見つけたって……」


 酒の肴として消費されるには、いささか生々しすぎる話題だった。

 事の重大さをいち早く察知していたのは、ギルドの職員たちである。


「信じられません……。戦士のガランも、魔法使いのミーシャも、Dランクの中ではトップクラスの腕を持っていたのに。生まれたばかりのダンジョンで全滅したとでも言うんでしょうか?」


 書類の束を抱えた受付嬢が、青ざめた顔でギルドマスターの執務室で報告を行っている。

 冒険者パーティ『赤い閃光』が行方不明になった。

 その噂がギルドに広まるまでに、時間はかからなかった。

 数日前、『赤い閃光』と懇意にしていた別の冒険者パーティから、「あいつら、嘆きの森の新ダンジョンでコアを壊してスキルを手に入れるって息巻いてた」という証言がもたらされていたのだ。


 初動調査に向かった斥候からの報告によれば、確かに嘆きの森に未知の洞窟――新しいダンジョンの入口が開いていたという。

 そして、その入口付近には微かに、血と肉が焼けたような焦げ臭い匂いが漂っていた、と。


 執務机の奥で腕を組んでいた壮年のギルドマスターは、深く息を吐き出した。


「生まれたばかりのダンジョンは、通常スライムやゴブリンといったEランクの魔物しか出ない。だが、イレギュラーは常に起こり得る。何らかの要因で、強力な罠が発動したか、あるいは……」

「ギルド長、どうしますか? 噂を聞きつけて、他にもダンジョン・コア狙いの連中が向かおうとしていますが」

「全員止めろ。当該ダンジョンは、全貌が明らかになるまで『侵入禁止区域』に指定する」


 ギルドマスターは鋭い眼光を放ち、机の上にあった一枚の羊皮紙を指で叩いた。


「調査には、確実な実力を持つ者たちを向かわせる。……『鋼の薔薇』を呼べ。指名依頼だ」


 ***


 ギルドの酒場の一角。そこだけ、周囲の喧騒から切り取られたように静かだった。

 誰もが無意識に距離を置き、同時に畏敬の念を込めてチラチラと視線を送ってしまう集団。

 それが、Cランク冒険者パーティ『鋼の薔薇』であった。


「……遅いわね。ギルドマスターからの呼び出しなんて、嫌な予感しかしないんだけど」


 テーブルに肘をつき、退屈そうにエールが入った木組みのジョッキを揺らしているのは、このパーティのリーダーを務める女剣士、ユナだ。

 艶やかな黒髪をポニーテールにまとめ、無駄のない引き締まった肢体を動きやすい革鎧で包んでいる。腰に帯びた長剣は、使い込まれているが手入れが行き届き、鈍い輝きを放っていた。


 彼女は、王都の剣術道場の一人娘として生まれた。

 幼少期から木刀を振り回し、10歳になる頃には道場の高弟である年上の男たちを次々と叩き伏せるほどの剣術の天才だった。

 冒険者となってからもその才能は遺憾なく発揮され、個人の戦闘能力だけで言えば「Bランク」に相当するとギルド内で噂されている。

 だが、冒険者のランクはパーティ単位での総合力や実績で決まる。

 彼女がCランクに留まっているのは、決して仲間を見捨てず、共に歩むことを選んでいるからだった。


「まあそう焦るな、ユナ。どうせまた、厄介事の押し付けに決まってる」


 ユナの対面で、豪快に肉の塊を頬張っているのは、全身を分厚い銀色の鎧で包んだ大男、重戦士タンクのガルダ。

 身長は2メートル近くあり、背中には巨大な銀のタワーシールドを背負っている。

 過去に、暴走した巨大な猪が乗っていた馬車に突っ込んできた時、体一つで正面から受け止め、そのまま投げ飛ばしたという逸話を持つ「銀の城塞」だ。


「ガルダ、食事中の発声は消化器官に悪影響を及ぼします。また、無用な推測は精神のノイズとなりますよ。女神の教えにも『静寂は身を助く』とあります」


 そう言ってガルダをたしなめたのは、修道服を身にまとった細身の男、修道士ヒーラーのテオだ。

 常に冷静沈着……いや、冷徹と言ってもいい。

 回復魔法の使い手でありながら、彼の真骨頂は徒手空拳による近接戦闘だ。

 「迷える羊には、時には物理的な導きも必要です」と豪語し、以前、山賊の集団を説教しながら素手で全員ボコボコにして縛り上げた「鉄拳神官」である。


「あはは! テオの説教が始まった! ねえねえ、それよりあたし、さっき面白そうな噂聞いたよ!」


 テーブルの上を身軽に飛び越え、椅子の上にしゃがみ込むように座ったのは、斥候のリルだ。

 彼女は小柄で、獣人の血を引いており、頭にはぴこぴこと動く犬のような耳が生えている。

 動体視力と弓の腕は確かで、100歩先で空中に投げられた銅貨を射抜くことができる。

 おまけに手先が器用であり、罠の解除はお手の物。

 暇さえあれば、酒場の椅子の裏に悪戯のトラップを仕掛ける子供のような癖があった。


「あのね、嘆きの森に新しいダンジョンができたんだって! 『赤い閃光』の連中がそこに行って、帰ってこないらしいの」

「……『赤い閃光』の連中が、初期ダンジョンで?」


 ユナの目が、スッと細められた。

 ただの天才剣士ではない。数々の死線を潜り抜けてきた彼女の直感が、リルのもたらした情報に僅かな違和感を覚えたのだ。


「ふぁ……うるさいわねぇ……。新しいダンジョン? 面倒くさい……燃やしちゃダメなの?」


 杖を抱き抱えるようにして机に突っ伏し、うとうとしていたのは、ローブを目深に被った魔法使い、エリシアだ。

 「灰被りの魔女」の異名を持つ彼女は、基本的にはいつでもどこでも寝ている。

 だが、ひとたび魔力を解放すれば、その華奢な身体からは想像もつかないほどの超絶な火力を叩き出す。

 事実、先月の討伐依頼では、フォレスト・ウルフの群れをたった一撃の広域魔法で灰の山に変えてみせた。


「ダンジョンごと燃やしたら、ギルドから違約金を取られるわよ……。それとエリシア、いい加減起きなさい」


 ユナがため息をつきながら立ち上がった。

 ちょうどその時、ギルドの職員が足早に彼女たちのテーブルへと近づいてきた。


「『鋼の薔薇』の皆様。ギルドマスターが、執務室でお呼びです」


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