第18話 突然変異
そして、運命の3日目。
決戦前日だ。
残りDPは170。
ここまで順調に来た。
遠距離攻撃を担当する、アシッド・アーチャー。
影から毒攻撃を見舞う、ベノム・ゴブリン。
足りないものは何か。
それは、ゴブいちと並び立ち、敵の主力を粉砕する「圧倒的な力」だ。
敵のリーダー格や、切り札となる魔法使いを、物理的に圧殺する存在。
俺は召喚リストを見る。
残りのDPを考えれば、この合成が大勝負だ。
素材には、リストの中で最もコストが高い『アイアン・クラブ:D(60DP)』を使う。
そして、掛け合わせる相手は……。
俺は迷わず、新戦力の『リビングアーマー:E+(40DP)』を選んだ。
鋼鉄の蟹と、生ける鎧。
イメージするのは、深海の圧にも耐える装甲と、人の技を凌駕する武具の扱い。
ゴブいちは「柔」と「剛」を併せ持つ戦士だが、こいつには「剛」の極致を目指してもらう。
「頼むぞ……俺の全てを注ぎ込んだ、最後の大勝負だ!」
『合成を開始します。消費:70DP』
震える指で、合成ボタンを押し込む。
ドクンッ。
心臓が跳ねるような音が、端末から響いた。
いつもと様子が違う。
端末から溢れる光が、赤黒い色から黄金と黒が混ざり合ったような、禍々しくも神々しい色へと変化していく。
洞窟内のマナが、渦を巻いてその一点に集束していくのが肌でわかる。
『警告:想定以上のエネルギー反応』
『個体変異の兆候を検知』
『合成結果が大幅に変動します』
「な、なんだって!?」
俺は目を見開いた。
変異。突然変異か!
ソシャゲで言えば、SSR確定演出みたいなものか!?
ズズズズズ……ッ!
光の柱が立ち上る。
その中から、重厚な金属音が響き渡る。
それは、巨大な鎧のようであり、同時に生物的な胎動も感じさせた。
光が弾け飛ぶ。
現れたのは、巨体だった。
身長は2.5メートルほど。
全身を、青黒い蟹の甲殻と、鈍銀の金属が融合したフルプレートアーマーで覆っている。
兜の隙間からは、深海の闇のような青い光が漏れ出していた。
右腕には、巨大な蟹のハサミが変化した「盾」。
左腕には、珊瑚と鉄が混ざり合った、身の丈を超える「長槍」が握られている。
それはもはや魔物ではない。
深淵から蘇った、亡国の騎士のようだった。
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【合成完了:突然変異が発生】
アイアン・クラブ×リビングアーマー → 『深淵の騎士』
ランク:B
スキル:【魔法耐性・大】【自己修復】
特性:【主の守護者】(主の危機に際し、全ステータスが倍増する)
深淵の底で千年眠っていた亡国の騎士の魂は、鋼と深海の呪いに縛られ続けていた。
魔物合成が奇跡の変異を呼び、呼び出された騎士の魂は黄金と黒の光の中で復活を果たす。
兜の隙間から零れる青い眼光は、失われた海の記憶。
珊瑚が混ざった長槍の一撃は、海底の怒涛を宿し、魔法を弾く深海装甲は主の守護を約束する。
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「B……ランク……!?」
俺は震える声で呟いた。
Cランクの冒険者が相手だと言っているのに、それをも上回るランクの魔物ができてしまった。
しかも【魔法耐性・大】。
魔法使いにとって、天敵になり得る能力だろう。
こいつがいれば、あの《フレイム・バースト》級の魔法も正面から受けきれる。
アビス・ナイトは、ゆっくりと俺の前に進み出た。
その歩みだけで、地響きが起きる。
俺の目の前で、重々しく膝をつき、首を垂れる。
兜の奥の青い光が、俺をじっと見つめている。
「……すごいな。お前がいれば、負ける気がしない」
俺は高揚感で震えながら、その冷たい肩の装甲に触れた。
冷気と共に、圧倒的な安心感が伝わってくる。
「名前は……そのままの方がカッコいいな。よし、お前は『アビス』だ」
アビスは、無言のまま、しかし力強く槍を掲げた。
それに応えるように、ゴブいちが「グルオオオッ!」と吠える。
ライバル心か、それとも頼もしい相棒への歓迎か。
このダンジョンの剣と盾が揃った瞬間だった。
***
準備が終わり、俺たちは、中央の広間に集結していた。
最前線に、ホブゴブリンとアビス・ナイト。
この二体が並ぶだけで、そこは鉄壁の要塞と化す。
通路の暗がりには、ベノム・ゴブリン。
後方には、アシッド・アーチャーが矢をつがえて待機している。
そして俺の手元には、残り0DP。
全てを出し切った。もう後戻りはできない。
この戦力がすべてであり、こいつらがやられた時点で俺の負けが決まる。
俺は覚悟を決めた。
「……来るぞ」
端末が震える。
3日間の猶予期間が、終わりを告げた。
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【警報】
Cランク冒険者パーティ『鋼の薔薇』が侵入しました。
構成員:5名
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端末にメッセージが表示される。
侵入者がわかるようになったのは、LVアップの恩恵だろうか。
俺は目を閉じて、暗がりで息をひそめるドクの視界にリンクする。
入口の光景が、脳内に浮かび上がる。
先頭を歩くのは、比較的背が小さな弓使い。
鋭い目つきの女剣士がそれに続く。
その後ろに全身を銀色の鎧で固めた大男。
そして、ローブを目深にかぶった魔法使いと修道士のような男が並ぶ。
女剣士が放つオーラが他とは違う気がする……。
こいつがリーダー格だろうか。
以前のDランクパーティのよりも装備の質が違う。歩き方に隙がない。
油断している雰囲気は微塵も感じられない。
彼らは間違いなく「狩り」に来ている。
俺は暗闇の中でニヤリと笑った。
心臓が早鐘を打っているが、それは恐怖ではない。
これから始まるショーへの期待だ。
俺は右手を振り上げた。
ゴブいちが、アビスが、サン骨が、それぞれの獲物を構える。
「作戦開始だ!!」
俺の声と共に、ダンジョンの闇が深く、濃くなった。
凡人と合成魔物たちによる、大物食いの幕が上がる。
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