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魔物合成で世界に抗う反逆譚~HP10の凡人おじさん、ダンジョンマスターになる~  作者: 藍之介
第四章

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第106話 情報整理

 第三階層の最奥、ダンジョンコアのある部屋。

 淡い光を放つコアを囲むように、俺たちは円形に座っていた。


 鬼人将軍、鬼一。

 深淵の騎士、アビス。

 蒼い髪の歌姫、レイ。

 真紅の女王蟻、カーミラ。

 白黒の羊魔、バフォメット。


 そして、虎獣人のガルム、狼獣人のミロ、ダークエルフのネム。

 ついさっきまで「侵入者」として殺すよう命じられていた三人も、当然のように輪の中にいる。


「まず、確認したいことがある」


 俺は魔物たちを見回した。


「お前たちの中で、『他のダンジョンマスター』について何か知ってる奴はいるか? 召喚される前の記憶でも、噂レベルでもいい」


 魔物たちは、互いに顔を見合わせた。

 最初に答えたのは、アビスだった。


『申し訳ありません、主よ。前にも申しましたが、我らは召喚された存在。この世界に呼ばれた瞬間から記憶が始まっております。外の世界の事情はおろか、他のダンジョンの存在も、知り得ませぬ』


「我も同じくにございます」


 鬼一が低く言い、レイとバフォメットも揃って首を横に振る。


「あたしも知らなーい。生まれた時からマスターとの記憶しかないし」


「わ、私に聞かれても困りますぅ……。生まれて、ちょっとしか経ってないですし……」


 そうか、バフォメットはまだ生後数日なのか。

 あの、精霊女王ティターニアを片手でひねった魔物が生後数日……。

 改めて考えると、とんでもない話である。


「カーミラはどうだ?」


「わらわもダンジョン生まれのダンジョン育ちじゃ。……じゃが」


 カーミラは細い指を顎に添え、何かを思い出すように目を細めた。


「女王蟻の本能、とでも言うのかの。時折、感じるのじゃ。この大地の下を、何か巨大な『流れ』が走っておることをな。蟻は大地の声にさとい。……このダンジョン以外にも、地脈には『同じ匂いのする澱み』が、点々と存在している気がするのじゃ」


「同じ匂いの、澱み……」


「それがダンジョン、というやつかもしれぬの。確証はないがな」


 大地の下に点在する、ダンジョンらしき澱み。

 つまり、この世界には俺の知らないダンジョンが、かなりの数あるということだ。


「なら次だ。――ガルム、ミロ、ネム」


 俺は三人に向き直った。


「お前たちは外の世界で生きてきた。『ダンジョン』について、世間で知られてることを教えてほしい。どんな些細なことでもいい」


「ああ、そうだな」


 ガルムが太い腕を組み、記憶を辿るように目を閉じた。


「俺たちが知るダンジョンとは、『魔物の湧く穴』だ。放っておけば魔物が溢れ、周辺の村や街道を襲う。だから冒険者ギルドが討伐依頼を出し、冒険者が潰す。……それが世の常識だな」


「ダンジョンマスター、なんて存在は俺も初耳だったぜ」


 ミロが尻尾を揺らしながら続ける。


「ダンジョンってのは『自然に湧くモン』だと思ってた。誰かが管理してるなんて、おとぎ話にもなかったはずだぜ」


「ふむ……そういえば」


 不意に、ガルムが目を開けた。


「確か……セラドが言っていた。最近、新しいダンジョンの発見報告が多い、と」


「新しいダンジョン?」


「ああ。あの男は王都の社交界にも顔が利いた。ギルド本部の人間と酒を飲みながら話しているのを、給仕をさせられていた俺は何度か聞いている。『ここ一、二年で、各地の支部から新しいダンジョンの報告が急増している。妙な話だ』とな」


 ここ一、二年。

 俺がこの世界に来たのは一ヶ月ほど前だが……他のマスターたちは、もっと前から「始まって」いたのかもしれない。


「けどよ、兄貴」


 ミロが眉を寄せた。


「新しいダンジョンなんて、普通は冒険者がさっさと潰してるはずだぜ? 生まれたてのダンジョンに湧くのは、スライムとかゴブリンとか、Eランクの雑魚ばっかだ。駆け出しの小遣い稼ぎにちょうどいいって、依頼の取り合いになるくらいなんだから」


 ……ちょっと待て。

 俺のダンジョンも一ヶ月前まで、その「駆け出しの小遣い稼ぎ」だったのか。

 実際、最初に攻めてきたのはEランクの三人組だった。

 あの時のことを思い出すと、今でも胃がキリキリする。


「ミロの言う通りです……」


 ネムが、遠慮がちに口を開いた。


「新しいダンジョンは、生まれてすぐに潰されます……。でも、このダンジョンのように、迷宮再構築ダンジョン・シフトが起きているなら……もっと大きな噂になっているはずです……」


迷宮再構築ダンジョン・シフト?」


 聞き慣れない言葉に、俺は聞き返した。


「……はい。ダンジョンが、短期間で急激に階層や魔物を増やす現象のことです。通常のダンジョンであれば、何十年かに一度、観測されることがあります。このダンジョンも、たった一ヶ月で三階層、しかも強力な魔物ばかりになりました。外から見れば、典型的なダンジョン・シフトです。それも、新しいダンジョンで起こるのは異常事態。だから、討伐軍まで組まれたんだと思います……」


 なるほど。

 俺が端末でポチポチやってる増築作業も、外から見れば「謎の自然現象」扱いというわけだ。


「整理するぞ」


 俺は転がっていた小石を拾い、地面に簡単な”まとめ”を書き始めた。

 会議には板書。

 社会人の名残である。


「一つ。世間的に、ダンジョンマスターの存在は知られていない。

 二つ。ここ一、二年で新規ダンジョンの報告が急増している。

 三つ。その大半は、生まれてすぐ冒険者に潰されている。

 四つ。急成長するダンジョンもあるが、その兆候があれば冒険者に目を付けられる」


 書きながら、嫌な想像が頭をもたげてくる。


「……つまり、だ。『潰された新規ダンジョン』の中には、俺と同じようなマスターがいたのかもしれない。最初の魔物すら満足に召喚できないまま、駆け出し冒険者に踏み潰された奴らが」


 俺だって紙一重だった。

 最初に襲撃してきた三人組に勝てたのは、スウとゴブリンたちの命を賭けた働きと、ほとんど運のおかげだ。


「そして今回の相手は、その淘汰を生き延びた奴だ。火山迷宮イグニス・クレイドルも、風葬谷シルフィード・ヴェイルも、少なくとも俺と同じだけの修羅場をくぐってきてる」


「……ボンド殿」


 ガルムが、低い声で言った。


「すまない。俺たちが知っているのは、所詮この程度だ。風葬谷という名は聞いたことがある気がするが、東の大陸の話で、詳しくは分からん」


「いや、十分助かった。問題は……」


 俺は岩肌の図を見つめ、唸った。


「俺には、この世界の情報が圧倒的に足りないってことだ。敵の情報がどころか、地理も、ダンジョンについても、冒険者ギルドの動きも。何もわからない状態だ」


 今はただ情報が欲しい。

 どうにかして、情報を手に入れる術はないか。


 そう思っていた、その矢先。


 ピィィィィン! ピィィィィン!


 端末が、けたたましい警告音を上げる。


-----------------------------------------------------

【警告】

ダンジョンに侵入者を確認しました。


侵入者:1名

-----------------------------------------------------


「……は?」


 俺は画面を二度見した。


 侵入者だって!?


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