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魔物合成で世界に抗う反逆譚~HP10の凡人おじさん、ダンジョンマスターになる~  作者: 藍之介
第四章

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第104話 カウントダウン

 その沈黙を最初に破ったのは、鬼一だった。


「御屋形様の御心のままに」


 彼は片膝をつき、深く頭を垂れる。


「我が刃は、御屋形様の敵を斬るためにございます。御屋形様が守ると決めた者を斬ることはありませぬ」


『鬼一殿の言う通りですな』


 アビスの念話が重なる。


『主の選択こそ、我らが守るべき道。たとえその先が試練であろうと、我らはどこまでも付き従います』


「もぉー、マスターってば、深く考えすぎじゃない?」


 レイが、明るい声でケラケラと笑い出す。


「せっかく助けた、ネムちゃんたちを殺すわけないじゃん。それに、マスターは何があっても、私たちが守ってあげるし♪」


 レイはそう言って、ウィンクを決める。


「ふん」


 カーミラは腕を組み、偉そうに顎を上げた。


「実に愚かな選択じゃな……。戦場で情に流される王など、普通であれば真っ先に死ぬ」


 その言いように、俺は「悪かったな」と少し不貞腐れたように呟く。


「……じゃが」


 カーミラは、にやりと笑い、その赤い瞳を怪しく輝かせる。


「クク……その選択は嫌いではないぞ。わらわの主が、つまらぬ計算だけで動く男ならば、少々退屈であったからの」


「ひ、ひぃぃぃん! 皆さん、なんでそんなにポジティブなんですかぁ!?」


 バフォメットが、大粒の涙を流しながら叫ぶ。


「し、失敗ペナルティって絶対怖いやつですぅ……!」


 バフォメットは頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。


「きっと、体が爆発して粉々になったり、暗闇に一生閉じ込められたり……。私だけ、マスターに嫌われたりするんですぅぅ……!」


「最後のはないから安心しろ」


「ほ、本当ですかぁ……?」


「ああ」


 俺は苦笑して、それから三人へ向き直る。

 ガルムは、何かを堪えるように目を伏せていた。


「本当にいいのか?」


 ガルムが低い声で言う。


「俺たちを殺せば解決するのだろう?」


「そうだよ!」


 ミロが叫ぶように言った。


「ボンド! 俺たちは死ぬ覚悟くらいはできてる。あんたが俺たちを殺したって、恨まねぇよ。だから……」


「黙れ!」


 自分でも驚くくらい、強い声が出た。

 ミロがびくりと肩を跳ねさせる。


「俺は、お前らを殺してまでクリアしたいとは思わない」


 俺は三人を見た。

 それから、俺の周りにいる魔物たちを見た。


 最初は自分が生き延びるために戦ってきた。

 でも、今は違う。

 それだけじゃない。


「この選択で何が起きても、俺は後悔しない……。もう、こんな腐ったシステムに従ってたまるかよ!」


 それは、誰かに向けた言葉ではなかった。

 自分自身に向けた、叱咤激励だ。


 端末に表示されたカウントが無情にも進んでいく。


 0日0時間03分。

 0日0時間02分。

 0日0時間01分。


 やがて、端末に表示されるカウントダウンが、最期の瞬間を刻み始める。

 鬼一は静かに目を閉じ、アビスは槍を地につけた。

 レイは俺の横に並び、カーミラはふんと鼻を鳴らす。


【警告:ミッション制限時間残り、10秒】

【9】

【8】

【7】


 バフォメットは「こ、怖いですぅ……でも、逃げません……たぶん……」と震えながら、俺の背中に隠れた。

 俺は端末を強く握りしめ、前方を睨みつける。


【3】

【2】

【1】


 ネムが、消え入りそうな声で言った。


「ボンドさん……ありがとう……ございます……」


【0】


【制限時間終了。クリア条件未達成を確認】


 端末からアナウンスが流れ、画面に文字が表示される。


-----------------------------------------------------

【ストーリー失敗】


ミッション:ダンジョン討伐軍レイドの全滅

制限時間:0日0時間00分

結果:失敗


ダンジョンマスター『ボンド』にペナルティが課せられます。

-----------------------------------------------------


「……来るなら来い」


 俺は震える手で端末を握りしめた。


 怖くないわけじゃない。

 むしろ、怖くてたまらない。


 それでも。


 俺は、三人を殺さないことを選択した。

 この選択だけは、絶対に間違いじゃないと信じている。


 端末の画面が一度、完全な黒に沈む。


 そして次の瞬間。


 新しい文字列が、血のように赤い光で浮かび上がるのだった。


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