後始末
「やあベルウェン、遅かったじゃないか」
新たに出現した一〇〇〇騎の騎兵を率いていたのは、別行動を取っていたベルウェンだった。
「騎兵ってのは簡単には集まらねぇんだよ。苦労したんだぞ」
ワルフォガルでも騎兵が集まらず、ナルファスト公国外の街まで募兵の範囲を広げて何とかかき集めてきたらしい。
意外に身なりに気を使うベルウェンの髭が伸び放題であることにフォロブロンは気付いた。ベルウェンが本当にギリギリまで粘った末に駆け付けてきたのだろう。
そこに、レーネットが合流した。
「セレイス卿、援軍を手配してくれたのか。しかし、これだけの騎兵を集める資金をどうやって?」
「監察使は役得が多くてね、それを使って集めたというわけです」
「騎兵は高けえから、一〇〇〇騎しか雇えなかったがな」
事もなげに言うウィンとベルウェンに、レーネットは絶句した。
「騎兵一〇〇〇騎分の役得!? それはそれでいささか……」
「一〇〇〇騎分って尋常な額じゃないですよ。うああ」
レーネットとムトグラフがあからさまに後ずさりするのを見て、ウィンは肩を落とした。
「えっ? 全額つぎこんだのに、ひどい!」
「しかし、そんな大金どこにあったんです? 帝都まで取りに行く時間はなかったでしょう」
ムトグラフは首をひねった。カネというものはかさばるし、とにかく重い。ウィンの個人的な荷物はほとんどなかったと記憶している。
「ふふふ、手形というものがあるのだよ」
「手形?」
「商人にカネを預けると、同じ商人の別の店でもカネを受け取れるのだ。メリト商会は帝都にもワルフォガルにもあるからね」
ウィンが手形を利用していることにフォロブロンは感心した。
「意外にちゃんと管理しているではないか。賄賂など部屋の隅に放り出して放置しているのかと思っていたが」
「そうしてたんだけど、邪魔でね。メリト商会に預けてすっきりというわけさ。いやはや重かった。アデンは手伝ってくれないからね」
「ああ、アデンは役に立たんでしょうねえ……」
監察使陣営の自由な会話を、レーネットは羨ましそうに眺めていた。ナルファスト公国にはない風景がそこにある。
父は偉大過ぎて、家臣たちは父に従うだけだった。それが悪いことだとは思わないが、それとは違う形もあることを知った。
話がやや逸脱し過ぎたと感じたフォロブロンは、軌道修正を図った。
「これからどうする。ダウファディア要塞に向かうのか」
「それよりアトルモウ城に行く。ルティアセス卿が協力してくれるさ」
アトルモウ城にはさまざまな謎の答えがあるはずだった。
しかし、ウィンはずっと浮かない顔をしている。何か嫌なことに耐えているようだ。
「セレイス卿、どうした。何を恐れている?」
「行けば分かるよ」
会話を切り上げて背を向けたウィンを見ながら、ムトグラフが眉をひそめる。
「セレイス卿、様子がおかしいですね」
「まあ、普段から様子がおかしい男ではあるが……」
フォロブロンにはもう一つ、気になることがあった。
「そういえば、セレイス卿はサインフェック副伯を殺せと命じたとか?」
「私も近くで聞いていました。あのときも少し様子が違ってましたね」
ムトグラフがラゲルスに視線を送って続きを促す。
「ロンセーク伯に殺させるくらいなら、監察使軍で始末を付ける方がマシだと。あのとき何か吹っ切ったようでしたな」
ベルウェンは初耳だったのか、ラゲルスの話を聞いて左眉を上げて厳しい顔つきになった。
だが何も言わなかった。
◆
アトルモウ城には翌日夕刻前に到着した。ルティアセスが城兵に呼び掛けると、予想通り開城した。
ウィンはレーネット陣営と監察使陣営の主立った者とルティアセスを広間に集めて全ての戸を閉ざした。
「さて、ルティアセス卿。全てしゃべってもらうよ。まず、サインフェック副伯とデズロント卿……二人はまだ生きているのか?」
その質問に真っ先に反応したのはレーネットだった。目を見開いてルティアセスを見つめた。
「スハロートが……死んでいる?」




