ぞれぞれの決意 その2
「混乱しているようですね」
「うわっ、アデンか。急に話しかけるなよ」
「サインフェック副伯のことをお考えですか」
「まあね。このままでは勝っても負けても彼は破滅だ。何がしたいのかさっぱり分からない」
「理知的なサインフェック副伯には似つかわしくないと?」
「うん」
「ということは、サインフェック副伯のお考えではないのではありませんか」
「えっ」
「一連の決定権を握っているのがサインフェック副伯でなければ辻褄が合うではありませんか」
「……」
「今お考えになったことが案外正解かもしれませんよ」
「しかしなあ。それじゃ救いがないじゃないか」
「そう思ったから、目を背けていたのではありませんか? もっと前から可能性に気付いていたでしょう」
ウィンはため息をついた。そろそろ腹をくくるべきかもしれない。
そのとき、ムトグラフが「アレス副伯がお戻りになりました」と知らせてきた。分かったと答えて広間に向かう。
フォロブロンには少し疲れが見えるが、怪我などはないようだ。
「アルテヴァークの戦力は、騎兵のみで1万1000騎。スハロート派の兵力は、見たところルティアセス卿とその親族、それにサインフェック副伯を主力とした4000。離反者がもっと出るかと思っていたのだがな」
「約1万5000か、こいつは困ったな」
皇帝に泣き付いて増援を呼ぶにしても、皇帝軍の編成には時間がかかる。長期戦になればナルファスト公国が受ける被害は増大するし、ナルファストの領主同士が殺し合いを続けると禍根が残る。ついでに、皇帝軍まで出すことになるとカネがかかるので皇帝に怒られる。それは嫌だ。
「ウィン様、そういうときは本音を先、建前を後にした方が聞こえがいいですよ。そもそも本音まで言う必要はありません」
「え、口に出してた? いやその、とにかくナルファストの戦後が心配だ」
「もう遅えよ」とベルウェンが笑う。「遅いですよ」とムトグラフも笑う。フォロブロンも苦笑した。
「ということは、戦うのか」とフォロブロンが問う。
「やりたくないけど、やるしかないだろうねぇ」
ウィンは全員に出立を指示した。目的地は、デルドリオンまで前進しているロンセーク伯の陣地。リッテンホム城の守備兵には、このまま残留することを勧めた。領民たちをアルテヴァークから守る必要がある。攻城戦が苦手なアルテヴァークはリッテンホム城を落とせないだろう。
ベルウェンには、別行動を依頼した。依頼内容を聞いて、あまり表情を変えないベルウェンが少し驚いた顔をしたのでウィンはふふんと笑った。「何で勝った感じになっているのです?」とアデンがたしなめる。
ここからデルドリオンに真っすぐ向かうと、スハロート派の領地を通ることになる。迂回するか、抵抗を承知で突っ切るか。
ムトグラフは迂回を、フォロブロンは直行を主張した。既に出立したベルウェンの代理としてベルウェンが置いていったラゲルス・ユーストは、「領主の戦力は大したこたぁないでしょう。ここらで監察使軍としての実戦を経験をさせとくのもいいでしょう。抵抗を受けなければそれもよしです」と、ベルウェンよりもやや丁重ながら平民的な言い回しでフォロブロンを支持した。
「よし、ロンセーク伯に合流する。アレス副伯、ロンセーク伯に使いを出してくれ」




