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居眠り卿とナルファスト継承戦争  作者: 中里勇史
ナルファスト継承戦争

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スハロート-スルデワヌト同盟

 ウィンもレーネットもウリセファも、重要なことを見落としていた。そのことに思い至ったときには手遅れだった。

 8月29日、ナルファスト公国東南部と国境を接する騎馬民族国家アルテヴァーク王国の大軍が、国境を侵してナルファストに侵攻してきたのだ。

 数十人程度のアルテヴァーク人が国境地帯に侵入して略奪を働くことはあったが、1万を超える騎兵がナルファストに深く侵略してくることは近年ないことだった。そのために、「帝国南東部国境を防衛する」というナルファスト公国の存在意義さえも薄れていた。なぜか。オフギースの先代のナルファスト公グラファジリスが、アルテヴァーク王国との国境にダウファディア要塞を築いたからだ。

 ナルファスト公国とアルテヴァーク王国の間には、東部に自然国境としてモルステット山脈、南部にアプローエ山脈があり、両山脈の間にわずかな平地「ダウファディア谷」がある。グラファジリスはこのダウファディア谷に目を付け、難攻不落の大要塞と長城を構築したのだ。アルテヴァーク王国は騎兵による機動戦に長けているが、攻城戦には弱い。この要塞によってダウファディア谷を通れなくなったアルテヴァークにとって、ナルファスト公国への進入路はモルステット山脈越えしかなくなったのだ。

 アルテヴァーク王国は、大軍で山脈越えを実現する方法を見つけたのか、何らかの方法でダウファディア要塞を突破したことになる。


 アルテヴァーク軍は騎兵のみという圧倒的な機動力で侵攻経路にある村々を蹂躙し、略奪をほしいままにした。個々の領主が持つ兵力などたかがしれており、抵抗を試みたものは一瞬で粉砕された。

 アルテヴァーク軍は、アルテヴァーク王のみが持つ国王旗を掲げていた。王自ら陣頭に立つ親征である。

 アルテヴァーク軍を率いるのは、数年前に王位を継いだ26歳の若き国王スルデワヌト。短く刈り込んだ漆黒の髪と騎馬民族らしい日焼けした浅黒い肌を持ち、若さの割に威風堂々とした風格を醸し出している。


 アルテヴァーク侵入の報は瞬く間に公国全土に広がった。リッテンホム城にいたウィンの下にも知らせが届いた。

 「よりによってこんなときに? 困るなあ」とウィンは顔をしかめた。とても迷惑そうだ。

 「こんなときだからこそ攻めてきたんでしょう。実に合理的です」とアデンは冷めた声で答えた。

 ウィンのたわ言にフォロブロンらはいちいち反応しなくなった。律儀に相手をするのはアデンくらいなのである。

 「迎撃に向かいますか?」とフォロブロンはウィンに確認した。ベルウェンやムトグラフもウィンに注目した。

 「いや、我々が行っても一撃で粉砕されるよ」

 「しかし放っておくわけにもいかないでしょう」とムトグラフが懸念を示す。

 「ほっとけよ。アルテヴァークから帝国を防衛するのはナルファストの役目だろう」と言うベルウェンに、ムトグラフは「むう」と唸って黙った。

 「アルテヴァークの目的は何でしょうか。領土の獲得なのか、どさくさに紛れた略奪なのか、現時点では判然としませんね」と言うアデンに、フォロブロンが虚を突かれたような顔をする。どう対応するのかしか考えていなかったのだ。

 それを受けてウィンは方針を決定した。

 「アレス副伯(フォロブロン)、何人か連れて偵察してきてくれ。連中の陣容や目的を探ってほしい」


 フォロブロン率いる5騎が偵察に出発してほどなく、アルテヴァークの目的については判明した。アルテヴァーク軍は略奪を繰り返しながらナルファスト公国を駆け抜け、スハロート派貴族ルティアセスが所有するアトルモウ城に入城した。そして、「ナルファスト公スハロート」とアルテヴァーク王スルデワヌトによる同盟の締結を宣言し、ロンセーク伯(レーネット)に対して宣戦布告したのだ。

 9月1日、ナルファスト情勢は全く予想だにしない方向へ急展開した。

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