リッテンホム城攻略 その3
「では一応降伏勧告しとこうか」とウィンが言い出したので、フォロブロンが止めた。先に降伏勧告をしたら、警備が厚くなる。奇襲作戦の成功率が下がるではないか。
「あ、そうか。皇帝陛下を盾に降伏を呼び掛けるか、奇襲するかの二者択一か。……やはり奇襲だな。びっくり度も高いしね」
びっくり度って何だと言いながら、フォロブロンは奇襲の準備を始めた。
奇襲は8月24日の深夜に決行することになった。
川からリッテンホム城に侵入するのは、デズロントの旧臣1人と傭兵と士爵5人ずつと決まった。当初、「貴族様に寒中水泳はさせられねぇ」と言って、傭兵10人を出すとベルウェンは主張した。だが、フォロブロンが「傭兵だけに押し付けるわけにはいかない」と言って半分を士爵にすることになった。しかも、フォロブロンが指揮するという。
「何もアレス副伯が行かなくてもいいんじゃないですかい」とベルウェンは止めたが、余計な犠牲を出さないためにも指揮官が必要だと言って押し切った。ベルウェンは開門を見計らって城内に突入する200人の兵を指揮することになった。
ウィンは「じゃ後はよろしく」と言って、手を振りながら後ろに下がった。「冷たい川には絶対に入らないぞ」という固い決意がにじみ出ている。付いてくると言われても足手まといなので、フォロブロンはむしろ安心した。足を滑らせて下流に流されでもしたら面倒でたまらない。
作戦決行は、奇襲の定石通り夜半と決まった。
渓谷の闇は深く、ほとんど何も見えない。だが、城のかがり火によって辛うじて目的地だけは分かる。流れで生じる水音で、川の位置も大体分かる。ただし一歩一歩確認しながら動かないと川に落ちる恐れがある。それくらい、足元も見えない。
デズロントの旧臣が案内役として先頭を進む。鎖が設置されている地点の川岸には、目印としてこぶし大の石を3つ、日中に並べておいた。これを手探りで見つけ、川に入る地点に到達したことを確認した。
ゆっくりと川に入る。雪解け水が刺すように冷たい。手探りで鎖をつかみ、ゆっくりと川上に進んだ。足が川底に着くところはいいが、足が届かないところは泳ぐしかない。流れに逆らうのは困難だったが、鎖があるので何とかなった。
半分ほど進んだ辺りで、上流から流れてきた木の枝が先頭の案内役に激突した。
その衝撃で案内役の手が鎖から離れて流され、2番手にいたフォロブロンに衝突した。
川の流れに加えて1人分の体重を受け止める形になり、フォロブロンも鎖を放しかける。体を流されながら鎖を辛うじて握り直し、案内役と水の抵抗を必死で受け止める。均衡を失って体が沈み、水を大量に飲んだ。
顔が水中に沈み、自力では水面に顔を出すのが不可能になった。案内役を捨てるか共倒れになるかの二択を迫られる。




