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愚者たちの輪舞 ―ブランタール公の凱旋―  作者: 中里勇史
継承戦争

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緒戦

 アルテヴァーク軍の前衛は森の外側の街道に入り、監察使軍を本隊と挟撃すべく布陣した。


 だが、監察使軍は現れない。


 前衛の指揮を任されたテイトネレトは困惑した。監察使軍の動きが遅過ぎる。念のため、テイトネレトはリッテンホム城方面に向かって斥候を放った。監察使軍の動きによっては布陣する場所を変える必要がある。


 警戒態勢を維持したまま、斥候の戻りを待つ。

 太陽が一〇度ほど移動した頃、自陣の右翼、つまり森から大量の矢が降り注いできた。


 馬を射られて落馬する者が続出する。

 騎兵では森の中の弓兵に効果的な反撃ができない。


「弓で反撃せよ!」


 テイトネレトの命令で、騎兵たちは槍から弓に持ち替えた。彼らは騎射にも長けている。巧みに馬を操りながら、馬上での取り回しに特化した短弓で森の中に矢を射込む。

 だが、街道からは森の中の敵兵が見えない。

 狙いを定めることができない。

 それらしい方向に射込むしかなく、効果は限定的だった。


「伏兵に固執しても消耗するだけだ」


 テイトネレトは、この場から引いて陣を再編することにした。「次に騎射したらデルドリオン方面に二〇〇メルほど下がれ」と命じた。


 だが、遅かった。

 街道の外側、つまり森とは反対の方向から騎兵が突撃してきた。アルテヴァーク軍は森に向いていたので、背後から騎兵突撃を受ける形になった。

 しかも弓に持ち替えていたので、接近されると反撃できない。


 背後から槍で突かれ、アルテヴァーク軍は初撃で大打撃を受けた。奇襲してきた騎兵はアルテヴァーク軍の背後を蹂躙した後、リッテンホム城方面に駆け抜けてから反転した。

 森とリッテンホム城方面を押さえられたため、アルテヴァーク軍に開かれているのはデルドリオン方面のみになった。


「ここで無理に戦い続けることに戦略的な意味はない」


 テイトネレトは、いったん退却することにした。部隊指揮官に過ぎないが、戦闘にこだわる無能ではなかった。


 だが、退却した方向には歩兵の横隊がいた。アルテヴァーク軍は歩兵の長槍によって行く手を阻まれ、背後から再び騎兵突撃を受けた。さらに前進してきた歩兵と騎兵に挟撃され、アルテヴァーク軍の前衛一〇〇〇騎は壊滅。テイトネレトは討ち死にした。


「アルテヴァークと決戦するつもりで来たが、釣れたのは小物だったな」


 騎兵を率いていたレーネットはつぶやいた。

 ほぼ無傷で完勝したのはよかったが、戦果としては物足りない。壊滅させたのは、アルテヴァークがよく使う、敵の鼻先を押さえるための前衛部隊だろう。


 ナルファストは過去、この戦法によって何度も痛い目に遭わされている。進軍路が限られる場合、アルテヴァークがこの戦法を使う可能性があると分かっていても防ぐのは難しい。

 本隊に追い付かれて挟撃される前に前衛部隊を突破するのが最適解なのだが、それはそれで出血を強いられる。


 今回、レーネット軍はアルテヴァークの挟撃戦法の外側にあり、騎兵と弓兵を両翼に置いた縦深陣に敵を誘い込むことで有利に戦いを進めることができた。アルテヴァークの本隊をこれで仕留めるつもりだったが、そこまでうまくはいかなかった。だが、本隊がそのまま進撃を続けていれば有利な態勢で会敵できるかもしれない。


「各隊、陣形を整えろ。アルテヴァークの本隊を捕捉するぞ」

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