主君の評価
負傷者たちの応急処置を眺めていたオルロンデムに、アークラスムが近づいてきた。
「終わったな」
「ああ」
「後は、ヌヴァロークノ兵をファッテン伯に引き渡すだけ、か」
「『三〇〇〇人連れてけ』と言われても、困るだろうな」
解放することも、自軍に組み込むこともできない。かといって皆殺しにもできない。ファッテン伯を介して奴隷として売り払うしかない。
「貴公は、伯爵のことをどう思った?」
「武芸はからっきしだが、将軍としては合格じゃねえか?」
「またそのような、不遜な申しようは感心せん」
「お前はどうなんだよ」
「人材の長所をよくわきまえていらっしゃる。活躍できる状況を作って、後は全権を委ねている」
「丸投げしてるだけだろ」
アークラスムはいひひと笑った。
ヴァル・アークラスム・ドミティアエンは、カーリルン公領の小領主アークラスム家の五男として生まれた。本来であれば領主になることも部隊指揮官を任されることも望めなかった。
アークラスム家の長兄の一家臣として、兄の下知に従って槍働きをするのが関の山だ。
三男はぼんくら、四男は病弱だったから五男といってもさほどに肩身が狭かったわけではない。だが長兄の予備としては次兄が控えているので、ドミティアエンに出る幕はなかった。
「そういうものだ」と思っていたから、特に不幸だとも不遇だとも思っていなかった。
だが、退屈さは感じていた。
カーリルン公領統一戦争では一騎兵としてそれなりに手柄は立てたが、それだけだった。
それが今では領主になり、部隊を任されている。
悪くない。
実に悪くない。
君主としてのラフェルス伯は、「楽」の一言だった。領地については「領民と仲良くするんだよ」としか言わなかった。
そして今回、初めてラフェルス伯の家臣として戦闘を経験して、「仕えるに値する主君である」と認識した。
それを口に出すことはあり得ないが。
そんなドミティアエンをオルロンデムは複雑な思いで見返した。
ドミティアエンの兄たちは、ドミティアエンにいつもつらく当たっていた。「その言葉遣いは何だ」と言って、彼を激しく打擲しているところをしばしば見かけた。
「人前であそこまでする必要はなかろう」と思ったし、だからこそオルロンデムも「言葉遣いを改めろ」と指摘してきた。ドミティアエンが兄たちになじられるところを見たくなかった。
オルロンデム家はというと、ここにも問題があった。曽祖父の代に貴族に取り立てられた家系で、それだけに「貴族的であること」に一族は腐心していた。この家の三男として生まれたヴァル・オルロンデム・サルカーテトもまた、貴族的であることにこだわって育った。
兄たちとの仲は表面上は良好だった。だが、自分よりも器量が勝るサルカーテトを、長兄が快く思っていないことは伝わってくる。「疎まれている」と感じながら仲の良い兄弟を演じ続けるのは息苦しかった。
――このような生活を一生強いられるのか。
それならばいっそのこと家を出て遍歴騎士にでもなろうかと真剣に考えていた。兄弟同士で殺し合う家もあることを思えば、オルロンデム家は特に不幸とは言えない。「特筆すべき物語のない人生だ」とサルカーテトは思っていた。
それが今では、領主となって異国と戦っているのだから人生とは分からないものである。アークラスムの言ではないが、ラフェルス伯は君主としては「合格だ」と思う。
「あの伯爵の下にいれば、愉快な人生を送れそうだ」
と言って笑うと、アークラスムもいひひと笑って親指を立てた。
そのとき、背後から「オルロンデム卿、アークラスム卿」と呼ぶ声が聞こえた。振り返るとレンテレテスが居た。
「二人とも、後で話がある。片付いたら私のところに来てくれ」
レンテレテスはそう言って去っていった。
二人は顔を見合わせて、首をかしげた。
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