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愚者たちの輪舞 ―ブランタール公の凱旋―  作者: 中里勇史
反撃

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ミラロール南の戦い

 皇帝軍とラフェルス・カーリルン軍は、ファッテン伯領を北上してサモルフィス街道に出た。ここを東進すればミラロールの南側に出ることができる。


「ミラロールは、港を擁する街の背後、つまり南側は、半円形の丘陵になっています。街を囲うかのように」

「城壁はないってことかい?」

「急斜面の山――ほぼ崖なのです。上るのはほぼ不可能です」


 ウィンに問われたザルヴァーエルが答える。

 アークラスムが、頭を殴られたような顔をした。


「それじゃ陸からは出入りできないってことか?」

「三本の切り通しがある」

「なるほど。天然の要塞だね」


 ウィンはわははと笑った。


「ミラロールを落とす算段の前に、外側にいる一万五〇〇〇のヌヴァロークノ軍を排除することを考えねば」

「数的には有利なんだけどねえ……」


 レンテレテスの指摘に、ウィンは「やれやれ」などと言いながら頭をかいた。


「ヌヴァロークノ軍に騎兵戦力と呼べるようなものはない。一万五〇〇〇全てが歩兵と考えていいでしょう」


 ザルヴァーエルは、トローフェイルの戦いの生き残りから聞き取った情報をウィンらに伝えた。


「いやはや、面白い戦い方するね。個人の戦闘力に依存している」

 ウィンはわははと笑った。


 個人の武勇も勇気もあてにせず、密集隊形の横隊で逃げ出せない状況を作り、長槍を「立てて倒す」という単純動作だけで戦えるようにした帝国の歩兵。

 横隊を作らず、個人の技量で敵の懐に駆け込み、短剣で接近戦を挑むヌヴァロークノの歩兵。

 運用思想が全く異なる。


「この違いに対応できなかったことが最大の敗因。言い換えれば、対応できればトローフェイルの戦いのような一方的な負け方はしない」

「レンテレテス卿の言う通りだね。対応できるならば、だけど」


 ウィンは再びわははと笑った。


「笑っている場合か。密集隊形ではヌヴァロークノ兵の動きに対応できない。かといって、にわかに真似をしても付け焼き刃では後れを取るだろう」


 渋面を作るフォロブロンを後目に、ウィンは「まあまあ」と言いながらベルウェンに向き直った。


「その点どうだい? ベルウェン」

「全員は無理だが、一部ならやれるんじゃねぇかな。なぁ」


 ベルウェンはラゲルスを見た。


「ま、やれるでしょうな」

「じゃ、それでいこう」



 皇帝軍とラフェルス・カーリルン軍は、オルドナ伯領に侵攻した。ケルヴァーロは今頃、オルドナ伯領南部で敵本隊を刺激する行動を取っているはずだ。

 その間にミラロールを落とさねばならない。


 皇帝軍とラフェルス・カーリルン軍がミラロールの南側に布陣すると、ヌヴァロークノ軍はすぐに反応した。トローフェイルの戦いと同じく、横の間隔を広く空けた陣形である。


 帝国側は、右翼にラフェルス・カーリルン軍の歩兵六〇〇〇、中央と左翼に皇帝軍の歩兵八〇〇〇を配置し、両翼の後方にそれぞれの騎兵を置いた。


 両軍はその陣形を維持したまま前進する。


 両軍の間が七〇メルを切る。


 帝国側はそのまま前進する。

 ヌヴァロークノ軍もさらに前進して、短槍を投擲する構えに入った。


「今だ! 射て!」


 歩兵の後方に配置されていた弓兵が一斉に矢を放つ。トローフェイルの戦いでは盾で防がれたが、槍を投げる態勢では盾は使えない。


 ヌヴァロークノ兵が次々に射倒される。


「散開!」「てめえら! 広がれ!」


 ベルウェンとラゲルスは、各自の隊に命令を発した。

 傭兵たちは、密集を解いて横の間隔を空ける。


「放て!」「投げろ!」


 ベルウェン隊とラゲルス隊は、「短槍」を投げた。

 彼らが持っていたのは長槍ではなかったのである。


 短槍を投げた傭兵は、戦列の間を通って後列に回り、接近戦の準備をする。最前列になった旧第二列も短槍を投げて後列に下がった。


 ヌヴァロークノ軍の戦法――。


 ベルウェンがにやりと笑う。


「俺たちはヌヴァロークノ傭兵とやり合ったこともあるからな」


 投擲態勢時に矢を受け、さらに短槍で攻撃されて、ヌヴァロークノ軍左翼は崩れ始めた。


 一方、皇帝軍歩兵の前列は短槍を盾で防ぐことに徹していた。

 後列は絶え間なく矢を射かけて、短槍を投げようとする敵兵を射倒す。


「そろそろ動くか」


 敵兵は短槍を投げ終えた。

 接近戦に移行する。

 アレス副伯(フォロブロン)家臣のウレスペイルは、歩兵に再前進を命じた。


 トローフェイルでは、長槍の懐に飛び込まれて大打撃を受けたという。


 頃合いと間合いさえ合致すれば――。

 長槍は依然として有効だ。


 ただし、皇帝軍の歩兵は士爵が連れてきた領民であり、練度は低い。ウレスペイルの指揮に応じて鳴らされる太鼓に合わせて、確実に動けるかどうか。

 ウレスペイルは一抹の不安を覚えながら指揮を続けた。


「槍を立てよ!」


 後は、槍を倒す機会を見極めるだけだ。敵が走り込んでくる瞬間に……。


「倒せ!」


 指揮の頃合いは完璧だった。

 だが、ウレスペイルの不安は的中した。


 長槍を打ち下ろす頃合いが隊によってバラバラになった。槍を倒すのが遅れた隊は、懐に敵兵が飛び込んできて恐慌状態に陥った。


 戦列が、崩れた。

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