ラフェルス・カーリルン軍集結
カーリルン公軍はオールデン川沿いに北上した。川沿いを北に進むと北風が顔に突き刺さる。
オルロンデムおよびアークラスムが率いてきたラフェルス伯軍と無事に合流。トルトエン副伯領の境界付近で傭兵隊長ベルウェン・ストルムおよびベルウェンの片腕であるラゲルス・ユーストと合流した。
「久しぶりですな、旦那。八〇〇〇の兵の総大将だって?」
ラゲルスは愉快そうに笑った。ベルウェンは左眉を少し上げただけだった。
「さて、後はアレス副伯と合流するだけだね」
ラフェルス・カーリルン軍の野営地を設定すると、ウィンはベルウェンを連れてファッテン伯領の街ペンドペントに向かった。ここでフォロブロンと落ち合うことになっている。
ペンドペントの市庁舎に入ると、フォロブロンは既に到着していた。
「やあ、アレス副伯。こちらの戦況は?」
「最悪だ。ミラロール、トローフェイル、ゲルペソル、ポルセアル、アンネーメル、ゲンテザイル……主要都市の八割を取られた」
フォロブロンはオルドナ伯領の地図を討議室の机に広げた。
「ミラロール、トローフェイル……北から手堅く勢力圏を広げてるね。このバッペン城は?」
「素通りだ。街道を押さえている城以外は全て無視されている」
「街の攻略最優先、か。すると……」
ウィンが何か言い掛けた。そのとき、
「ファッテン伯領に来た気分はどうだ!」
突然、背後から雷鳴のような声が聞こえて、ウィンとベルウェンは悲鳴を上げて飛び上がった。
「ナインバッフ公!?」
ケルヴァーロは、「久しぶりだな、ラフェルス伯!」と言って大笑しながらウィンの背中をばんばんたたいた。ついでに、ベルウェンの背中もたたく。七年前のことを思い出して、ウィンとベルウェンは引きつった笑顔のまま硬直した。
フォロブロンは、二人の様子をいぶかしみながらケルヴァーロを迎えた。
「公爵が陣地を離れてよろしいのですか?」
「サンツァーツがいれば、まあ大丈夫だろう。心配するな」
「まさか公爵自らおでましとは」
「じっとしているのは性に合わん」
ウィンとベルウェンは引きつった笑顔のまま、まだ硬直している。
ナインバッフ・グライス軍は今、オルドナ伯領南部の街ゲンテザイルを攻囲している。ヌヴァロークノ軍の主力を呼び寄せるという目的も兼ねている。
「で、皇帝軍とラフェルス軍はどう動くつもりだ?」
フォロブロンは地図を指し示す。
「グライス軍が南部から侵攻しているので、我々はファッテン伯領を通ってミラロールを直接衝くつもりです」
「ならばグライス軍は派手に動いて、やつらの目を南部に引きつけよう」
「敵の主力は?」
「分からん。いつの間にか、活動を停止してどこかに消えてしまった。こちらの動きを観察しているようだ」
「北部の様子は?」
「ヨーレント卿が探ってくれているが、全体像は不明だ。ミラロールには少なくとも一万五〇〇〇前後の兵が居るらしい」
ミラロールはヌヴァロークノ本国とオルドナ伯領をつなぐ要衝になっている。ヌヴァロークノ軍にとって最重要防衛地点に違いない。
ケルヴァーロは腕組みをして地図を睨み付ける。やがて腕をほどくと右手の人さし指でミラロールをコツコツたたいた。
「やはりここの攻略が切所だな。ここを落とせば今後の作戦がかなり楽になる。それだけに抵抗も激しかろう」
ここでウィンが口を開いた。
「ミラロールはさほど大きな街ではないでしょう。一万五〇〇〇の兵は入り切らないのでは?」
「そうなのだ。敵兵のほとんどは街の外で野営している。ま、だから数の見当が付いたわけだが。街の中については、残念ながら分からん。街からも敵がワラワラ出て来る可能性がある」
「主力はオルドナ伯領の攻略に回さざるを得ない。ミラロールの防衛に大兵力は割けないでしょう」
ウィンは、市内の兵力は多くないと見切った。
「どうだ、グライス軍からも兵を回してもよいが」
「ヌヴァロークノの主力はグライス軍に向かう可能性が高い。十分な戦力で敵主力に当たるべきです」
「ラフェルス伯の言う通りだな。では俺は戻る。ザルヴァーエルを残すから、オルドナ伯の戦訓についてはヤツに聞いてくれ」
家臣のヴァル・ザルヴァーエル・カルターレンを親指で示すと、ケルヴァーロは市庁舎の討議室を出ていった。
「ナインバッフ公自らお出ましとは、相変わらず行動が読めない御仁だ」
肩をすくめながらフォロブロンは苦笑した。
「そういう方なのです」
ザルヴァーエルも苦笑した。




