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愚者たちの輪舞 ―ブランタール公の凱旋―  作者: 中里勇史
魔手

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ウィン、出陣

 ラフェルス伯領とカーリルン公領に割り当てられた軍役の内訳は定められていない。合計で騎兵二〇〇〇と歩兵六〇〇〇であればよい。これを両者がどう負担するか。

 ウィンもアルリフィーアも動員できる兵力など把握していないので、実務はムトグラフとニレロティスを中心に進められた。

 結果、騎兵五〇〇と歩兵一〇〇〇をラフェルス伯、騎兵一五〇〇と歩兵五〇〇〇をカーリルン公が出すことになった。


 指揮系統は、揉めた。


伯爵(ウィン)が総大将なのは当然である」


 とアークラスムが主張すると、


「より多くの兵を出すカーリルン公の家中から総大将を出すのが妥当」


 とポロウェスが反論した。


「伯爵が政略・戦略に長けていることは承知しているが、戦闘の指揮は未知数。私はそこを懸念している」

「総大将なんてお飾りでいいんだって。ならアレ(ウィン)でも務まるだろ」

「アークラスム、主君をアレ呼ばわりするな」

「そういう話をしてるんじゃねえんだよ、オルロンデム!」

「総大将はカーリルン公領から出すのが筋である」


 ポロウェス、アークラスム、オルロンデムが揉めに揉める。バルエインは軍議の冒頭に「誰の下知であろうと従う」と発言した後、目を閉じて腕組みをしたままピクリとも動かない。



 公爵の執務室では、ニレロティスとレンテレテスがアルリフィーアを挟んで睨み合っている。


「言っておくが、貴公らを共に出陣させるわけにはいかん。どちらかには残留してもらうぞ」


 アルリフィーアは眉間に皺を寄せて二人を睨んだ。カーリルン公領をがら空きにするわけにはいかないという理由だけでなく、両方が討ち死にするのを避けるという面もある。どちらかは生き残って、カーリルン公領の軍事面を統括しなければならない。


「貴公らは既に宿老級じゃ。気の毒じゃが、二人が肩を並べて戦場に出ることは許さん」

「であれば、上席の私が出るべきであろう。伯爵(ウィン)とのつり合いというものもある」

「ドルトフェイム解放戦は卿に譲ったのだ。今回は私の番だ」

「うっ……」


 ドルトフェイム解放のために武官がカーリルン公領を出奔した際、レンテレテスを残留させたという負い目がニレロティスにはある。


「ふむ、勝負あったな。ニレロティス卿よ、今回はレンテレテス卿に譲るがよい。レンテレテス卿、カーリルン公として出陣を命じる」

「御意。ニレロティス卿、公爵を頼んだぞ!」


 アルリフィーアの決裁が下ったからには反論できない。ニレロティスは、不機嫌そうに「うむ」と答えた。



 レンテレテスが軍議の間に行くと、ウィンが手招きしている。


「やあレンテレテス卿。そっちは決まったみたいだね」

「何を揉めているのです?」

「誰を総大将に立てるのか、だって。レンテレテス卿に任せちゃっていいかな?」

「なるほど」


 レンテレテスが軍議用の卓をバンッとたたく。「うわっ」と言ってアークラスムが跳び上がった。


「総大将はラフェルス伯とする! 不満があるものは名乗り出よ!」


 オルロンデムとアークラスムは目を丸くして硬直している。バルエインは腕組みしたまま動かない。


「レンテレテス卿がそう言うなら、異存はない」


 ポロウェスはあっさりと引き下がり、あれほど紛糾していた総大将はあっさりと決まった。


「軍議の仕切りは、この通りお引き受け致した」


 レンテレテスがフフンと笑う。


「いや、どちらかというと、そっちじゃなくて……」


 ウィンは、頭をかいてため息をついた。


「やはりレンテレテス卿の方が向いてる気がしてきた」


 ウィンとレンテレテスを見比べながらアークラスムがつぶやく。


「アークラスムと同意見だよ。私は実戦の指揮なんて執れないよ?」

「実戦の指揮は我らにお任せあれ。総大将は、ぼんやりと立っていればよろしい」

「何だ、レンテレテス卿も俺と同意見だったのか」



 ラフェルス・カーリルン軍は、一月十日にトルトエン副伯領で合流することも取り決められた。

 総大将はウィン。

 副将レンテレテス。

 カーリルン公軍をバルエイン、ポロウェスら、ラフェルス伯軍をオルロンデムとアークラスムらが指揮する。オルロンデムとアークラスムは、編成中の軍勢を指揮するためラフェルス伯領に戻った。


 十二月三十日、カーリルン軍の動員と編成が終わった。ウィンはこのままカーリルン軍と一緒に出陣することにした。


「じゃ、行ってくるよリフィ、フェルティス」


 散歩にでも出かけるような調子で別れを告げると、ウィンは少し手間取りつつ愛馬ロレルに跨がった。

 馬に乗り降りするときの無様さだけはどうにも直らない。防寒着で着膨れして、動きが制限されているという理由もあるにはあるのだが。

 ウィンは、鼻水をすすり上げるとアルリフィーアとフェルティスに向かって笑った。相変わらず寒さに弱い。


「ウィン、早く帰ってくるのじゃぞ。ほれ、フェルティスも父上に挨拶せぬか」

ちーうえ(父上)、いってらっしゃい」


 ウィンは笑って手を振ると、するりと出発した。


 しばらくして、左肩を後ろに下げて振り向くそぶりを見せた。

 結局、振り向かなかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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 一番初め、父殺しの後にエルエンゾが娼館で秘事を零してしまったのは仕方がなかったとはいえ、その後も機密をウリセファにぺらぺらと話してしまうというのは、これはウリセファという女性の手練手管の賜物なのか、…
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