↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚者たちの輪舞 ―ブランタール公の凱旋―  作者: 中里勇史
魔手

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

193/251

約束

 十二月十五日、皇帝軍一万とラフェルス・カーリルン軍八〇〇〇を出兵させる旨の勅令が皇帝によって発せられた。


 皇帝軍は、士爵とその家臣を主体とする騎兵二〇〇〇と歩兵八〇〇〇。フォロブロンが主将を務める。

 エルエンゾが皇帝に進言して容れられたものである。まさか娼婦に吹き込まれた計画だとは言えないから、自分の案とするしかない。それに宮廷的な美辞麗句を貼り付けて、もっともらしくロレンフスに語った。

 出兵案など侍従の分を超えた内容であるから、非公式な語らいの場でのことである。


 ナインバッフ公(ケルヴァーロ)だけに事態収拾を押し付けることに疑念を感じていたロレンフスは、すぐに食い付いた。エルエンゾに無意識に共感し、依存していることにロレンフスは気付いていない。


 カーリルン公(アルリフィーア)への通達は、十九日にフロンリオンに届いた。同様の通達はラフェルスにも送られていたが、帝都に近いフロンリオンに先に届き、フロンリオンに滞在していたウィンもここで勅命の内容を知ることになった。


「これは……帝室の藩屏として働け、ということじゃろうな」


 勅命を読んだアルリフィーアは、勅命の背景を正確に洞察した。ウィンは、やれやれという顔で肩をすくめる。


「いずれこういうのが来るとは思ってたけどね。オルドナか……」

「行ったことがあるのか?」

「オルドナ伯領には行ってないけど、その隣のファッテン伯領には一度。オルドナ水軍も巻き込んで騒ぎを起こして、ナインバッフ公(ケルヴァーロ)に超叱られたのを思い出した」

「ウィンはどこに行っても人を怒らせとるんじゃな……」


 アルリフィーアはふうとため息をついた。


「勅命が下った以上、出陣するしかない。ベルウェンに傭兵を集めさせよう」

「戦場に出るのは初めてじゃ。腕が鳴るのう」


 ウィンは、ぎょっとしてアルリフィーアの顔を見返した。


「リフィは留守番だ。私が行けば十分だろう」

「いつも一緒じゃと言ったではないか」


 口を尖らせているアルリフィーアのおでこを中指ではじいて、ウィンは顔をしかめた。


「リフィには他にも仕事があるだろう。フェルティスを頼んだよ。ついでに、ラフェルスもね」

「オルドナ伯領は北海に面しとるんじゃろ? ウィンも海を見たのか?」

「見たよ。というか、突き落とされた」

「また誰かを怒らせたのか……」

「どうして分かったの? まあ、海はとにかく広い。大陸も海に浮かぶ島のようなものだからね」

「大陸が島!? 海とはそんなに広いのか。想像がつかぬ」

「ファッテン伯領は沿岸に小島がたくさんあるからあまり広く感じないけど、見渡す限り海しか見えない場所もあるらしい」

「何と! 一度見てみたいものじゃ」

「この戦いが終わったら、一緒に見に行こう。トルトエン副伯(フォロブロン)なら歓迎してくれるだろう」

「それはよい! フェルティスも連れて見に行こうぞ!」


 アルリフィーアは破顔した。真夏の木漏れ日のような、優しくて柔らかい、そして鮮烈な笑顔だった。




 しかし、この約束が果たされることはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。