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愚者たちの輪舞 ―ブランタール公の凱旋―  作者: 中里勇史
魔手

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オルドナ伯領失陥

 ケルヴァーロが領国に入ってグライス軍の編成に着手した時点で、オルドナ伯領はほぼヌヴァロークノ王国に制圧されていた。


「オルドナ伯領の野戦戦力はトローフェイルの戦いで壊滅。ヌヴァロークノ軍は伯領の街や城を攻略。新たな街を落とすと、ミラロールからヌヴァロークノ人がやって来て街を支配している模様」


 ヴァル・ストルザイツ・サンツァーツは表情を変えずに報告を続ける。

 彼はケルヴァーロと同じストルザイツ家に属する一門衆の一人で、今は副将を務めている。


「落とされた街の様子は?」

「帝国人の多くは追放され、一部は奴隷にされたようです」

「奴隷……か」


 ケルヴァーロは奥歯をギリリとかみしめて、壁を睨み付けた。


「完全に油断したな。俺の失策だ」


 ケルヴァーロは頭をかきむしりながら自嘲した。

 諸侯の多くが領地を離れて帝都に集まるという状況に対して、十分な手当をしていなかった。


「海からの国家規模の侵略など、百年以上なかったことです」

「だが、それは『今後もない』ことの保証にはならない。オルドナ伯を残留させたが、それだけでは足りなかった」


 ケルヴァーロは、全て自分の責任であると認めた。


 戦争の在り方も、今回は全く異なる。

 ヌヴァロークノ王国が本国を捨てる覚悟で平民まで連れて押し寄せてきたことで、「ヌヴァロークノ軍に野戦で勝てばよい」という問題ではなくなった。


公爵(ケルヴァーロ)が所領に居ても、北部は制圧されていたでしょうな」


 サンツァーツは表情を変えずに言い放った。


「オルドナ伯やヌリメリルの判断は大きくは間違っていない。敵がそれ以上に優れていたことが原因だ」

「それだけに、トローフェイルでの敗北までの流れを変えることは不可能です。グライス軍を編成している間に、オルドナ伯領の北部は制圧されていたでしょうな」


 ケルヴァーロは、自分の両頬を両手でパンとたたいて後悔から今後の戦略に頭を切り替えた。


「兵はどれくらい集まった」

「公国軍が一万五〇〇〇、グライスの諸侯たちの兵が五〇〇〇といったところかと」

トルトエン副伯(フォロブロン)の斥候が捕捉した敵軍は三万を超えてるそうじゃないか。まだ動きが取れんな」


 ケルヴァーロは積極的な用兵を得意とする猛将だが、寡兵で突撃する愚か者ではない。兵が足りない状況で戦わねばならないならば相応の戦い方をするが、待てば兵がそろうのであればそろうまで待つ。

 オルドナ伯領の状態は気になるが、今はナインバッフ公国内で十分な兵力がそろうのを待つしかない。グライス軍の招集に各諸侯が応じれば、四万を超える兵力になる。


 ナインバッフ公国の中心都市、ドロウアイルにあるナインバッフ公の宮殿の広間は、グライス軍関係者に開放されていた。

 ケルヴァーロやサンツァーツもここに詰めて情報の集約や諸侯への指示を行っている。


「ポルセアルが降伏して城門を開いたようです」


 広間に入ってきたヴァル・ヨーレント・イガレンスが、最新情報をケルヴァーロに報告した。ヨーレントはフォロブロンの家臣で、彼に代わってトルトエン副伯軍を指揮している。


 戦況はますます悪化している。


「これでオルドナ伯領南部まで敵の勢力が及んだか」


 準備を整えた上で籠城した街を落とすのには数カ月かかる。オルドナ伯領を奪還するのに何年かかるか。同時に、増強し続けているヌヴァロークノ王国の野戦軍も相手にしなければならない。


「初動でドジると後始末が大変だな」


 ケルヴァーロは、頭をかきながら大笑した。

 サンツァーツは、「笑い事ではありませんよ」と冷静にたしなめると、ヨーレントと共にどこかに行ってしまった。

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