トローフェイルの戦い
オルドナ伯領の情勢は混沌としている。
トローフェイルの留守居役を任されたヌリメリルは、軍議を開いた。
「それぞれの報告を伺いたい」
「ミラロールは堅固に防御されている。奪還は容易ではない」
「ヌヴァロークノ王の旗を掲げた軍勢が動き出した模様」
一同に緊張が走る。
「籠城すべきである」
「いずれナインバッフ公が援軍を出してくれるだろう」
「だが、ヌヴァロークノはトローフェイルにこだわるだろうか」
「トローフェイルを無視するというのか」
「他の街や城はほぼ無防備。兵はトローフェイルに集結しているのだ」
「我らがトローフェイルに籠城すれば、ヌヴァロークノ軍を拘束できよう」
「無駄だ。ヌヴァロークノ軍はわずかな兵でトローフェイルを牽制するだけのこと」
「となると、敵主力はオルドナ伯領で自由に動けることになる」
「ならば、他の街を攻めているヌヴァロークノ軍の背後を衝けばよい」
「攻囲となれば、後詰め対策も行うであろう。防御陣地に対して攻撃することになる」
「不利は免れんか……」
「いっそのこと」
一人の領主が発言した。
「ミラロールの奪還を優先してはどうか」
「攻略に手こずっている間に敵が反転してきたら挟撃されるではないか」
行き詰まって、発言が途絶える。
「やはり――」
ヌリメリルは決断した。
「トローフェイル外で野戦を挑む。街の北にある丘陵部を先に押さえれば地の利を生かせるだろう」
こうして、半ば消去法によって野戦に打って出ることになった。
オルドナ伯軍の主力となる歩兵二〇〇〇をその丘陵部に配置し、堀を穿って野戦陣地を構築した。丘陵部の左右やや後方にそれぞれ歩兵二〇〇〇と騎兵一〇〇〇を配置し、丘陵部の主力を攻める敵を両翼から半包囲する態勢を整えた。
ヌリメリルは、現有戦力で取り得る最善策を取ったと言っていいだろう。
ヌヴァロークノ軍は歩兵で構成されており、指揮官だけが馬に乗っている。彼らの装備は短槍と盾で、帝国の歩兵のような長槍を持つ者はいない。
ヌヴァロークノ軍はオルドナ伯軍が前方に布陣しているのを認めると、進軍を停止して長大な横陣を展開し始めた。兵と兵の間も広く、この点も密集隊形を取る帝国の歩兵とは異なっている。
ヌヴァロークノ軍は布陣を終えると前進を開始した。オルドナ伯軍は動かず、彼我の距離が一〇〇メルを切ったところで弓兵による攻撃を開始した。ヌヴァロークノ軍は盾で矢を防ぎつつ前進を続ける。彼らが持つ盾は大型で、ほとんどの矢はこの盾によって防がれてしまった。
両軍の間が七〇メルを切ると、ヌヴァロークノ軍は中央で軍を二分し、左右に分かれてオルドナ伯軍の両翼を包囲する態勢に入った。
ヌヴァロークノ軍を包囲するつもりだったヌリメリルは慌てた。両翼に配置した騎兵で包囲を妨害せよと命じたが、その命令は遅きに失した。ヌヴァロークノ兵は短槍を騎兵、正確には馬に投擲すると、広く空けた間を通って後列に回った。最前列になった第二陣もまた、馬に向かって短槍を投げて後列に回った。
オルドナ伯軍の両翼に配置されていた二〇〇〇の騎兵は、十分な作戦行動を取る前にこの投げ槍によって壊滅的な打撃を受けた。
オルドナ伯軍の左右の二〇〇〇の歩兵は、ヌヴァロークノ軍の歩兵五〇〇〇に包囲される形になった。丘陵部に配置された二〇〇〇は遊兵と化し、野戦陣地の中で孤立した。
長槍を構えて密集隊形を取るオルドナ伯軍の歩兵に対して、ヌヴァロークノ軍の歩兵は戦列を形成せずに距離を詰めた。
短槍をまだ持っていたヌヴァロークノ歩兵は槍を投擲。密集隊形のオルドナ伯軍歩兵はこれを避けることもできず、次々に倒されていった。
オルドナ伯軍の歩兵は、長槍を立てて攻撃態勢を取る。これを見たヌヴァロークノ軍歩兵は、盾を捨てて身軽になり、走って一気に接近した。
長槍の破壊力は強大だが、その威力を発揮するのは槍の先端部である。槍を倒す前に接近されると威力は半減する。剣が届く距離では長槍の威力などないに等しい。
ヌヴァロークノ軍の歩兵が持つ剣は刃渡りが短く、乱戦時でも取り回しが容易だった。懐に入り込まれたオルドナ伯軍の歩兵たちは、この剣によって一方的に倒されていった。
丘陵部の主力が丘から下りて参戦しようとした頃には両翼は壊滅しており、丘陵部は完全に包囲されていた。
ヌリメリルは二〇〇〇の兵と共に降伏し、オルドナ伯軍は消滅した。




