ルティアセス
ウリセファ一行がプルヴェントから出奔したことを知ったルティアセスは、大いに慌てて捜索を命じた。だが一行の行き先はようとして知れなかった。
ウリセファ一行の出奔に加担したとされる3人の騎士も捕らえた。彼らはウリセファらが出ていった後に城門を閉めたり、まだウリセファたちがいるかのように偽装したりするなど、不審な行動があった者たちだ。
だが、「手荒な尋問」を加えても彼らは口を割らなかった。
「ワルフォガルのロンセーク伯の所に行くと言っていた」
「いや、監察使に保護を求めると言っていた」
「そうではない。ナルファスト公国の外に向かっている」
と、全く異なる証言を繰り返した。どれもあり得ないとは言えない。
ルティアセスは、「一体、公女にいくらもらった? カネならその倍くれてやるぞ」と報酬をちらつかせてみたが、騎士たちはルティアセスを侮蔑するような目で眺めるのみで何も言わなかった。
彼らにとって、ウリセファの「後をお願いします」という言葉に勝る報酬は考えられなかった。ただし、「無理はするな」という指示には背くと決めていた。
「お前たち、顔の形が変わる程度では済まぬぞ」とルティアセスは言い捨てて、拷問吏に「何をしても構わん。喋らせろ」と命じた。
出奔したウリセファ一行の手掛かりを何一つつかめないまま、ある日ルティアセスは書簡を受け取った。書簡を読み終えたルティアセスは悲鳴を上げた。恐れていたことが現実になってしまった。もはや外聞を気にしている場合ではない。
ルティアセスは、家臣にリルフェットの捜索を改めて命じた。大至急、「生きたまま」お連れ戻しせよ、と。
家臣たちは困惑した。「生きたまま」とわざわざ条件を付けるのはどういうことなのか。公妃や公女についてはどうするのか。
だが、ルティアセスは「ティルメイン副伯にお戻りいただくのが最優先である」としか答えなかった。「それ以上は聞くな」とルティアセスの目が言っている。
ルティアセスの家臣は動揺しつつ、「取りあえずティルメイン副伯を連れてくればいいのだ」と自分に言い聞かせて捜索を開始した。
何としてもリルフェットを確保しなければならない。そうしなければルティアセス家は終わりだ。ルティアセスは焦燥感にかられて舌打ちした。1回では気が済まない。2回3回と繰り返した。だが事態は何も変わらない。
拷問吏から、3人の騎士が最後まで口を割らずに死亡したという報告が届いたのはそれから5日後のことだった。




