ルティアセス
ウリセファ一行がプルヴェントから出奔したことを知ったルティアセスは、大いに慌てて捜索を命じた。
だが一行の行き先はようとして知れない。
ウリセファ一行の出奔に加担したとされる三人の騎士も捕らえた。彼らはウリセファらが出ていった後に城門を閉めたり、まだウリセファたちがいるかのように偽装したりするなど、不審な行動があった者たちだ。
だが、「手荒な尋問」を加えても彼らは口を割らない。
「ワルフォガルの……ロンセーク伯の所に……行くと言っていた」
「いや……監察使に保護を求めると……おっしゃっていた」
「違う……。公国外に向かうと仰せだった」
彼らは全く異なる証言を繰り返した。どれもあり得ないとは言えない。三人は、苛立つルティアセスを嘲笑しながら見上げた。
「ルティアセス卿、一体……何の権限があって我らを……捕らえたのか。公女様は貴公の……ものではあるまい。主君のご一家がここを出るのに、貴公の許可……など、不要だ」
「全く……思い上がりも甚だしい。公女様たちは欲することをなした……だけのこと」
「まさかまさか、ご一家に害意があるのでは……あるまいな」
ルティアセスは逆上するのを必死にこらえて、神経質そうに足を踏み鳴らした。そう、ルティアセスにウリセファたちを留め置く権限などない。三人の言う通りなのだ。
――だが、それでは困るのだ!
精一杯平静を装い、交渉に応じる度量を見せつけることにした。
「一体、公女にいくらもらった? カネならその倍くれてやるぞ」
騎士たちは、ルティアセスを侮蔑するような目で眺めるのみで何も言わない。喉の奥を「くくっ」と鳴らして嘲笑する。穏やかな顔で静かに目を閉じる。
彼らにとって、ウリセファの「後をお願いします」という言葉に勝る報酬はなかった。そして、ルティアセスのこの態度によって、ウリセファたちをプルヴェントから退去させたのは正しかったと確信した。
――我ら、正義をなせり。
三人は、互いにほほ笑んで、頷いた。
「お前たち、顔の形が変わる程度では済まぬぞ」
ルティアセスは拷問吏に、「何をしても構わん。喋らせろ」と命じた。
◆
ルティアセスは、その後もウリセファ一行の手掛かりを何一つつかめなかった。
そしてある日、彼は一通の書簡を受け取った。それに目を通す彼の手がぶるぶると震える。最後の一行を読んだルティアセスは、ついに悲鳴を上げた。恐れていたことが現実になってしまった。もはや外聞を気にしている場合ではない。
ルティアセスは、リルフェットの捜索を改めて家臣に命じた。大至急、「生きたまま」お連れ戻しせよ、と。
家臣たちは困惑した。「生きたまま」とわざわざ条件を付けるのはどういうことなのか。公妃や公女についてはどうするのか。
だが、ルティアセスは「ティルメイン副伯にお戻りいただくのが最優先である」としか答えなかった。「それ以上は聞くな」とルティアセスの目が言っている。
ルティアセスの家臣は動揺しつつ、「取りあえずティルメイン副伯を連れてくればいいのだ」と自分に言い聞かせて捜索を開始した。
――何としてもリルフェットを確保しなければならない。そうしなければルティアセス家は終わりだ。
ルティアセスは焦燥感にかられて舌打ちした。一回では気が済まない。二回三回と繰り返した。だが事態は何も変わらない。
拷問吏から、三人の騎士が死亡したという報告が届いたのはそれから五日後のことだった。彼らは、あれから一言も発しなかったという。
彼らはウリセファに最後まで忠実だった。だが、彼女の「無理はするな」という指示にだけは従わなかった――。




