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愚者たちの輪舞 ―ブランタール公の凱旋―  作者: 中里勇史
ナルファスト公国へ

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111/120

交差

 帰路に就いたウィン一行は、ストルン街道を北上していた。一行を押し戻すかのように、北風が暴力的に吹き付ける。寒風の連打を顔面に受けて、ウィンは鼻水を垂らしていた。

 何もない平原を抜けて、一行はデウデリアという簡素な宿場町に入った。

 北風が吹き抜けるのを防ぐため、デウデリアは東西に延びている。ストルン街道はデウデリアに入ってすぐ、東に直角に折れ曲がっている。そして西の端で再び北に方向を転じる。おかげで、街の中は風の影響が比較的弱い。


 デウデリアを通り抜けようとしていたウィンたちは、見覚えのある女性と出くわした。


「おや、アディージャじゃないか」

「ウィン!? アレス副伯(フォロブロン)にベルウェンまで? こんなとこで何してんのさ」

ナルファスト公(レーネット)の婚礼に呼ばれてね。寒いのに」

「ウィン様、いちいち寒いを連呼するのはやめましょう」

「うるさいな。で、アディージャはどうしてたんだい?」


 彼女は、ナルファスト継承戦争時に別れて以来の近況を手短に語った。語りながら、語るほどの人生ではないことに彼女は改めて気付かされた。


「しばらくここに居るつもりだったんだけどね、所用ができて帝都に行くところさ」

「帝都に? そりゃまた何で」

「気になる娼婦がいるんだよ。その娘を帝都に連れてってやろうと思ってね」

「相変わらずだなぁ。一緒に行くかい?」

「ありがたい話なんだけどね……。まあ、街外れから乗合馬車が出てるからね。それに乗ってのんびり行くつもりさ」


 帝都に、早く安全に移動するならウィンの提案に乗った方がいいことは分かっている。だが、自分でも表現し難い想いがモヤモヤして、ウィンと共に旅をすることにアディージャは抵抗を覚えた。


 多分、自分はウィンにこれ以上近づくべきではない。近づけば、これまで経験したことのない、この胸の奥がムズムズする感情が大きくなって苦しむことになる。この変な感情が小さいうちに断ち切るべきだと本能が告げていた。


 彼女は、生まれて初めて抱いた、時に不快で時に心地よいこの感情が何か、どうしても理解できなかった。


「ストルン街道の宿場町には、俺とつながってるやつが多い。困ったときは俺の名前を使え。便宜を図ってくれるだろう」

「助かるよ、ベルウェン。じゃ、みんなも達者で」


 こうして、ウィン一行とアディージャは別れた。

 ウィンは、レーネットがウリセファと再会できることを祈りながら。アディージャは、ウリセファが帝都で目的を果たすことを願いながら。


運命の女神がくれた最後の機会。ここで誰かが彼女の名を口にしていたら、彼らの運命は全く異なるものになったことでしょう。

しかし、そうはなりませんでした。


もし今後の展開などに興味を持っていただけましたら、ブクマなどぜひよろしくお願いします。

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