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愚者たちの輪舞 ―ブランタール公の凱旋―  作者: 中里勇史
ナルファスト公国へ

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フェット

 帝都の貧民街に、ごくありふれたぼろ屋がある。そこには、みすぼらしい貧相な体の醜い中年男と、貧民街には似つかわしくない顔立ちの薄汚れた少年が暮らしていた。

 男は、少年を殺さねばならなかったが、将来の保険として生かしている。だが、養うのは嫌だった。

 虐げられ、奪われ続けた自分が、なぜ他人に食料を分け与えなければならないのか、全く理解できなかった。


 奪うこと。奪われないこと。この二つがこの男の行動原理だった。

 だから少年にも稼がせることにした。自分の食い扶持は自分で稼ぐべきなのだ。確か「働かないやつは食うな」だったか。昔の人間はいいことを言う。ダゼゾボは、その言葉を考えたやつとは気が合いそうだと思った。うまい酒が飲めそうだ。


 いや、何の話だったか。

 ダゼゾボは頭が悪かった。思考はとりとめもなく、すぐ脇道にそれる。本筋が分からなくなる。そして思考をやめる。その繰り返しだった。


 脇で短剣を研いでいる少年を見て、そうだ稼がせるんだと思い直した。思考が本筋に戻るのは極めて珍しい。

 このガキの名前は長ったらしくて覚えられなかったので、短くした。もう元の名前は忘れてしまった。

 フェット。

 これなら覚えられる。


 稼がせるといっても、一一、一二歳のガキに強盗ができるとは思わない。ダゼゾボはそこまで愚かではなかった。

 できそうなことからやる、というのが成長の基本だ。といっても教え方が分からないので自分がしてきたことをなぞった。

 人通りが少ない通りを走り、駆け抜けざまに店先の商品をかっぱらう。

 まずは食い物だ。食えばまた走れる。果物ならば料理しなくてもいい。


 盗みに際しては、「捕まったら殺される」ということを念入りに言い聞かせた。捕まっても許されるなどというヌルい考えでは真の力は発揮できないものだ。

 フェットはすばしこいガキだった。店主の隙を突いて商品をかっぱらうすべをすぐに体得した。

 食費が浮いてきて、ダゼゾボは満足した。


 腹が満たされ、走る活力を蓄えたら、換金性が高いブツを狙う。ただしブツを換金するには裏側のつてが要る。

 ダゼゾボは子供の頃、その点で苦労した。

 換金相手を誤ると、足元を見られて買いたたかれる。もっと悪いと、ブツを上納させられる支配・被支配の関係に陥る。対等な取引ができる相手というのはなかなかいない。

 当面は、ダゼゾボの人脈を使わせてやろう。人脈作りからやらせていたのでは効率が悪い。


 換金性の高いブツを扱っている店は人通りが多い通りにしかないので、難易度も上がる。より一層の注意力と決断力が求められる。

 フェットはここでも才能を発揮し、いつしか万引小僧として有名になった。有名になったらおしまいである。

 この稼業は河岸を変える潮時の見極めも肝心だ。


 短剣の使い方も教えた。最小限の動きで、最適な場所を切り裂き、突き刺す。

 人間の急所、甲冑の隙間といった、狙うべき場所もたたき込む。体が勝手に急所を狙うようでなければならない。考えていたら殺られる。

 体が小さくて大剣を振り回せないなら、相手の懐に飛び込むしかない。一気に距離を詰めて自分の間合いに入らなければならない。これには万引で鍛えた脚力と瞬発力が生かせる。

 人から奪ったもので生き、殺されるかもしれないという緊張感の中で生きているうちに、フェットの顔つきが変わってきた。いつも笑顔で、蝶を追い掛けていた頃の面影はもうない。

 険のある卑しい顔になっていった。


 ダゼゾボは、自分が作りあげた作品に満足した。

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