キ:任務の報酬を貰おう
前回最後の犬の話がちょっと紛らわしい表現になっていたので修整しました。
センチメンタルレトリバーは購入していません。買ったのはオヤツだけです、
あの犬は買ったが最後、よほど強い意志がないと一匹だけオヤツをもらいまくって色んなバランスが崩れてしまう……
ログインしました。
今日の予定は、後回しになっていた、僕が春イベント襲撃の時に結界を死にながら通過した件の報酬を貰う日です。
変装諸々含めた準備をしながら、「そういえば……」と頭に浮かんだ事を話す。
「ログイン前に溜まっていた公式動画見て思い出したけど……そういえば襲撃防衛戦のドロップアイテム箱で届いてたの忘れてたね」
「ああ……そういえばそんなのあったな」
「インベントリ代わりの箱が助かりすぎるから、ついそのまま積んじゃうんだよねぇ……あれの中身にニヤニヤのドロップあったから、ついでに持っていこうよ」
「ああ、そうだね」
ニヤニヤフラワーが走ってたニヤニヤランナーを大量に倒したから、そのドロップアイテムが売るほどあるのと……ボス枠だったヒュージニヤニヤランナーのドロップアイテムもある。
フリマで売る素材を準備してた時は拠点のあるフィールドの素材しか頭に無くて、完全に忘れてた。
「持っていって見せて、欲しいって言われたら売ろう」
「だな」
* * *
「……パピルス」
「はいはい、全部購入でいいですか?」
「頼む……」
パピルスさんの店に行き、裏の応接室的な所に案内されてパピルスさんとロンドン橋さんが揃った所でニヤニヤドロップアイテムの話をして現物を見せたら……めでたくニヤニヤしているドロップアイテム達は全部買い取ってもらえる事になった。まいどーも。
ニヤニヤした素材達を、苦笑いしながらリスト化するパピルスさん。その横で、両手で顔を覆ってブツブツと錬金術のレシピっぽい事を呟いているロンドン橋さん。
(ニヤニヤした素材に囲まれながら頭抱えてるロンドン橋さん面白いね)
(……素材に煽り散らかされてるようにしか見えない)
ロンドン橋さんがニヤニヤ達を全部インベントリに仕舞い終えてから、本題に入った。
「……おかしい。こちらが報酬を払うはずなのに、何故貴重な素材を買い取らせてもらっているのか……」
「はい、では気を取り直しまして。今回、こちらの論丼ブリッジが依頼した結界突破の報酬という事で……ご希望は『面白い物3点セット』、いくつか御用意いたしましたので、こちらを確認していただきたいと思います」
「はーい!」
「……はい」
待ってました!
大商人なパピルスさんのご用意する面白い物! 何が出てくるかワクワクしてたんだよね。
パピルスさんは自分のインベントリから……まずは大判の本を1冊取り出した。
「フリマの直後という事で……あまりフリマに並ばないタイプの商品から御用意しました。ひとつめはこちら、プレイヤー『旅の絵描きロロ』氏による画集です」
「おおー!」
画集! 確かにフリマでこの手の本って見たこと無いかも。
開いて見てみると、書き込みが細かくて綺麗な風景画が並んでいた。
「わー、綺麗ですね! ……え、なんでこれフリマに並ばないんですか?」
「この手の本を主に購入するのが、一般NPCだからですね」
パピルスさん曰く、スクリーンショットという存在があるプレイヤーやお貴族NPCは、風景画は『壁に飾る物』として求める場合が多いんだって。
そうなると、本になっている画集を買うのはちょっと生活に余裕のあるNPC。つまり、貴族ほどご機嫌取りの必要がない層がメインの購入層になる。
「ようは、ハッキリ言ってしまえばゲームアイテムとしては用途が薄いんですよ。フリマに並べても売れないんです。……でも綺麗なので、お好きかなと」
「画集は大好きです!」
ひとつめはこれに決まり!
「これはうちの子達も喜ぶでしょ」
「……まぁそうだね」
うちの拠点は中々遠出が出来ないからね。
色んな風景画が見られる画集は娯楽にちょうどいいと思う。
なんてやり取りを相棒としたら、それを聞いたパピルスさんが反応した。
「おや……拠点にお子さんが?」
「拉致クエストクリアしたら、保護する事になったちびっ子がいるんですよ」
「ああ、なるほど。……では、次はこの絵本などいかがですか?」
そう言うと、パピルスさんは分厚い絵本を取り出してテーブルに乗せた。
「こちらはいわゆる飛び出す絵本なんですが……極小の魔道具が仕込まれていまして……このように、ページ毎に魔法でエフェクトが入ります」
「ええー!? すごーい!?」
「……おおー、すごいな」
とんでもない絵本が出てきた!!
飛び出す絵本で、しかも魔道具付きっていう構造上なんと【写本】スキルが使えない、完全に一点物!
え、おチビちゃん達も喜ぶだろうけど、僕も欲しい。何回も見返したい。
「え、これ二つ目として選んでもいいんですか!?」
「もちろんです」
爽やか笑顔のパピルスさんは心なしか誇らしげ。
即決で二つ目はこの絵本にさせていただきました。
「では三つ目はこちら……銃の研究をしているプレイヤーが作成した『銃の形をした麻痺魔道具』になります」
「「……おおー?」」
三つ目にとパピルスさんが出したアイテムは、前二つとはかなり毛色の違う品物だった。
「……見た目は銃ですね」
「はい、見た目は銃です」
パピルスさんが説明する所によれば……エフォは中世ファンタジーな世界観を守るためなのか、機械仕掛けの物が上手く動かないようになっている。それっぽい物をスムーズに動かすには、魔法を組み込まないといけないらしい……
うん、これはかなり前に相棒が知った仕様だね。
で、銃が大好きで、どうしてもエフォで銃を撃ちたいプレイヤー達が、なんやかんやして辿り着いたのが……『銃の形をした魔道具』。
「ようは『攻撃魔法を籠めた魔道具を、銃の形の杖に組み込んでいる』という状態ですね」
「へぇ~」
「……これって攻撃としては、魔法なんですか? 射撃なんですか?」
「さすが森男さんは鋭い。残念ながら、これは魔法の枠になります」
だって撃ってるのは魔法だから。
ただ引き金が発動のトリガーになるようになっていて、銃っぽく撃てるってだけ。
エフォの射撃は【弓術】スキルって名前ではあるんだけど、玩具みたいなスリングショットでも【弓術】スキルが乗るから、たぶん銃が銃として機能したら魔法じゃなく【弓術】の判定になるはず。……でも、乗らないから、これはまだ魔道具の範囲内って判断してるんだって。
銃みたいに、砲身から物理の弾をそれなりの威力で飛ばす……となると、ボウガンよりも制限がキツいのか上手くいっていなくて、トライアンドエラーを延々と繰り返しているらしい。
「開発者が全然満足していないので、販売はしていないんですよ」
「え、それ三つ目として貰っても大丈夫なんですか?」
「開発者に許可は取りましたので、大丈夫です。むしろ『森夫婦なら何かアイデアがあるんじゃないか』って喜ばれました」
「わぁ」
今回提供されるのは、麻痺効果のある【雷魔法】の入った物。
相棒が興味ありそうだから、三つ目はこれで決定かな。
……で、相棒と念話で確認を取り合って、ついでに知ってる事を話しておこう。
「エフォの複雑な構造の物って……魔法を使うか、生きてないと上手く動かないらしいですよ」
「ほう? ……生きていないと、とは……?」
「ようは、精が宿ってるかどうかっぽいんですよね。生誕の神様の世界だから……生き物になっているか、生き物が駆使する魔法か、じゃないと複雑な物は上手く動かないって話で……」
そう言うと、横で僕らのやり取りを見ていたロンドン橋さんが宇宙猫みたいな顔になった。
「……そうか、だから使い込んだ馬車はスムーズに動くように……魔法を使えば動く法則に気を取られすぎた……延々とトライアンドエラーを繰り返すから、精が生まれる前に次へと行ってしまっていた……生誕の神……なるほど!」
目をかっぴらいたままそう呟くと、システムウィンドウをいくつも開いてすごい速さで何かを書き込……もうとして僕らの方にグルンと顔を向けた。
「今の情報、公開させてもらってもいいか!?」
「「あ、ハイ」」
「辛うじて理性が勝りましたね」
完全に掲示板に集中してしまったロンドン橋さんに、パピルスさんは苦笑い。
僕らとしては、銃ができたらそれはそれで面白そうだから、期待して待ってる事にしよう。
とりあえず、その前身として、この麻痺魔道具は使い道もありそうだから普通に欲しい。
「じゃあ、三つ目はこれでお願いします」
「わかりました」
これで報酬の3点セット。
さすがパピルスさん、ストレートに全部面白い物だったよ。
……なんだけど、パピルスさん的には、銃に関する情報を貰っちゃったから、ちょっと足りない感じがしたらしい。
「そうですね……情報には情報でお支払いしましょう。お二人は、『購入のためのクエストがたらい回しにされて購入出来ない商品』の話はご存知ですか?」
え、知らない。
「……それは詐欺じゃないんですか?」
「恐らく違うようなんですよ……ロングチェーンクエストっぽいんですが……」
ピリオノートのとある場所に偏屈なNPCのお爺さんがいて、そのお爺さんは『幸せになりたいか?』と訊いてくるんだって。
それに『はい』って答えるとクエストが出されて、そのクエストをこなしにいくと……その先でなんやかんや別のクエストが起きて、延々と肝心なクエストがクリア出来ない……って流れらしい。
「……バグじゃないんですか?」
「念のため運営に報告したプレイヤーもいますが、挙動は変わらなかったそうで……なので、仕様なんだとは思いますが」
最近見つかったクエストなんだけど、あまりにもたらい回しにされるし遠方に行かされるから、イヤになって途中で投げるプレイヤーが続出。まだクリアしたプレイヤーはいないらしい。
「へぇ~……なんか都市伝説みたいで面白いですね」
「楽しんでいただけたなら良かったです」
パピルスさんは、そのNPCの居場所をメモして渡してくれた。
暇を持て余した時に試しに行ってみてもいいかもしれないね。
そんな感じで、報酬の受け取りはつつがなく終了したのだった。




